第二話 家の中も外もピンクだらけ!
ピンク髪に恨みはありません。
下校の際、あなたは独り急いで家に向かった。もう誰にも告白されたくないという気持ちで、住宅街を進む……。
あなたには、仲が良いピンク色の髪の双子の姉妹がいる。
あなたとは別の学校の制服を着た二人が、自宅前で立っていた。双子のサイドテールは、それぞれ右側と左側になっている。
「今日の告白は上限を超えているので却下だッ!」
「「えぇーっ!」」
あなたは先手を打って大声で主張し、素早く彼女達を素通りする。玄関を通って鍵を閉める。少しは安心した。
いや、家の中でも安心出来ないのが辛かった。
「「「お帰りなさーい」」」
あなたには母親と姉と妹がいる。
全員、ピンク色の髪だ。親子なので見てくれは似通っている。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
ピンク髪を三つ編みにしたあなた専属メイドが、正しい姿勢でお辞儀する。
「おかえりー。愛してるぜ~」
ピンク髪セミロングの居候娘が言う。この子はあなたよりも一つ年上で、しかも引きこもり。かわいい猫耳も生えているのが特長だ。
「……ただいま」
あまたはうんざりとした気分で返す。
本日、不自然な連続告白を受けて、あなたも変だとは思った。けれども、前々からずっと変だった。家ではあなたと父親を除いた五人もの女が全員ピンク髪なのだから。
「お兄ちゃん、慌てて帰って来たけど、どうしたの~っ?」
ピンク髪ツインテールで中学三年の妹があなたに聞く。
「今日はめっちゃおかしいんだよ。朝からずっと、いろんな女子に告白されまくってるんだけど、みんな髪の毛がピンク色なんだ」
「お姉ちゃんが思うに、弟ちゃんはピンク髪の子に愛されているのではないでしょうか。私も弟ちゃんのこと、誰よりも愛していますし」
ピンク髪ポニーテールで大学一年の姉が敬語で言う。
「そ・れ・に、私のお兄ちゃんはイケメンでカッコ良くて乱暴者だから、告白されまくって当然だよぉ~」
「乱暴者は違う」
「確かに、今日だけ連続で告白されるのは、非常に不自然だね……」
ピンク髪をゴムでまとめて、あなたから見て右前に出している母親が、意味深な感じで語る。
「もしかして、全員がピンク髪になってるんじゃない? ほら、あなたの髪もピンクになってるし……」
青いエプロンを着けた母親があなたの髪を指差す。
「えっ、マジ?」
あなたは非常に恐ろしく思えてきて、急いで鏡のある洗面所まで向かった。
学校のトイレで鏡を見た時は、確かにピンク髪ではなかった。それに学校内でも、茶髪や金髪といったピンク以外の生徒も見かけた。だから、全員ピンク髪になっているとは考えられない……と思いつつ鏡を見ると――。
「は?」
普通にピンクじゃなかった。
黒髪だった。
「あっははー、ひっかかったぁ! ばーか、ばーか!」
「だまされたお兄ちゃん! ざーこ、ざーこ!」
洗面所の外で必要以上にあなたを罵倒する母と妹。あなたはこの二人に対し、本物の乱暴者になろうかと本気で迷った。
「お母さんと妹ちゃんに馬鹿にされるなんて、弟ちゃん、すっごくかわいそうです……。お姉ちゃんが慰めてあげるので、どうかこの中へお入り下さい……」
姉は床に座って、大胆に股を開いた。着用しているスカートの中はピンクではなく白の下着だった。
あなたは姉の誘惑に応じずに横を通過した。
「えっ、待って下さい! なんで行くんですか、こんなにも愛していますのにィ~ッ!」
姉は悲痛な声で叫ぶものの、あなたは冷静にどんどん離れる。
「ご主人様、お外のほうが騒がしくなっています」
リビングでメイドがあなたに報告する。
実際、外からの声が聞こえるし、玄関の呼び鈴も鳴っている。
「二階に行くぞー」
居候娘があなたに手を伸ばした。この娘は、顔の左右のピンク髪だけを細い三つ編みにしている。
「外、マジでヤベーことになってんぜ~」
居候にあなたは手を取られ、そのまま手を繋いで二階まで行った。
「どうよ。あいつら、めっちゃいるだろ?」
あなたの部屋の窓を開けた居候が指し示す。
玄関のほうはピンクだらけだ。
ピンク髪の少女や女性が何人も、家の前で集結している。
実に恐ろしい光景だった。
幼馴染、先輩、後輩、同級生、下級生、上級生、他校の生徒……。
あの教師もいる。放課後の仕事を放り出してここまで直行して来たのだろうか?
あの幽霊もいる。トイレの地縛霊じゃなかったのだろうか?
生徒会長や風紀委員、縦ロールの悪役令嬢っぽい女子もいる。どこから来たのか、巫女さんやシスター姿の女性、茶色づくめの忍者や三角帽子の魔法使いみたいなのもいる。
全員ピンクなのは今さら驚かない……と言いたいところでも、人数の多さには圧倒される。三十人ぐらいはいそうな気がする。
赤い腕章をつけたロングストレートヘアの生徒会長は、高性能そうな拡声器を持っていた。窓のところにいるあなたの存在に気づくと、その器具の先を二階に向けた。
「――アナタ! よーくお聞きなさい! 非常に不本意ですが、私達全員が、アナタに、恋しています!」
「「「「「「恋しています!」」」」」」
生徒会長に続いて複数名が復唱する。
こういう風紀の乱れを正すべき風紀委員はすでに意気消沈しており、近所迷惑を叱るべき教師は復唱する側に回っていた。
「アナタは私達の純粋な想いに報いるため、彼女にする子を一人、選ぶべきです!」
「「「「「「選ぶべきです!」」」」」」
「彼女選択の自由を行使せず、思わせ振りな態度で私達を傷つけ続けるイケメンの横暴を、許すなー!」
「「「「「「許すなー!」」」」」」
「さあ、一刻も早く外に来て、結論を、出しなさーい!」
「「「「「「出しなさーい!」」」」」」
ここまで聞いたところで、あなたは窓を閉めてしゃがみ込んだ。
「あいつらやべぇよ、怪しい抗議団体かよ……」
「だいじょうぶだニャ。君があたしを恋人としてみんなに紹介すれば、全て解決だぜニャ」
「急に語尾をニャにすんのやめろよ!」
「だな。……とりえあず、あたしが彼女ってことでいいかい?」
唐突に居候は女の顔を作る。
「……いや、今んところは親しい同居人って関係以上には、お前のことを思えない。というか、お前はまず、引きこもりから脱出しろよ」
「そこには触れてほしくないので、彼女の話は保留にする。で、あたしと君が組めば、奴ら全員を武力で排除出来るぞ」
「物騒なこと言うなって」
「久し振りに、深夜以外の外出になりそーだ。そういえばあたし、深夜のコンビニ以外、最近はどこにも行ってなかったな。……コンビニに定期的に行ってるから、あたし、そもそも引きこもりじゃないんじゃね?」
「お前も相当やべぇやつだよな!」
少なくとも、ピンクの髪に猫耳がついているのは、この居候だけだった。
「それよりどうする? とりあえず、弱そうなあの幼馴染をボコボコにして、人質にとって奴らを脅すか? それとも、真面目そうな風紀委員をボコボコにして満足するか?」
「お前解決する気ねーだろ! ひとまず母さん達と話し合いして、最悪、警察を呼ぼう」
「警察だと、あのピンクの人が来ちゃうんじゃね?」
「あー、そんな人もいたな」
あなたはピンク髪の知り合い警察官を思い出した。彼女は家の外にはいなかった。
「とにかく下に戻って、母さん達と合流しよう」
「了解だニャ」
「ニャはやめろ」
「分かったニャン」
マジふざけてると思いながら、あなたは階段を下りる。
一階のリビングには、母親と姉妹とメイド以外にもう一人、ピンク髪がいた。――あの黒い着物の幽霊だ。
「うらめしや~」
「どうやって入った?」
「壁抜けですよ~」
床より少し浮かんでいる幽霊が答える。
「幽霊だからそんなことも出来るんだったな。それで、何の用だ?」
「お外の魔法使いさんに伝言を頼まれました。今の状況を打破するために、あなたが出て来てくれたら、上手く対処するって言っています。どうされますか?」
「その魔法使い、信用出来るやつなのか?」
「どうなのでしょう? 私にそういうお願いをして来ただけで……私も、魔法使いさんが何をするつもりなのかは分かりません」
「絶対怪しいよな」
「私もそう思います。ですが、このままではご近所も騒音でうるさいと思うので……」
幽霊が近所迷惑を気にしていた。
ひとまず、あなた達は家族会議をおこなった。その結果、あなたは幽霊と魔法使いを信じて、外へ行くことになる。あなたが玄関に向かうと、幽霊や家族達もついて来た。
あなたは玄関扉を開ける……。
たくさんのピンク髪の子達が登場しましたね。
第二話をお読み頂き、ありがとうございます。




