同胞
「同胞たちを、今夜闇オークションで売ると言っていた。すでに出た後なのだろう」
「よくそんな情報をアンタに言うな」
「……同胞たちを救えなかった戦士だと、嘲っていたさ」
「……屑だな。変なこと聞いてすまないな」
「いや、気にするな」
ニナは、カミュとノアの話し声に寝返りを打ち、頭をランタンに打ち付け、「痛っ!」と叫び目を覚ます。
「大丈夫か? ニナ」
「うん……ふぁ。ノア、おはよう」
「おはよう、ニナ。その、脚を再生してくれて、ありがとう。君の願いは同胞を助けた後、必ず守る」
寝ぼけたニナは、微笑みながらノアに抱き着く。ノアは、驚きつつも、慣れない手つきでニナの頭を撫でた。
そんな様子をカミュは微笑ましく見つめ、「うし、じゃあエルフたちを助けに行くか」と言う。
ノアはカミュの言葉に目を丸くして、たじろきながら口を開く。
「付き合って、くれるのか?」
「ん? 当然だろ。ニナの仲間になるんだから。それに、ニナもやる気満々だよな」
ニナは、がばっとノアの胸元から顔をあげ、「まんたん!」と眉と口角を吊り上げて言う。
二人の様子に、ノアはぐっと唇を引き上げた後、「ありがとう」と言った。
こうして、三人は闇オークションの会場に向かうことにした。
「しかし、こんな街中で闇オークションなんて……よくやるなぁ」
「普通のオークションをしながら、VIPに限定して同じ会場で闇オークションをするらしい」
「VIP限定なら入れねえんじゃないか?」
「合言葉を知っていれば入れるそうだ。私が知っている」
「どうして知ってるの?」
ノアはフッと笑い、髪をかきあげる。
「私には諜報部隊がいるものでな。そのうち話そう」
「なんか、すごそう!」
そんな会話をしていると、立派な会場の前にたどり着く。そこでは正装をした男女が会場内に進んでいく。
ノアが颯爽と先に進もうとすると、入り口にいるガードマンに止められる。
「そのような身だしなみの方は、会場に入れることは出来ません」
「何故だ!?」
「いや、俺たちも大概だけど、ノア、お前は絶対無理だろ」
ノアは、白い布切れの上に、カミュの貸した上着を着ているものの、長い間捕らえられていたので汚れがひどい。
「だが、一刻もはやく助けてやらね――ふが」
「すみませんねぇ、こいつ、欲しいものがあるから焦ってるみたいで」
カミュはニコニコしながら、「まだ時間はある。焦って助けられなくならないように、目立つ行動は避けろ」と耳打ちする。
ノアは頷き、カミュは押さえていた口元を離すと、「一旦出直すか」と言う。
ニナが「どうするの? カミュ」と尋ねると、カミュはニッと笑い「エリサから貰ったこれの出番だ」と言って、一枚のカードを取り出した。
「ようこそお越しくださいました~! セームルのエリサ様のご友人の皆様、いつもエリサ様にはお世話になっておりますぅ」
カミュたちが訪れたのは、街の高級ブティックだ。面子も時間的にも、どう考えても追い返されるのが関の山だ。
だが、カミュの手にはエリサから貰った『セームル領主 エリサの紹介状』がある。そのうち正装が必要なこともあるだろうと渡されていた紹介状だ。
「いやーエリサは本当さすがだ。わかってるねぇ。まぁ、エリサ様の威光に預かれるのもここまでか、手札は全部つかっちまった」
「ねぇ~」
「お前たち、領主と知り合いなのか? すごいな……」
「ここの街ではないけどな。用事があってよく来る店とは言ってたがな」
ブティックの主人は手を揉み合わせながら、カミュたちのお伺いを立ててくる。
「あのぅ、それで本日はどういった物をお探しでしょうか?」
「ああ、近くでやるオークションに参加したいんだ。正装を三人分見繕ってくれ」
「かしこまりました」
「あ、それと……その、彼女の身だしなみもお願いできないか?」
カミュはノアを指さすが、ノアは、「私か?」と首をかしげる。
「いや、どう考えてもオマエだろ……」
「修行のため山籠りしていたときなど、この比ではなかったぞ」
「いや、オークション会場は正装していく場所なんだよ。それにお前、女性にこういうこと言いたくないけど」
「ノア、ちょっとくちゃい」
「く、くちゃ――!」
ニナの言葉に、ノアは固まり、カミュはその様子を見て、「あちゃー」と言う。
「ノア、キレイキレイしてこよ?」
「……そうしてくるよ」
そう言って、ノアはフラフラと案内の女性と奥に消えていった。
「さてと、じゃあ俺らも着飾らせてもらいますか」
目の前にずらっと並べられたドレスたちに、ニナは目を輝かせる。
「すごい! 絵本のおひめさまみたい」
「なぁ。これとかどうだ?」
カミュが指した白いドレスを見て、ニナの脳裏にはお姫様が過る。トーチャの血と白のコントラストを思い出させるドレス。ニナはすぐに視線を逸らし、黄色いドレスを指さす。
「に、ニナは黄色のほうが好き」
「そうか」
一瞬ニナの表情が曇ったことにカミュは気が付いた。しかし、必死に話を逸らすニナに、今はまだ語りたくないことなのだろうと思い、そのまま会話を続けた。
「よし! じゃあ俺らはこんなもんかな」
紺色のスーツを纏ったカミュは、いつもよりも大人びて見える。黄色いひらひらのドレスを着たニナは、くるくると回ると花のようだ。
そうして楽しそうに会話をしているところに、カツカツとヒールの音が近づいてくる。
「どうだ? なんだか、どうにもスースーするが……」
「おおお!」
「似合うじゃねーか」
そこには青色のドレスに身を纏ったノアがいた。深いスリットからは白い脚がのぞき、大きく開いた背中からはくびれた肩甲骨が見えている。
髪も、肌も汚れが落ち、立ち姿だけ見ればどこぞの舞台俳優のようだ。
「ノア綺麗! あれ、ノアってロレーヌに少し似てるね」
「あー、言われてみれば。さっきまでは全く似てなかったが」
ニナ達の言葉に、ノアは前のめりになって顔を近づける。
「――!? ロレーヌを知っているのか! 怪我はしていなかったか?」
「ああ、たまたまこの街で出会って、明日の夜に講演を見に行くことになってるんだ。見てる限りでは元気そうだったよ」
「そうなのか……では、無事ということだな」
ふぅっと息を吐き、ノアはこめかみに手をやる。
「知り合い?」
「ああ、ロレーヌは私の双子の妹だ」
「ええ! だから似てるの」
「そうだ。ロレーヌを置いたまま捕まってしまったから、心配していたんだ。明日、私も一緒に連れて行ってくれないか?」
「ああ、いいぜ。うし、じゃあそろそろ、開始時間だな」
カミュがびしっと襟を正すと、ニナも腕を組んで、「うぃ!」と鼻息荒く返事をする。
「相手は闇オークションなんてやる力がある奴らだ。油断するなよ。……じゃあノアの同胞解放作戦、やるぞ」
「ああ、必ずやりとげる」
「はい!」
ブティックのドアを開くと各々こぶしを握り締め、オークション会場へ力強く踏み出した。




