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止まり木亭  作者: 桂まゆ
第2話 アルバイト募集中

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6

「いらっしゃませー。あら、克美ちゃんに椎奈さん、綾瀬くんまでお揃いで」

 四日ぶりに『止まり木亭』の扉をくぐると、レミィの声に迎え入れられる。

 結局三人は(と言っても、智也でない方の綾瀬だが)9月26日の彼岸明けまで毎夜陸波羅に通い詰め、やっとお役御免になったのが今朝の事だ。

 昼過ぎまで休養を取り、夜には慰労会と言い出したのは、克美だ。

「とりあえず、ビール。シーナさんと智也先輩もビールでいい?」

「勿論」

 と智也が頷き、

「そうだな。そうしてくれ」

 三郎太こと、シーナも頷く。

 この四日間、仕事終わりには必ず『白風堂』のリビングでご馳走になっていた。初めこそは変わった味の酒だと思ったが、すぐに美味く思えるようになった。

「それと、この間の獣の肉も」

 四日もあれば、この世界の食生活にもかなり慣れた。

 もっとも克美はコッテリしたものをあまり、食べないようだが。

「牛肉のスタミナ炒め、ニンニクマシマシだな。串揚げ10本盛り合わせ。あと、鯛のカルパッチョとシーザーサラダ」

 智也が慣れた様子で注文する。恐らく後の二品は、あっさり系好きの克美の為に注文だ思われる。

「あ、私も今日は食べるよ。流石に、精進料理みたいなものばかり続くと体がもたないもん。鶏南蛮もよろしく」

 克美はそう言えば『肉を食べると消化に時間がかるから、その間の霊力が落ちる』とぼやいていた。それは考えすぎで、ちゃんと栄養を取らないと力も湧いて来ないとシーナは思うのだが。

 もっとも、克美の作る湯葉や高野豆腐を使った料理、野菜の天ぷらなどはとても美味だった。大豆の加工品で作った肉もどきの甘酢あんも、好みの味付けだった。

「克美は料理が上手いな。少し意外だった」

「ひどーい、シーナさん。私、小学生の頃から家事はやってたんだから。ダメ両親が離婚してるからね」

「片付けは苦手みたいだけどな。いつ見ても店、散らかってるし」

 止せばいいのに、智也が余計な事を言い出す。

「先輩、一度店主やってみます? 本当に、次から次へとわけのわからないものが届くんですよ。どこに片付けろって言うんだか」

 頬を膨らませる、克美。

 そうこうしているうちに、レミィがビールを持ってくる。

「では」

 と、克美がジョッキを掲げた。

「皆様、お疲れ様でした」

「お疲れ様」

「ああ、お疲れ様」

 ジョッキをかちりと合わせてから、黄金色の泡立つ液体を口に含む。

 泡が邪魔かと思ったが、缶で飲むのとはまた違った美味さ。一口では、止まらない。

「シーナさん、やるなぁ。一気に三分の一ぐらい行ったよね」

「先輩も、同じぐらいでしょ?」

 続いてやって来たシーザーサラダを卵を崩してから、三人の小皿に綺麗に取り分ける、克美。

 確かに慣れているようだ。

「なんか、びっくりしちゃった」

 レミィが、こちらのやりとりを見ながらはぁぁと息をつく。

「四日で、ずいぶん馴染んだね。椎奈さん」

「レミィ、シーナさんね。家業を姉婿に譲ったから、椎奈の名は名乗らないんだって。だからって女性なのに『三郎太さん』って呼ぶのもおかしいでしょ?」

 「私は、気づいてなかったんだけどね」と、克美が小さな声で続ける。

 そう。シーナの「カミングアウト」で、一番驚いたのは克美だった。一之進は気づいていたし、智也ももしかしてと思っていたらしい。

 何故か? 智也曰く「秋月よりはゴツいし、強いし、本当に怖いけど。中性っぽい人は男から見ると女性っぽく感じるんだよね」との事だ。その後、着替えにと件の「白川克美」が着ていたスウェットを借りた時にはっきりと分かったそうだ。喉仏がないので。

 智也は、今では普通に克美の事を「秋月」と上の名で呼ぶようになっている。彼女が「白川克美」を名乗るようになってからは、対外的には「三代目」と呼ぶようにしていたらしい。距離を取っていたのではなく、単に気を使っていただけのようだ。

 呼び名を変えたからと言って、進展しているかどうかは別だが。

 克美は、シーナと話している時の方が楽しそうに見える。四日間、寝食を共にしたおかげだと思うが。勿論、智也は仕事終わりの乾杯の後は自宅に戻っていたので。

「シーナさんもだけど、克美ちゃんも嬉しそうね?」

 レミィに聞かれて、克美はうふふと笑う。

「これからはね、一緒に居てくれるんだ」

「はぁ?」

 レミィから、かなり大きな「はぁ?」が出た。

「どういうこと? ちょっと、先に唾つけたのこっちなんだけど?」

 唾? つけられた覚えはシーナにはないし、無論そんな事をしていたら、無事で済ませるつもりはないが。

「これでしょ?」

 克美が取り出したのは、店の扉に貼ってあった「アルバイト募集中」の張り紙。

 職種に「ホール係 兼 用心棒」と書かれている。

「克美ちゃん、勝手に剥がさないでよ」

「だって、もう必要ないもの」

 本当に嬉しそうに、陸波羅に居た頃の、あの緊張しきった克美とは別人のように。

 あどけない笑顔を、レミィに向ける。

「アルバイト、斡旋に来たんだから」

 スタミナ焼きを頬張るシーナを手のひらで差して、克美は告げた。

「シーナさんには、うちから通っていただきます。お盆とお彼岸は、こちらでお仕事をしてもらいます。それ以外の期間、申し訳ないけどうちにはシーナさんにしてもらう仕事は僅かしかないので、こちらで雇って頂ければと」

「それは、棚からぼたもち」

 レミィの小さな呟きは、シーナには聞こえていなかった事にしておこう。

「刀は置いて来たが、克美が新しいものを用意してくれたからな。いつでも力になれる」

「コスチュームも、用意したのよ。ルーイさんとお揃いの黒のベストスーツ。もう、絶対に女性客の心ゲットなんだから!」

 待て待てと、レミィが割って入って来る。

「うちとしては申し分ない提案だけど、勝手に決めないで。それと、武器の携帯は禁止なので」

「符ならば良いか?」

 小さな紙切れを見せるシーナに、レミィも頷く。

「それぐらいなら」

 ため息をついたレミィの本心は、きっとここにいる誰にも分からないだろう。


『克美ちゃん、キャラ変わりすぎ!』

 女子が飲み友を得た心境など、本人にしか分からない。

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