第3話 友人
異空結界『無限牢獄』。
勇者オーガに発現したこの結界には、極めて珍しい特殊な能力がある。
それは時間の鈍化。
無限牢獄の中では時間がゆっくりと流れ、更に老化も止まる。
無限牢獄の中で一年過ごしても外の世界では一日しか経過することはなく、そのおかげでルイシャは無限牢獄に閉じ込められた時、非常に長い時間を修行に費やすことができた。
桜華は再びこの方法を使い、ルイシャたちを鍛えると言った。
「シオンが攻めて来るまで猶予は六日。通常であればそれだけの期間ではたいした修行はできません。しかし無限牢獄の中であれば六日は六年になります。それだけの時間があれば、あなたたちを十分に強くすることが可能です。幸いなことに師に困ることはないですからね」
桜華は少し離れたところで話している四人の王たちを見る。
魔王、竜王、鬼王に妖精王。そして勇者のオーガ。あらゆる分野のスペシャリストがここに揃っている。
まさによりどりみどり。なにを学ぶにも困ることはない。
「でも桜華さんは無限牢獄の能力を手放したんじゃ……?」
「はい。ですので習得し直しました。新しい無限牢獄で修行を行います」
「そんなことできるんだ……」
同じ異空結界を覚え直すなど前例がないが、桜華は一般的な常識で測ることはできない。
彼女は歴代最強の勇者なのだ。
「時間の余裕がありません。今すぐに無限牢獄に入り、修行を始めましょう」
「分かりました。でもその前に、少し話したい人たちがいるんです。いいですか?」
「はい、分かりました。私は王たちと準備をしておきます、用が済みましたら教えて下さい」
そう言って桜華は王たちのもとに行く。
彼女を見送ったシャロは、ルイシャに尋ねる。
「話しておく人って誰なの?」
「シャロも知ってる人だよ。もうすぐ来るはずなんだけど……」
ルイシャがきょろきょろしていると、広場にその人物が現れる。
「あ、来た!」
まず現れたのはルイシャの同級生でありこの国の王子であるユーリ。そしてその後ろには彼の従者であるイブキもいる。
「呼んだのってユーリたちのことなの?」
「それだけじゃないよ。みんな呼んだんだ」
ルイシャがそう言うとユーリの後ろから同じクラスの同級生がぞろぞろと着いて来る。
ユーリ・フォン・エクサドリア。
イブキ・アイアンハート。
バーン・バレッドレッド。
ドカベ・アバレシア。
メレル=レバティア
チシャ・ロックホムズ
カザハ・ホマンデーナ
ベン・ガリダリル。
ローナ・ホワイトベル。
パルディオ・ミラージア。
総勢十名。
ルイシャとシャロとヴォルフとアイリスを除いたZクラスの全員が集まり、ルイシャのもとにやって来た。
「連れて来たよルイシャ。みんな王都にいて助かったよ」
「ありがとうユーリ。大変だったでしょ」
「構わないさ。僕も戦いの前にみんなと会っておきたかったからね」
ユーリに礼を言った後、ルイシャはクラスメイトたちの前に立つ。
緊張した面持ちのルイシャ。彼がみなを集めたのは、全てを説明するためであった。
テスタロッサたちを救い出し、桜華と和解をした今、そのことを隠す必要はなくなった。
おまけにこれから今まで一番の大きな戦いが待っている。
それが一度始まってしまえば、後戻りはできない。
ルイシャは戦いに集中するため、心残りを全て消してから戦いに臨むと決めた。なのでユーリに頼んでクラスメイトを全員集めたのだ。
「大変な時なのに集まってくれてありがとうみんな。みんなに伝えたいことがあるんだ」
シオンの宣言のせいで王都も混乱に包まれている。王都から逃げ出す者もいれば、王都に逃げ込んで来る者もいる。
小さな諍いがそこら中で起き、兵はその対処に追われている。
クラスメイトも各々不安な日々を送っていた。特に顔見知りであるシオンが神と知り非常に混乱していた。
それでも彼らは、ルイシャのために集まってくれた。
「それじゃあ話すね――――」
ルイシャはみんなに自分のことを説明した。
無限牢獄に入ったこと、魔王と竜王に鍛えられたこと、その二人を助けるために今まで動いていたこと、そして今は二人を助け、勇者とも協力関係にあること。
そしてこれから再び無限牢獄に入り、神の正体であるシオンと戦うこと。
ルイシャはそれらをクラスメイトたちに包み隠さず伝えた。
「……ということなんだ。いきなりこんなこと話したら混乱するよね、ごめん。とにかくこれから王都は戦場になると思うからみんなも安全なところに――――」
「おうルイシャ。おめえ黙って聞いてりゃあなに言ってんだ?」
そう割り込んできたのは、友人のバーンだった。
彼は目に怒りを滲ませ不快そうな顔をして、ルイシャのすぐ側にやってくる。
「バーン、怒る気持ちは分かるけどここは……」
「あァ!? 俺がなんで怒ってんのか分かってんのかよルイシャ!」
「それは僕がこんな大きな事を黙っていたからで……」
「違ぇよ! 俺はお前がそんな大変な目に遭ってんのに、俺たちを今まで頼ってくんなかったのを怒ってんだよ!」
バーンがそう叫ぶと、ルイシャは目を見開いて驚く。
すると友人のチシャが前に出てきてバーンに同調する。
「バーンの言う通りだよ。なにか隠してるのは分かってたけど、まさか魔王と竜王、更に勇者オーガが出て来るなんて規模がデカすぎるよ。確かに僕たちは頼りないかもしれないし、そんな大きなこと話しずらいかもしれないけど、相談してくれなかったのはむかつくかな」
「チシャ……」
「そーいうこった。みんなもそう思うよな?」
バーンがクラスメイトに尋ねると、他の者たちも「そうだそうだ!」「もっと頼ってくれよ!」とそれに同調する。
彼らの中に巻き込まれることを迷惑に思うものなど、一人もいなかった。みんなルイシャの力になりたいと心から思っていた。
「つーわけだルイシャ。お前は話してスッキリと戦いに臨むつもりだったろうが、話したのが運の尽き。俺たちゃ最後まで付き合うぜ? どっちにしろ負けたらみんな死ぬんだろ? なら思い切り暴れなきゃな」
「うん……ありがとう」
ルイシャは涙が出そうになるのをぐっと堪え、笑顔でお礼を言う。
これで思い残しはない。シオンとの戦いに全力で臨める。そう思っていると桜華が彼らのもとに近づいてくる。
「よい友を持ちましたね、ルイシャ」
「はい。僕にはもったないないくらいです」
「……本来ならもっと別れの時間をあげたいところですが、そろそろ無限牢獄に入って下さい。今は一分一秒を争う事態。猶予は残されていません」
「はい。分かりました」
ルイシャは頷いて桜華のもとに行く。
次の戦いに負ければ、ここにいる者は全員死ぬ。友人と話したいことはいくらでもあるが、今は一秒でも長く修行する方が大事であった。
友人たちもそれを理解しており引き留めなかったが、バーンは「あ」となにかを思いつき一歩前に出る。
「待ってくれ! 勇者オーガ……いや、今は桜華さん、か。お願いがあるんだ」
「お願い? なんでしょうか」
桜華がそう尋ねると、バーンはその場の誰も想像していなかったことを言う。
「俺もその無限牢獄ってとこに入れてくれねえか! そんでルイシャみてえに鍛えてほしいんだ!」
バーンの頼みを聞いた桜華は驚いたように目を丸くした後、すっと目を細め冷静な表情になる。
「……これは遊びではないのですよ? 中での特訓は過酷極まるものになります。下手をすれば命を落とす可能性もあります。それに修行について来れそうにない者は、容赦なく無限牢獄から追い出します。私たちに足手まといの世話を焼く余裕はないのですから」
桜華はあえて冷たく突き放すように言う。
しかしバーンは一切めげることはなかった。
「それでも構わねえ! お願いだ! 俺も友達の力になりてえんだ!」
バーンはそう言って深く頭を下げる。
すると他のクラスメイトたちも、
「ぼ、僕もお願いします。一緒に入れてください!」
「私も! お願いします!」
「おでも!」
「僕からも、お願いいたします」
「HAHA……ここで逃げたらダサすぎるよね☆」
みな頭を下げて、桜華にお願いする。
それを見た桜華は口元を緩め、優しい表情をする。
「……分かりました。十五分後に結界を作ります。それまでに準備してください」
そう言うとクラスメイトたちは「はい!」と元気に返事をして急いで準備を始める。
その間ルイシャは桜華に近づき尋ねる。
「桜華さん、本当に大丈夫なんですか? こんな人数を無限牢獄に入れて」
「問題ありません。300年間結界を維持することに比べたら一週間程度何人入れても大丈夫です。テスタロッサさんとティターニアも結界の維持をサポートしてくれますからね」
確かに、とルイシャは思った。
桜華は一人で300年間結界を維持し続けた。一週間であれば多少人数が増えても問題なさそうだった。
「ふふ。他人より自分の心配をした方がよいですよルイシャ。あなたには四人の王と私による特別メニューを受けてもらうのですから。頑張って下さいね」
「は、はい……頑張ります」
一抹の不安を覚えながらも、首を縦に振るルイシャ。
こうしてルイシャとそのクラスメイトたちは決戦の時まで無限牢獄に入ることになるのだった。





