売人
「さて、お前、薬の売人だな?」
カミュが男の首元を掴むと、男は苦しそうに暴れながら頷く。それを見てカミュが少し力を緩めると、男はゲホゲホと咳をして声を上げた。
「俺は、何にも知らねぇんだ! ただ、ハミルトンに薬を売って来いって命じられただけで」
「……ハミルトンだと?」
「ああ! 確かに領主のとこの執事、ハミルトンだ」
カミュの手の力が一瞬緩んだ時だった。男は薬を持っていた自分の手に向かい、躊躇いもなく炎の魔法を放つ。一瞬にして男の指先と薬が燃え、ピンク色の靄がカミュの顔に掛かる。
男は一瞬顔を緩めるが、カミュは男の首をすぐさま掴むと、地面に叩きつける。
そして、男の焦げた指を睨みつけた。
「俺は、ただの亜人とは違うんでな。効かねぇよ、こんな薬。しかし、簡単に吐いた割に、随分強い忠誠心だなぁ」
荒っぽい行動とは裏腹に、静かな怒りを感じる声だった。
ニナはカミュに尋ねる。
「お薬、無いと困るの?」
「まぁ、あったほうが話は早いな」
そう聞くと、ニナはニッと笑い、燃えた薬の袋に向かって手を翳す。
「再生」
ばちっと音が鳴り、そこには燃えてなくなったはずの薬が、袋もろとも再生していた。
その様子を見て、カミュは唖然とした表情を浮かべ、「嘘だろ……」と呟く。
売人の男も、目を見開き、開いた口が塞がらない。
「こりゃ、とんでもない魔法使い様だな」
カミュは「出来た!」と笑うニナに向かって、「よくやった!」と笑った。
「売人に何かあったのがバレると、証拠隠滅を図られるかもしれねぇ。ニナ、悪いがこのまま付き合ってもらうぞ」
「うん!」
カミュは売人とニナを両手に抱え、少し歩いた先の酒場に入る。
酒場の中は、昼だというのに賑わっており、亜人たちが酒を片手に大声で笑っていたが、カミュが入った瞬間に声が消える。
「カミュじゃないか、どうした?」
猫耳の生えた大柄な女性が、厨房から出てきた。どうやら店長のようだ。
「すまねぇ、この子をちょっと見ててくれ。あと、奥の部屋を貸してくれ。代わりに、ここにいる奴らの代金は俺が払う」
亜人の女性は、ちらりとニナとフードの男を見てから頷いた。
「ああ、カミュの頼みなら、もちろん構わないさ。ほら、あんたら盛り上がんな!」
「ひゅう! さすがカミュさんだぜ!」
「いつも、ありがとなー!」
先ほどに勝るほどの歓声が、酒場に響く。皆が笑顔でカミュを称える様子に、ニナも嬉しくなる。
ニナをその場に降ろすと、亜人の女性がニナに、「ほら、こっちにおいで」と手招きをする。
カミュは片手を上げ、「ニナ、すぐ戻るからな。おい! お前らは、あんま飲みすぎんなよ」と言って、フードの男を抱えたまま奥の部屋に入っていく。
亜人の女性は、ニナに果実水を渡し、「ここに座ってお飲み」と椅子を指す。
ニナは言われた通り、椅子に座る。果実水はぬるかったが、ほんのり甘く、ニナは「おいしい」と笑顔をこぼす。
亜人の女性は、ニナをじっと見つめる。
「アンタ、カミュとはどういう関係だい?」
「えっと、ニナはカミュのお手伝いしてる」
「ほぉ、小さいのに偉いねぇ」
そんな話をしていると、蜥蜴の亜人が話しかけてくる。
「カミュさんにはいつもお世話になってるんだ。亜人は皆感謝してるぜ! お嬢ちゃん、ほらこれ食べな」
「あ! パンだ」
「お菓子でもありゃよかったんだけどな」
「パン、好き」
「そりゃよかった。しかしお嬢ちゃん、少し似てるなぁ」
蜥蜴の亜人がじっとニナを見つめ、ニナは首をかしげる。
「何に似てる?」
「カミュの――」
「おい、余計な話してんな」
「いてぇ!」
「カミュ!」
いつの間にかカミュは部屋から出てきていたようで、蜥蜴の亜人の頭を叩いた。
ニナがカミュに抱き着くと、カミュはニナの頭を撫でる。
「ニナ、いい子で待ってたみてぇだな」
「ああ、大人しくしてたよ」
「猫さんジュースくれた。蜥蜴さん、パンくれた」
「よかったなぁ。二人ともありがとな」
「いいって。で、用事は済んだのかい?」
「ああ」
カミュは奥の部屋に視線を向ける。そこには椅子に縄で括りつけられ、下を向きぐったりしているフードの男がいる。
「ちょっと情報を引き出した。気絶しちまったから、騎士団の者を迎えに来させる。そのままにしといてくれ」
「はいよ。まぁ、腕っぷしの強い奴らがうちにはたくさんいるからね。逃がしやしないよ。安心しな」
そう言って、猫の亜人は豪快に笑う。カミュは口角を上げ、「頼もしいねぇ」と笑う。
「ニナ。薬の精製工場の場所が分かったから、このまま向かうぞ」
「はい!」
「この子、連れてって大丈夫かい? うちで預かっておこうか?」
カミュはニナに、ちらっと視線を送るが、ニナは絶対ついていくと顔に書いてある。
それをみて、少し笑い、答える。
「この子はこう見えて、立派な魔術師でね。頼りになるんだ」
その言葉に、ニナはぱっと表情を明るくする。そうして、すこし恥ずかしそうに唇をキュッと上げた。
二人のやり取りに、猫の亜人は目を細め、「そうかい。じゃあ安心だね」と笑った。




