第2話
翌日の朝。私は教室で授業の予習をしていた。生徒会をクビになり、これからどうするかを考える。放課後の時間ができてしまった。部活動に入るか。勉強に専念するか。街を歩き回るか。
(まあ……なんとでもなるよね。)
私は気楽に考え、教科書を読んでいく。
「……彩さん。」
小さな声が聞こえて、顔を上げると咲月が立っていた。いつもより少し早く教室に来たみたいで、まだ他の生徒はまばらだ。
彼女は鞄を机に置くと、少し迷うような仕草を見せてから、彩の隣の席に座った。
「あの……昨日の事……。」
言葉が途切れる。咲月は視線を落としたまま、何を言えばいいのか分からないような表情をしていた。
「私……何も言えなくて……ごめんなさい。」
謝罪の言葉は小さくて、でも真剣だった。彼女なりに、昨日のことを引きずっているのが分かる。
「彩さんが……どれだけ大変な仕事をしてたか、私は少し知ってたのに……でも、鈴葉さんに逆らえなくて……。」
咲月の声は震えていた。罪悪感と、自分の弱さへの後悔が混ざったような表情。
教室には少しずつ生徒が入ってきて、朝のざわめきが広がり始めていた。
「あ……。」
私は呆然として咲月を見つめていた。
「別に咲月は悪くないでしょ。鈴葉の判断だったんだし。ウチが言ったところで意味ないでしょ?」
私は咲月の顔をじっと見る。
「……もし本当に悪いと思ってるなら咲月自身で鈴葉にちゃんと伝えて。『こんなの納得できない』って。……それじゃ、授業あるからまたね。」
私は教科書に目を戻した。
「……っ。」
咲月は言葉を失った。彩の言葉は厳しかった。それが彼女の胸に突き刺さる。
「そう……だよね……。」
小さく呟いて、咲月は俯いた。自分で言わなきゃいけない。分かってる。でも——
「……ごめんなさい。」
もう一度謝って、咲月は自分の席へ戻っていった。背中が小さく見えた。
その後、授業が始まった。いつもと変わらない日常。でも、何かが確実に変わってしまった感覚だけが残っていた。
昼休み。廊下を歩いていると、生徒会室の前を通りかかった。扉は閉まっていて、中から複数の声が聞こえてくる。
「——では、新しいメンバーの件だけど。」
鈴葉の声だ。もう次の話を進めているらしい。
「うん……北見君に声をかけてみようと思うんだけど、どうかな?」
美穂の声も聞こえた。もう後任の話まで進んでいる。思ったより早い。
(……もう関係ないよね。)
私は生徒会室の前を通り過ぎ、教室に戻った。
放課後。生徒たちは部活に向かったり教室で会話したり思い思いに過ごしている。
私はスマホを取り出し、駅前の店舗について調べていた。
「あ、ヨドバシで新商品出たんだ。行ってみよ!」
私はバッグを持ち教室を出て昇降口に向かう。靴を履き替えて学校を出て駅前に向かった。
学校を出て駅に向かう道は、いつもより軽やかに感じた。生徒会の仕事がないというだけで、こんなにも自由な時間があるんだと実感する。
駅前のヨドバシカメラに着くと、新商品コーナーを見て回った。最新のイヤホンやガジェットが並んでいて、見ているだけで楽しい。
「あ、これ良さそう……。」
気になった商品を手に取って眺めていると、時間があっという間に過ぎていった。
一方、その頃——生徒会室。
「えっと、生徒会の書記ですか? 俺でいいんですか?」
爽やかな笑顔で、北見元太が生徒会室に立っていた。クラスでは人気者。愛想が良くて社交的な性格で知られている。
「ええ、ぜひお願いしたいの。元太君なら、きっと上手くやってくれると思うわ。」
美穂は柔らかく微笑んだ。
「書記の仕事は主に連絡調整と資料作成。難しいことはないわ。すぐに慣れるはずよ。」
鈴葉は淡々と説明する。
「分かりました! 頑張ります!」
元太は元気よく返事をした。一見、頼もしく見える。
「わあ、元太君が入ってくれるなんて心強いです! よろしくお願いしますね!」
ほむらは明るく笑った。
咲月だけが、複雑そうな表情で元太を見ていた。でも、何も言わなかった。
こうして、彩の後任が正式に決まった。




