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寝支度を整えベッドに入ってからあの出来事が頭に浮かんだ。
壇上には卒業の祝いの言葉を述べる王太子殿下だけしかいらっしゃらなかった。
なのに⋯⋯何故ヴォルフ殿下が卒業パーティーの会場にいたのかしら?
ヴォルフ殿下か⋯⋯鋭い目つきで、彼女たちを威嚇しているようだった。
まるで、彼女たちから私を守ってくれたかのように⋯⋯
青みがかった銀髪に、瞳は琥珀色。
初めて近くて見たけれど、不機嫌そうに見えて、実は繊細な人なのかもしれないと思った。
そして、まるでオオカミのようだと感じた。
実際にはオオカミなんて絵本の中でしか見たことないし、そんなことを思ったなどと人には言えないけれどね。
何だか心が温まるような、そんな気持ちで眠りに落ちていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
~ウィル視点~
僕も最終学年になり、学生生活もあと1年。
姉上が卒業してから悪意ある噂が僕の耳にも入ってくるようになった。
『卒業資格制度があるなんて知っていたか?』
『ああそれな。生徒手帳に記載されていたぞ』
『じゃあ本当にそれだけの実力がディスター侯爵令嬢にはあったってこと?』
『言いたくないけれど彼女の実力を知らないだけに⋯⋯』
『ああ、金か?』
『それか⋯⋯ディスター侯爵家の権力か』
『お、おい!やめろ!』
『え?やだ今の聞こえていないよね?』
それだけ大きな声で喋っていたら聞きたくなくても聞こえるさ。陰で人のことをとやかく言う前に情報ぐらい集めろよ。
姉上はレフタルド王国の王 王太子の元婚約者候補だぞ。
学力も礼儀作法もマナーだって完璧だ。
まあ、それを教えるつもりはないけれど、お前たちの顔は覚えたよ。
「あんな奴らの言うことなんか気にするな」
そう言って僕の肩を軽く叩くコイツはレイモンド・ハント伯爵子息だ。
見た目は厳ついが気の良い奴だ。
「別に気にしてないさ」
「それより、何時になったら会わせてくれるんだよ」
「またかよ」
レイモンドは兄上に憧れているんだそうだ。
少しでも近づきたくて、卒業後は王宮勤めを希望している。こんな厳つい見た目で学年首席だったりする。
「う~ん。僕も兄上に会えるのは朝食の席ぐらいなんだよな。帰りは遅いし王太子殿下の側近やってるからな」
「忙しいのは分かってはいるんだけど、あの人のお陰で我が家は没落せずにすんだからな。どうしても直接お礼が言いたいんだよ」
「兄上は『お礼は不要だ。当然のことをしたまでだ』と言っていたぞ」
「それでもだ!必ずディスター侯爵の下で働く!俺はあの人ようになりたいんだ!そして今度は俺があの人を助けたい」
「まあ、頑張れ」
このレイモンドが有言実行で少し先の未来、兄上の右腕となることも、僕にとって唯一無二の親友になることも、成り行きであの方に感謝されることになるなど、まだ誰も知らない。




