表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光と影の生徒会  作者: 美坂マコト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/4

第3話

 翌日の朝。教室はいつもと変わらず話し声が響いている。

 私はスマホで駅前の情報を調べていた。

(今日は部活を見て回ろうかな?)

 スマホをしまい、昨日の授業の復習を始める。

「おはよう、彩さん。」

 咲月がいつもより少し早く教室に入ってきた。昨日よりは表情が落ち着いているけど、どこか遠慮がちな雰囲気は変わらない。

 彼女は自分の席に鞄を置くと、チラリと私の方を見た。何か言いたそうだったけど、結局何も言わずに教科書を開いた。


 昼休み。廊下を歩いていると、生徒会室の方から声が聞こえてきた。

「えっと、この資料って誰に渡せばいいんですか?」

 元太の声だ。少し困っている様子だ。

「各委員会の委員長に配布してちょうだい。リストはそこにあるわ。」

 鈴葉の指示が淡々と続く。

「あ、はい! 了解です! ……えっと、委員長って誰でしたっけ?」

 少し間が空いた。

「……リストを見なさい。」

 鈴葉の声のトーンが、微かに下がった気がした。

 通り過ぎながら聞こえてくるやり取り。以前なら、そういう質問が出る前に私が先回りして説明していた事だった。


 放課後。私は校庭に出て部活動の様子を眺めていた。

 テニス部の女子マネージャーに話しかける。

「すみません。ウチ、テニスやってみたいんですけど……。」

 女子マネージャーは首を振った。

「ごめんなさい。入部はもう締め切っているんです。人数が多すぎてマネジメントが大変なの。」

「そうですか……。」

 私は体育館に向かう。体育館入口でジャージを着た女子生徒に話しかける。

「すみません。バスケ部ってまだ入部できますか?」

 女子生徒は首を振る。

「申し訳ないけどもう締め切ってるわ。来年の4月になったらまた来てちょうだい。」

「ですよねー……。」

 私はとぼとぼと校舎に戻った。校舎に戻ると、廊下で何人かの生徒とすれ違った。部活に向かう生徒たちは楽しそうで、自分だけが取り残されたような気分になる。

(まあ、10月だもんね。どこも締め切ってるか……)

 溜息をつきながら昇降口に向かおうとしたとき——

「あ、彩さん。」

 咲月が廊下の向こうから小走りで近づいてきた。少し息を切らしている。

「あの……今、時間ある? ちょっと……話したいことがあって。」

 彼女の表情は真剣だった。いつもの遠慮がちな雰囲気とは少し違う、何か決意したような目をしていた。


-----


 その頃、生徒会室では——

「北見君、この連絡は『明日』じゃなくて『今日中』に各部に回すって言ったはずよ!」

 鈴葉の声が、いつもより少し強くなっていた。

「あ、すみません! 今日中でしたっけ。じゃあ今から回ります!」

 元太は慌てて資料を持って飛び出していった。

「大丈夫かな……文化祭の会場割り、今日中に確定しないと明日の委員会に間に合わないのに……。」

 美穂が不安そうに呟いた。

「……大丈夫よ。少し慣れるまで時間がかかるだけ。」

 鈴葉はそう言ったけど、その表情には微かに苛立ちが浮かんでいた。


-----


「……どうしたの?」

 私は立ち止まり、咲月の話を聞く。咲月は少し俯いて、それから意を決したように顔を上げた。

「あの……昨日、彩さんが言ってくれたこと……ずっと考えてたの。」

 彼女の声は震えていたけど、前より強い。

「私、鈴葉さんに言ってみようと思って。『彩さんをクビにするのはおかしい』って……でも、やっぱり怖くて……。」

 咲月は拳を握りしめた。

「それで……その前に、彩さんに聞きたくて。彩さんは……生徒会に戻りたいって思ってる? もし戻りたいなら、私……ちゃんと鈴葉さんに言うから。」

 彼女の目には涙が浮かんでいた。自分の弱さと向き合いながら、それでも何かをしようとしている。

「私、ずっと後悔してたの。あの時何も言えなかったこと……彩さんが一人で生徒会室を出て行くのを、ただ見てるだけだったこと……。」

 声が詰まって、咲月は一度言葉を切った。

「だから……教えて。彩さんは、どうしたい?」

 廊下には放課後の静けさが広がっていた。遠くで部活の声が聞こえる。

 咲月は、私の答えを待っていた。

 私は顔を上げて考える。生徒会に戻りたいか。生徒会に戻れるか。

 少し考え、私は首を振った。

「……悪いけど、ウチはもう生徒会に戻る気はないの。ウチが解任されたのは決定事項だし、後任も決まっているんでしょ? ウチが戻ったところで意味はないし、そもそも鈴葉が納得しないから戻れないでしょ?」

 私は窓の外に視線を移す。

「……それに生徒会から離れてできる事も見つかった。今はまだ分からないけど、いずれは何か打ち込めるものに時間を注ごうと思ってる。」

 私は咲月の顔をじっと見る。

「……だからもう諦めて。ウチ、生徒会に戻る意志はないから。」

「そう……なんだ……。」

 咲月の声は小さく震えていた。私の言葉を聞いて、彼女の中で何かが崩れたような表情になった。

「ごめんなさい……私、勝手に……。」

 涙が一筋、頬を伝った。でもそれは悲しみだけじゃなくて、自分の無力さへの悔しさも混ざっているように見えた。

「私……遅すぎたんだね。彩さんがあんなに頑張ってたのに、私は何もしなくて……今更何を言っても、もう遅いよね。」

 咲月は袖で涙を拭った。

「でも……ありがとう。ちゃんと答えてくれて。」

 彼女は少しだけ笑おうとしたけど、上手く笑えなかった。

「彩さんが……何か打ち込めるもの、見つけられるといいね。応援してる。」

 そう言って、咲月は深く頭を下げた。それから、静かに自分の教室へと戻っていった。


 その頃、生徒会室では——

「北見君、この資料は『文化実行委員会』じゃなくて『文化祭実行委員会』よ。名称を間違えたら失礼でしょう!」

 鈴葉の声が冷たくなっていた。

「あ、すみません!じゃあ作り直します!」

 元太は慌てて資料を持って席に戻った。

「ねえ鈴葉……少し休憩した方が……。」

「休憩している時間はないわ。明日までに仕上げないといけない仕事が山積みなの!」

 鈴葉の苛立ちが、少しずつ表に出始めていた。

「あの……この予算案なんですけど、計算合わないんですけど……。」

 ほむらが困った顔で資料を持ってくる。

「……どれ?」

 鈴葉が確認すると、明らかな計算ミスがあった。元太が作成したものだった。

「……北見君。」

「はい!」

「もう一度、最初から確認して。今度はミスのないように。」

 鈴葉の声は静かだったけど、その静けさが逆に怖かった。

 生徒会室の空気が、少しずつ重くなり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ