ホームシックなのですわ。
今までは魔王様を説き伏せて使用人の部屋で暮らしていましたが(魔王様は私が最初泊めていただいた客間を利用するように言ってくださった)これからは騎士です!!
憧れと汗で出来ている騎士です!!
だから私は祖国にいた時と同じように騎士の寮で暮らすのだとばかり思っていたが、魔王様からは何の言伝もない。
大事なことなので聞いてみた。
すると魔王様はすごい剣幕で
「むさくるしい男どもばかりの寮にお前ひとりおけるか!!!!」
と怒鳴ってきた。
そんなに怒られると思っていなかったので、迫力に押されてびくついてしまう。
すると一転
「あぁ、すまないアンナを怖がらせるつもりでは・・・・・」
とオロオロしはじめた。
情緒不安定ですか・・・?
「と、とにかくアンナを騎士の寮に住まわすことはできない」
最後に魔王様はそう締めくくる。
「では、私はこれからどこで就寝すればいいのでしょうか?」
別に物置小屋とかでもいいのだが・・・・
「ん・・・そうだな・・・。」
そこで魔王様はひらめいた!!という心の中を全快にしたような顔をして、言った。
「アンナには俺の自室の隣の部屋で俺の護衛をしてもらいつつ就寝してもらおう!!」
「ですが、そういった役目の方は他にもいるのでは・・・?」
そもそも私はよそ者だ。ここまで近づけるとほかの者も黙ってないだろう。
「護衛の者は多すぎるくらいがいいのだ。では、今宵からそのようにしろ」
この国で一番強いのは魔王様だから護衛が必要がないし魔王様も護衛を鬱陶しがって寄せ付けてない、というのを私が知るのは数週間後だった。
その夜___
魔王様の隣の部屋と言うのは・・・・・・
隣の部屋、というか・・・・中が扉で繋がってるんですけど・・・
その扉に鍵がついてないんですけど・・・・
と言うものだった。
コンコン
「アンナ?起きているか?」
「はい、起きています」
そう言って私は扉を開ける。もちろん魔王様の部屋と繋がっている扉だ。
扉を開けた先にはいつもよりもシンプルなシャツにズボンといった格好の魔王様が立っていた。
おお、さすが美形。何を着ても様になる
なんてことを考えて視線を上げると魔王様が固まっていた。
え・・・!?どうなさった・・・?
そこで魔王様の視線が私の服に集まっていることに気付く。
あ、やべ。ネグリジェで魔王様迎えちゃったよ。
「すみません。何か羽織ってきます」
そう言って部屋に戻ろうとしたが私の手を魔王様が掴んで引き戻す。
「あの・・・?」
なんだろうか?急ぎの用事・・・?
「アンナは・・・付き合っている恋人は・・・・・?」
恋人・・・?婚約者のせいで出来ませんでしたよ。
その婚約者も婚約者って認めたくないんだが・・・・・
そうだ。私は今アンナなのだからあんなロリコン野郎と婚約していたなんて事実もない。筈。っていうか、ない。うん、ないのだ。絶対ない。
「いません。」
少しだけ魔王様の握る力が強くなる。
「では・・・・・」
魔王様が何か言いかけたところで、部屋がノックされる。魔王様の方の部屋だが。
「お呼びですよ」
そう言うと、後ろ髪をひかれながら、といった様子だが部屋に戻って行った。
図らずもロリコン野郎のことを思い出したせいで故郷のことまで思い出が蘇ってきた。
兄様達や母様、父様、弟君は元気にしているのだろうか・・・・。
もちろんアンナや使用人のみんな、よく一緒に遊んでくれた人たちのことも気になる。
いつか・・・・いつか、帰れたら・・・・
いや、駄目だ。自分で決めて出てきたのだから自分から呼ばれてもいないのに帰るなんて非常識なまねはできない。
そもそも、あの婚約でうちにメリットはなかったのだ。
別にうちは金銭面で困っているわけでもない。というか割かし裕福な方だ。
むしろ金に困っていたのはロリコン野郎のほうだ。
私も貴族らしく政略結婚するならするで高を括っていた。
だがそれは我が家に有益をもたらす場合だ。
ロリコン野郎との結婚は、うちの金を使い込まれて終わりだろうと分かりやすすぎる未来が見えていた。
なぜそこまで言い切れるのかと言うと、そうなった家が過去にたくさんあったのだ。
ロリコン野郎の餌食となった可哀想な家が・・・・。
幸いうちには娘は一人なので、私が家出なんなりしても、「では、妹さんを・・・」なんてことにはならない。
あのロリコン野郎ならやるのだ。確実に。
だから家を出た。ほかにももっといい方法はあるだろうが、私のその時のちんけな脳みそじゃこれが精いっぱいだったのだ。
皆に、会いたいなあ。
自分から家出しといて身勝手な話だが、家族のことは大好きだったのだ。寂しくないはずがない。
もちろん家族だけでなくほかの人達も。
気づけば頬に熱い何かが伝っているのが分かった。
それは雫となって滴り落ち手にぽつり、と当たる。
手に当たるころには冷え切ったものになっているのが、暖かった家族もこんな風に私に対して冷たくなっているのではないかと不安になる。
気づけば涙は止まらなくなっていた。
深く深呼吸するも喉が締め付けられていてうまく息が吸えない。
そこで扉が何の前置きもなしにガチャリ、と開いた。
「アンナ・・・?」
魔王様らしい。涙のため視界がぼやけてはっきりとは分からないがさっき着ていた服と配色が同じだし髪も黒い。
何より・・・・声が魔王様の優しいいたわるような声なのだ。




