6
デッキを降りながら辺りを見渡すとたくさんの人、人、人で、この中からお祖父様やお祖母様を見つけられるか不安になった。
でもそれは一瞬のことで、見下ろす形になった私の目は肖像画に描かれているお母様によく似た女性が口もとに手をやり涙ぐんでいるのを見つけたから。
直感でわかった。あの方がお祖母様だと。それは私だけでなくウィルも同時に「「お祖母様」」と声に出していた。
「よくわかったね。あの方がベルとウィルのお祖父様とお祖母様だよ」
お祖父様⋯⋯って、お祖母様の肩を抱いている男性だよね。
す、凄い威圧感というか存在感があるというか、現役の騎士様みたいにゴツい。
背も高くて服の上からも筋肉モリモリってわかってしまう体格のいい方がお祖父様?
二週間ぶりの地面に足をつけるなりお祖母様に抱きしめられた。
「ベルティアーナ!ウィルダー!会いたかったわ」
温かい⋯⋯やっぱりこの方がお祖母様だった。
「二人ともよく顔を見せて」
初めて会ったのに懐かしく感じる。
「お祖母様⋯⋯お会いしたかったです」と、言う前に体がフラついた。
地に足がついてからもまだ船に揺られている気がしていたんだよね。
その私を支えてくれたのはお父様でもウィルでもない逞しい腕だった。
そして、そのまま抱き上げられた。
目線が一気に高くなった。
でも⋯⋯縦抱き。
「おお!ベルティアーナよ重くなったな~」
え?重くなった?
「お、お祖父様?」
「おー!ウィルダーも重くなったな!」
嘘!お祖父様は私とウィルを一緒に抱き上げてるんですけど!
二人合わせて100キロ以上はあるのに⋯⋯どれだけ力持ちなの!
「お、お祖父様!降ろしてください!」
私は驚いただけだったけれどウィルは反応が早かった。お祖父様に即抗議しながら暴れていた。
「久しぶりなのだからいいではないか。仕方がないの~」
そう言ってウィルは降ろしてもらえたけれど、私はまだ縦抱っこのままなのはナゼ??
「義父上、義母上ご無沙汰しております」
「ボルド殿も久しいな。疲れているだろうがこのままウチに寄ってもらってもいいか?」
「はい。義兄上と義姉上にもご挨拶させていただきたいと思います。ベルとウィルもそれでいいな?」
私はお祖父様に抱き上げられたまま立派な馬車に乗り込んだ。
まあ、たくさんの人の注目を集めたのは言うまでもないけれど、恥ずかしいよりもその腕が私を大切なものを扱うように感じて嬉しいと思うほうが大きかった。
この時、他国であることとお祖父様とお祖母様に会えたことで淑女の仮面を貼り付けることをすっかり忘れて満面の笑みでいた私を、見つめていた人がいたことをお祖父様以外は誰も気づかなかった。
それから馬車の中での会話で、私が生まれた時とウィルが生まれた時にお祖父様とお祖母様が会いに来てくれたこと。
(お母様の葬儀にも参加されたのね⋯⋯)
その時に帰国するまでずっと抱きっぱなしだったとか⋯⋯ (だから『重くなった』なのね。赤ちゃんと今を比べられてもね)
それも国に連れて帰る勢いだったとお祖母様が『いま思い出しても呆れてしまうわ』って教えてくれた。
楽しい会話のせいか港から一時間かかると聞いていたにも関わらず、あっという間にお母様のお兄様家族が住むバーネット公爵家に到着した。
つい最近まで公爵令嬢だったからか、出迎えのためにズラりと並ぶメイドたちに驚くことはなかったけれど、お祖父様を若くした感じの体躯のいい男性に紹介や挨拶よりも先に「君がベルティアーナか!」といきなり高い高いをされたのには驚いた⋯⋯次にウィルダーにも同じことをしようとして逃げられて残念がっていたけれど当然だと思う。私たちは小さな子供ではありませんからね!
「ねえ、姉上⋯⋯」
「言わないで。ウィルは上手く逃げたわね」
「うん、高い高いをされる姉上を見ちゃったからね。さすがお祖父様の息子だね行動が似ている」
衝撃的だったけれど豪快に笑う伯父様は逞しくて頼りになりそうだった。
それもそのはず伯父様はこの国の騎士団長なのだとか。その前の騎士団長はお祖父様で今でも王宮に稽古を付けに行っているそうだ。
この日はそのまま甘える形でバーネット公爵家で滞在させてもらった。
ちなみに伯母様は一言で言うと見た目はスラリとした長身の凛々しい方だけど、気さくで話しやすい方だった。
元辺境伯家のご令嬢で女性騎士だったらしい。
その時に伯父様と出会い、熱烈な(執拗い?)アプローチを受け続け絆されてしまったとか⋯⋯
気付けば楽しい晩餐と会話で緊張なんてどこかに飛んでいっていた。
残念なことに仕事で従兄には会えなかったけれど、祖父母や伯父夫婦を見ているときっと従兄のモルダー兄様ともいい関係が築けると思う。
明日はお婆様から受け継いだディスター侯爵家の別邸に向かう。
また家族全員での生活が明日から始まる。




