初めて瞬間移動を体験しましたわ。
いつの間にか眠っていたらしく、馬車の揺れで目を覚ました。
ゴトゴト、ゴトゴト
仔牛の気分だ。ただ違うのは私は望んでこの馬車に乗ったことだろうか。
腰の痛みに我慢が出来なくなったころ、ようやく馬車が止まった。
誰かと誰かが話しているのが聞こえる。
「_____ホント災難だよなあ」
「ほんと。俺絶対来たくなかったわ。帰れんのかな・・・。」
「おい、やめろって。俺まで不安になるじゃねえか」
「あ、ごめんごめん。」
そんな感じでどんどん声は遠ざかっていく。
多分馬をどこかにつなげに行くんだろう。
その時、聞き捨てならない言葉を耳にした。
「いや、でもホント災難だよなあ。クルブジに来るなんて。」
それを機にどこかへ行ってしまったのか声は耳に入らなくなった。
クルブジ・・・・!?
私が行きたかったのは真逆の方向にあるサンペンと言う国だ。
そこで、人の気配もなくなったし外に出てみる。
どこだ、ここは。
周りにはおそらくこの敷地を囲んでる壁。反対側には馬小屋なるものがある。
今のところは人がいないがいつ来るかわからない。
そこで一刻もこの場を離れるべく、騎士の宿場に入った時と同じロープを使って外に出る。幸い壁の外は森で誰もいない。それをいいことに難なく脱出。
辺りに誰もいないことを確認し、一息つく。
さて、これからどうしよう・・・。
とりあえずこの国から脱出しなければ・・・・。
この国、クルブジは、独裁政治の独立国家で王として魔王が鎮座する魔法の国なのだ。そのためこの国は常に魔王に見張られていて悪さができない、らしい。
そして、魔王は絶対零度で悪人には決して情けをかけないんだとか。
つ、ま、り。国から許可もなく逃亡して無許可でこの国に入った不法侵入者あんど不法滞在者の私は魔王に見つかり次第殺されてもおかしくない。
逃げなければ・・・・!!!
まずはさっき出てきた塀を一周してみて門を探す。そして、その門から、外へと続いている道をたどっていけばとりあえずは町にでも出るだろう。
そこからは人に道を聞いたりして別の国へ逃げればいい。
私が行こうとしていたサンペンからは遠ざかってしまったので、ほかの国へと行こう。そして地味に、ひっそりとした幸せをつかもう。
そう決意して塀をたどって歩き始める。
・・・・・・・・・。
決意したときは真上にあった太陽が今は沈む寸前だ。
「・・・広すぎですわ。」
何時間歩いたんだろう一向に門が見える気配がない・・・・。
もしかしたらここは誰か偉い人の屋敷なのかもしれない。だからこんなにも広いんだ、きっと。
とりあえず今日はもう休もう。そう思って持ってきておいたサンドイッチを鞄からだして食べ始める。
グルルルル・・・・グルル
さっきから奇妙な音?鳴き声?がする。
もしかしたら森にすむ動物がいるのかもしれない。
警戒してすぐそこにあった木の棒を掴む。
ガサガサっ・・・がさっ
来た!!!
茂みから現れたのは豹だった。
体が動かない。このままじゃ殺されるのに指一本も動かない。
それほどこの豹は、威厳があった。
動けば殺す、そんなことを言われているようで動けなかった。
冷汗が背中を伝う。震えるほど怖いのに体が震えることを拒否している。
どれほど見つめ合っていただろう。
2,3秒かもしれない1分かもしれない。
でも私には永遠のように感じた。
先に行動を起こしたのは豹だった。
豹は突然私に興味をなくしたように茂みに入って行った。
・・・・・・・なんだったんだ。
まずそうだった、とか?
とにかくまずはここから逃げなければ。
気が変わって戻ってこられでもしたら今度こそ確実に死ぬだろう。
急いで豹が入って行った茂みとは逆方向に歩を進める。
10分くらい歩てその場に腰を下ろす。
とりあえずはここで少し休憩しよう。そう思い水を取り出す。
「女、なぜこんなところにいる?」
突然低い声が後ろからして口に含んでいた水を吹き出してしまう。
周囲を見渡すと私の後ろに真っ黒のコートに真っ黒な髪をした男性が立っていた。もう辺りは真っ暗なので顔はよく見えないが目だけが赤く光っている。
目だけが赤いことといい、全体的に黒いとこといい、さっきの豹にどことなく似ている。
「おい、聞いているのか」
この人の機嫌を損ねるとやばそうだと本能で感じ取った。
「はい・・・あの、迷子になってしまって・・・。」
これであわよくば外に出る道も教えてもらえる、とっさにしてはいい考えだった。半分事実だし。
けれど、男はお気に召さなかったのかチッと舌打ちをしてさらに低い声で話しかけてくる。
「どこから来た」
「・・・・・・(どうしようどうしよう)」
「・・・答えられぬか」
そう言って男が取り出したのは月の光に反射してキラリと不気味に光る剣だった。
殺される。本日何度目かわからない身の危険を感じる。
「カルトニアから・・・・来ました。」
もうこうなったら本当のことを話そうと声を絞り出す。
それで死んでもあの変態親父に飼い殺しにされて死ぬよりよっぽどましだ。
それに決別を告げて出てきた今、私の死を悲しむ人はいない。
「なぜカルトニアから来た?」
「家出してきました」
男が少し目を見開く。
「いつ家をでた?」
「今日です。」
そこで男は大げさにため息をつく。
「とっとと帰れ。ここはお前がいるべきところではない」
「わかりました。明日、この国を出ていきます」
あえて帰るとは言わない。
もともと、この国を出てほかの国にわたるつもりだった。
問題は全くない。
男は私を見透かすようにじーっと見た後いきなり近づいてくる。
驚きで固まっていると、腕を掴まれて立たされた。
「へっ?」
なんとも間抜けな声を出してしまった。
立たされて間近になって見えた顔はとんでもない美形だった。
でもその眉間にはくっきりと深い皺が刻まれている。
「こい。今日くらいは泊めてやる」
そう言って歩き出そうとする。
「あっ、いや、結構ですわ。」
そう言って身をよじるも次の瞬間辺りは森ではなくどこかの部屋に変わっていた。
「・・・・へ?なんで・・・?」
瞬間移動、というやつだろうか。
「あそこに一晩いたら食われるぞ」
親切で泊めてくれるのだろうか・・・。
しかし男の表情からは何も測れない。ただ、相変わらず眉間にしわが刻まれているだけだ。
「あ・・・・・。すみません。ありがとうございます・・・。」
親切というならばお礼を言わなければ。
すると男はフンっという風に身を翻して隣の部屋に行ってしまった。
この部屋と男が行った隣の部屋はドアでつながっている。
この部屋を貸してくれる、ということなのだろうか・・・?
ありがたく使わせてもらおう。
ベットは気が引けるから、とりあえずソファで寝させてもらうことにする。
それにしても豪華な部屋だな。それに無駄に広い。
あの男は何者なんだろう・・・・
そんなことを考えているうちにいつの間にか私は眠りに落ちていた。
___________
______
___
「__い、おい、起きろ。朝だ。」
低いけど心地いい声がする。でも、知り合いにこんな声の人はいない。
不審に思い閉じていた瞼を無理やり開ける。
「・・・へっ!?誰?」
間近に整った男の顔がある。
まて、この顔どこかで・・・。
あ、昨日の泊めてくれた人か。
「あっ!!すみません!泊めてくださってありがとうございます」
上半身を起こして軽く頭を下げる。
「いや、いい。」
明るいところで見る男の顔はやはり美形だった。
それに長身で細身だ。きっとモテるんだろうな。
眉間にしわは刻まれたままだけど。
「あ・・・。では、本当にありがとうございました。
・・・・・・どこから出ればいいですか?」
朝には出ていく約束だ。
でも、道がわからない。そもそも、ここどこだ・・・
「えっ・・・・。ああ、そうだったな。」
なぜか男は少し残念そうな顔をした、様に見えた。
と、その時
きゅるる~
と妙に高い音がした。発生源は私のお腹だ。
かあ、っと顔に熱が集中して顔が上げられなくなる。
「っフ」
その声に顔を上げると男が笑っていた。
ずっと眉間に皺だったのでギャップに驚く。
「飯くらい食っていけ」
微笑みながら男は言う。
「あ・・・でも、迷惑じゃ・・・」
「よい。」
結局ごちそうになってしまった。
お世話になりっぱなしだ。いつか、また会ったら恩返しせねば!!
そこで部屋の扉がノックされる。
「失礼します」
入ってきたのは透けるような金髪のイケメンだった。
そこで、私を見て固まる。
「あ・・・・。では、そろそろ失礼します。本当にありがとうございました」
ペコっとお辞儀して部屋を出ようとする、と後ろから腕を掴まれた。
振り返ると黒髪の男が私の手を掴んでいる。
その表情はどこか戸惑いが浮かんでいる。
「・・・・送っていく。」
「え・・・。でも、そこまでお世話になるわけには・・・・」
「いい。送ってくからちょっと待ってろ」
そう言い残して金髪の方に行って何か話し込んでいる。
とてもじゃないが割って入れる雰囲気じゃなかった。
それにしても・・・・。
昨日私は男にこの国を出ていくと告げた。きっと男は国に帰る、と解釈しているんだろう。
そして私は自分がどこから来たのかも言ってしまっていた。
送ってくれるとはどこまでだろう・・・?
とりあえず私がいた国までではないことを祈った。




