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第四話で、やっと物語が動き出します。ここからの展開は早そう。
店を出て三時間後。
信じられない事に、シンはブルードラゴンを捕獲した。
エイラという女は、確かに「驚異的な吟遊詩人」だった。
「弱体化」の呪歌は、ブルードラゴンに良く効いた。魔獣は、ある程度弱らせてからの方が捕獲しやすい。「弱体化」したブルードラゴンをアレンとローランが更に弱らせ、適度な所で攻撃停止命令を出すのもエイラだったし、それでもシンが捕獲に失敗し、あわやと言う所で「沈静化」と「眠り唄」でドラゴンを眠らせたのもエイラだ。
ドラゴンが眠っている間に休息を取り、捕獲失敗で怪我を負ったシンの傷をヒールポーション(これも、例の不思議な店にエイラが預けていたものらしい)で治す。
魔獣使いという能力は、魔獣を従わせるだけの精神力が必要だから、休息は確かに必要だった。
「普段はあまり前には出ないから、攻撃避けるの下手なんだよな。シンは」
捕獲失敗の折にかなり酷い怪我を負ったせいで、再チャレンジを渋るシン。それをなんとか宥めて、何なら今度は攻撃を喰らう前にアレンが割って入るという約束をさせられた。となれば、こんな憎まれ口も出てしまうものだ。
「エイラも前には出ないけど、攻撃力は……」
思い出してしまったのだろう。ローランが顔を青ざめさせた。
「言っとくけど、あたしが攻撃に参加したら奴を殺しちまうからね。手加減なんて器用な真似出来ないんだから」
確かに、エイラの一撃のえげつなさは、アレンにとっても衝撃的だった。
恐るべし、エイラのセカンドスキル。毒持ちシーフの能力。
てっきり、罠の解除をしたり、モンスターから宝物を掠め取るぐらいの能力だと思っていたのだが。
ともあれ、20回程のトライで、シンはブルードラゴンの捕獲に成功した。
おかげで、戦闘力は爆上がりだ。
ドラゴンの皮膚は、硬い鱗に覆われており、魔法耐性まである。おまけに、ブルードラゴンだから氷のブレスも吐くし、何と毒や麻痺は無効な上に治療の魔法すら使える! ……あくまで、本人にしか効果はないが。
「冒険者失格」と言われた時はムッとしたが、そう言われても仕方なかったかもと、今になって思えるようになった。
アレンたちには、参謀が必要だった。
「エイラ……いや、エイラさん。いやいや、姐御と呼ばせてください!」
シンの言葉に、エイラはまんざらでもないようだ。
だが、口から出てきたのは、
「何を言ってんだい。あたしは、ただのお手伝いだよ。あんたらが、ちゃんと目的を果たしてこそ意味があるんだろうが」
という言葉。
「そうなんですけど、このままずっと面倒見てもらったら助かるなー、なんて。アレンは王女様と結婚して侯爵とかになるんだろうし。そうなったら冒険者なんかやってられないし」
「おいら、ブルードラゴンなんか手に入れちゃったから。餌の確保に魔物討伐はしないといけないし」
ローランとシンのテンションが、いきなり下がったようだ。
そう。ドラゴンは何なら宝石でも命を繋ぐ事は出来るらしい。だが、それは現実的でない。魔物を狩って肉を与えるのが手っ取り早いに決まっている。
問題は、その狩りを今後はローランとシンの二人で行わなければならないという事。
「まだ、目的を達してもいないのに、後の心配してどうすんのさ。それに、ドラゴンの扱いも二人での連携も、今から練習したら良いだけの話だろ?」
言われた通りなので、二人とも納得するしかない。
「でも、姐御はこっちが本職なんでしょ? だったら店をやめて、冒険者に戻ろう思わないんすか?」
シンがそう言うのももっともだ。吟遊詩人だと言うが、エイラのスキルは酒場で歌っていたような吟遊詩人のものではない。
呪歌を奏でて、ドラゴンを眠りにつかせたり弱体化させるような、冒険者のスキル。
「言っとくけど私を仲間に入れるのに、あんたらじゃ器量不足だからね」
話は終わったとばかりに立ち上がる、エイラ。
弁当には限りも消費期限もあるから、出来るだけ早く先に進みたいようだ。
地下7階あたりになると、敵層はがらりと変わる。
もう、本当にミスリルの装備様々、ブルードラゴン様々。でも、やっぱり一番光って見えるのは、エイラの「呪歌」。
ちなみに、「弱体化」や「沈静化」ではなく、最初から「眠り唄」を演奏してもらった方が有り難いというリクエストはしておいたが、「呪歌にも効きやすい順番がある」と拒否された。
「先に言っておくけど、確実に「眠り唄」が効くのは、小物かドラゴン系の魔物だけだ」
「なんでですか?」
「このリュートは特にドラゴン系に特攻効果があるやつだから」
「そう言う使い分けだったんすか!」
そう。エイラはドラゴン系の魔物に呪歌を使うときだけリュートを使っていて、他の魔物の時は小さめのタンバリンを使っていた。楽器によって特攻効果が違うなど、アレンたちにとっては初耳だった。そもそもバードがメインスキルの冒険者を見たことがない。
「そんな腕があるのに、なんで酒場の給仕なんかやってんですか?」
休憩中。アレン達はレミィに渡された弁当を。ドラゴンとヒポグリフは魔物の肉を喰んでいる。
戦士たちにとって、ひと時の休息だ。
「生き残ったのが、あたしだけだったからさ」
特に何の感情も無く吐き出された言葉に、アレンは目を見開いた。周りを見るとローランやシンも、やはり驚いた顔をしている。
知りたい。でも、聞いても良いものなのか。
「変な気を、使うなって。休憩の間の暇つぶしに、あたしの昔話でも、聞くかい?」
「是非」
アレンが答える。
「聞きたいです」
ローランが彼女の傍に寄り添う。
「聞かせてください」
シンが、傅いた。
「そうだねぇ」
と、エイラは語り始めた。
「あんたらさ、あたしの戦い方を見てどう思った? 酸エレの時」
と、思ったらこんな話だ。
「すごいっす!」
即座に返答したのは、やはりシンだったが。アレンの脳裏にも、あの時の戦いの全てが鮮やかに焼きついていた。
彼があんなに苦戦したアシッドエレメンタルを、エイラは小瓶を投げただけで滅したのだ。
酸と毒が混ざった、吐き気を及ぼす匂いがあたりに立ち込め、その場に居合わせた小物などはその空気を吸っただけで死に至った。アレンたちは、最初から息を止めた上で距離を取るように警告されていたから無事だったが。
猛毒を喰らったアシッドエレメンタルは、断末魔の叫びを上げながら、溶けて行った。
正直、アレンは引いた。他の面々も同じだろう。
こんな戦い方——殺し方なんか、今まで知らなかった。知らずに済んでいた。
でも、このシーフだかバードだか酒場の給仕だかよく解らない人物は、その恐ろしい行為をいとも簡単にやってのけて。溶けてしまったアシッドエレメンタルの残骸に、合掌した後でこちらを見た。
エイラはどんなものだと笑っていたが、アレンの笑顔は、もしかしたら凍りついていたかも知れない。
「そうかい? でも、正直、えげつないって思わなかった?」
その問いかけには、アレンを始め、誰も答えなかった。
つまり、誰もが「酷い」だの「むごい」だのと心のどこかで思っていたと言う事だ。
「あたしは、シーフでバードだ。仲間の支援しか出来ない。それでは駄目だって思ったから、筋力がなくても、魔力が無くても、シーフなら覚えられる特技を得たんだ」
「それが、毒ですか?」
「そう。それが、あたしにとってただ一つの攻撃手段だから、魔物のことも研究した。どんな敵にどんな毒が有効なのか。呪歌の習得と同じぐらい、色んな毒の知識を得た」
「ちなみに、どんな毒にも耐性が無いのが人間だからね。あたしのシリンダーには絶対に触るんじゃないよ」
言われずとも、そこに触れる気など毛頭ない。あの凄まじい威力を見てしまったのだから。
「でも、パーティはあたしを残して、全滅した」
「姐御が戦っても、勝てなかった相手なんっすね」
シンが、痛ましげな視線をエイラに向けた。だが、彼女は小さく首を振る。
「違うよ。あたしのせいで、狩られたんだ」
いつもと変わらない、声。顔色も変わっていない。それなのに、空気が冷えた気がした。
「毒スキルは、人前では絶対に使っちゃいけないって言われていたのにね。あたしは、我慢できなかった。別の冒険者パーティの前で――結構、懇意にしていた相手だったからね。使ってしまったんだ」
ドラゴン達は、いつの間にか食事を終えて眠っている。だが、アレン達は弁当の残りに手を出すこともせずにエイラの言葉を待った。
「その頃、『毒持ち』は悪と認識されていた。あたしが使った毒が、パーティを……仲間を、死なせるきっかけになったんだ」
「エイラさん」
アレンは、自分の声が思ったより乾いて、掠れていると思った。
「エイラさんたちを襲ったのって、まさか」
「そうだよ。人間だよ。仲間達は、あたしに言ったさ。ガチで戦え、出来ないなら逃げろって」
どちらも出来なかったのではないだろうか。エイラは。
だって、彼女が仲間を置いて逃げたなんて、信じられない。
「助けられたんだ。あたしだけ」
初めて、エイラの声が震えた。抑えているであろう涙を、アレンは見ないでおいた。他の二人の背に周り、「弁当食おうぜ」とエイラから少し離れた。
その数分後には最後の唐揚げをエイラに取り上げられたが。




