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バーネット公爵家の皆様に見送られ、今日から我が家となるディスター侯爵家の屋敷に向かう。
「楽しみだね」
「うん」
「すでにベルの専属侍女も、ウィルの侍従も雇っていると聞いている。その辺は抜かりはないそうだ」
馬車に揺られ1時間もしない間に馬車の動きが止まった。どうやら到着したみたい。
馬車の外からノックと扉を開けてもいいかの確認の声が聞こえた。
それにお父様が応えお父様、ウィルが順に降り、次に私が降りようとしたら手を差し出してくれたのは⋯⋯
「お兄様!お会いしたかった!」
思わず馬車から飛び降りるように抱き着いた。
だって目の前には私たちの兄であるレックス兄様がいたから。
お父様と同じ濃紺の髪に切れ長のアイスブルーの瞳。
スラリと細身の長身で、お父様によく似た顔は妹の私が言うのもなんだけど恐ろしい程の美貌だ。整い過ぎて冷たくも見えてしまう。
でも、私とウィル限定で甘く優しい自慢の兄だ。
ギュッと私を抱きしめて惜しげもなく笑顔を見せるお兄様に思わず実妹なのに見惚れてしまう。
「ああ私も会いたかった。ずっと家族で暮らせるこの日を待っていたよ」
私より6歳年上のレックス兄様は現在23歳。15歳でこの国カルセイニア王国へ留学し、成人と共にウォール公爵家から籍を抜け、お祖母様からディスター侯爵家を18歳で受け継いだ。
離れていても手紙のやり取りは月に最低2回はあったし、学生の間は長期休暇の度に帰ってきては、私とウィルをそれはもう可愛がってくれた。
今は王太子殿下の側近として働いている。
「昨日はバーネット公爵家の皆さんの強烈な歓迎に驚いただろう?」
「ふふっ最初はびっくりしましたが、皆様がとても良くしてくれたのです。あ!モルダー兄様には会えなかったのです」
「ああ、モルダーは要領が悪いからね。殿下に捕まって視察に連れて行かれたんだ。私のように前もって休暇届けを出さなかったアイツが悪い。自業自得だよ」
「そうなんですね。僕もモルダー兄様に会えるのを楽しみにしていたんです。稽古をつけてほしくて⋯⋯」
ウィルは幼い頃から鍛錬を積んできて、お祖父様や伯父様がこの国で騎士をしていると聞いた時から移住するのを楽しみにしていた。
そして現在はモルダー兄様も騎士団に所属しているらしい。
「モルダーもベルとウィルに会いたがっていたから視察から帰ってきたらすぐに会いに来るさ」
その後、昼食を食べながら私には3歳年上の専属侍女のハンナを、ウィルには家令の甥っ子でレックス兄様と同じ歳のアルトを紹介してくれた。
私たちがそれぞれの部屋に案内してもらっている間にお父様とお兄様は2人だけで大切な話があるとか⋯⋯
夕食まではゆっくりするように言われたけれど、私はハンナにお願いして邸内をウィルと一緒に案内してもらうことにした。
いろいろ案内してもらったけれど、応接間にサロン、図書室、それに娯楽室、一番気に入ったのは庭園。
なぜならディスター公爵家の庭園とよく似ていたから。
祖国を離れ嫁いで来てくれたお母様に少しでも心穏やかに過ごせるようにと、お父様がカルセイニア王国風の庭園を真似て作ったとお兄様から聞いたことがある。
その手入れの行き届いた庭園をウィルと散歩をした。
その日から時間の許す限り家族で過ごした。
レックス兄様は王太子殿下の側近をしているだけに、とても忙しいようでなかなか休みが取れないと嘆いていた。
暫くはお兄様が受け継いだ領地の運営をお父様が引き受けることになった。
まあ、このお父様。元宰相でディスター公爵家の領地を栄えさせた手腕の持ち主ですから実績がありますもんね!
それにまだ40歳を過ぎたばかりで隠居するのは早すぎるもの。
早いもので私たちがカルセイニア王国に移住してきてから、もう一週間が経つ。
邸にも環境にも慣れてきた。
お兄様の休暇は昨日で終わりだ。
名残惜しそうに何度もふり返りながら馬車に乗り込むお兄様を見送った。
今日は私とウィルは編入するための試験を受けに学院へ向かった。




