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16. 王子と皇子の力比べ


 ロザンナとレオンの距離が少し開いたように見える一方、ノックスはロザンナと少しずつ親交を深めていった。かといってノックスがロザンナに深入りしているかといえば、それは微妙なところだった。


 ノックスはレオンの前では、従来どおりセレティアに構ってばかりだったからだ。しかし植物学の講義になれば、当然のようにロザンナのすぐ隣に位置取る。

 ロザンナはノックスが自分を、そしてセレティアを、どう考えているのか未だにわからなかった。



 ある時、攻撃魔法の講義と、防御魔法の講義、合同で実戦形式の講義を行うことになった。


「さて、諸君は貴族として自ら生まれ持った魔法を用い、それを攻撃として使う基礎知識を習得してきた。しかし文字を読んでいるだけで魔法の扱いが上手くなることはない。よって本日は実戦を通して学んでもらう」


 広い芝生の庭の上で、アッシュが生徒たちにそう説明する。すぐ隣にはアッシュとは対照的な、がっしりとした体形の、スキンヘッドのグスマン教諭が腕を組んで仁王立ちしている。グスマンの担当は防衛魔法だ。


「知っての通り、攻撃魔法は繊細な魔力操作と、芸術的なセンスを必要とする美しい魔法だ。愚鈍な敵に防御などさせる間もなく、徹底的に叩く、電撃のような素早さも必要だ」

「おいおい、まぁ待て。この世で最も美しいのは、頑強たる防御魔法だ。どんな攻撃も寄せつけぬ強固な守り、強く、強く重ねられた防御の型こそ、まさに究極の魔法といえるだろう」

「フン、脳筋野郎が」

「何か言ったかヒョロ男が」


 バチバチと勝手に火花を飛ばす二人を、生徒たちは困惑した表情で見る。どちらも自分の担当に誇りを持っていて、勝気な性格なせいであまり仲は良くないようだ。


「まあいい、今回は代表者二人に決闘をしてもらい、その戦いを見た気付きをレポートにまとめてもらう。まさか全員にやらせるわけにはいかないからな」

「模擬戦といえど危険だからな、万全を期す必要がある」

「そういうことだ。では、我こそはという者はいるか?」


 緊張感のある生徒の顔を眺めるアッシュに対して、迷わず手を挙げたのが、なんとノックスだった。

 周りの生徒達が驚く中、いつも通りの穏やかな笑みを浮かべている。


「はぁ……いいだろう。我々はより万全を期す必要が出て来たようだ。ありがとう皇子殿下」


 いつものようにアッシュはため息を吐く。ロザンナにとっては見慣れた、面倒ごとに悩まされる姿だ。


「グランティア流の魔法をこの身で体験してみたいと思うのは当然ですよ、アッシュ先生」

「私としては皇子より先にグランティアの者に手を挙げてほしかったものだがね。さあ、彼を相手したい者はいるか?」

「それならば、私が行くしかあるまい」


 レオンが手も上げずに、立ち上がった。ノックスの相手をしたいかと問われて立候補する者は、他に一人もいなかった。敵国の皇子など、いろいろな意味で相手にしたくないのは当然だ。


「レオン殿。どうかお手柔らかに」

「どうだかな。君も手加減するタイプじゃないだろう?」


 二人は笑って声を掛け合う。先生について、ノックスが開けた場所へと向かう中、レオンは振り返って最前列にいたロザンナのそばにしゃがみ込み、声をかけた。


「見ていてくれ、ロザンナ」

「殿下、こんなの危険です。なにも殿下がやらなくても」

「私がやる必要があるんだ……噂は聞いているよ」

「噂って、何の……」


 もしかしたら、ノックスとの仲に関する、尾ひれのついた噂を聞いたのかもしれない。

 はっとしたロザンナの顔を見て、レオンは笑う。そして何も言わずに踵を返して、ノックスたちの元へと向かった。


『そしてもし、君に悪い虫が付いたのなら……悪いが叩き潰す』

 かつてレオンがロザンナに告げた言葉が、思わず脳裏をよぎった。


(まさか、あの時からノックス様のことを……?)


「決闘はグスマン先生の結界魔法によるドーム型のフィールドの中で行う。致命的な攻撃は自動で減衰され、基本的に死ぬようなことはない。が、負傷のリスクは当然ある。やめ、と私が言ったらすぐに行動を停止するように」


 グスマン先生が魔法を唱えると、半透明の緑色の幕がドーム状に広がって、レオンとノックスの二人のいる空間を覆った。走り回れるほど広い空間の中で、二人は向かい合い、礼をする。


(レオン殿下、無茶をしないといいけど……)


 ロザンナは妙に胸騒ぎがしていた。レオンは穏やかで計算高く、つまらない喧嘩を買うタイプではなかった。だからこの戦いに迷わず申し出たことに、ロザンナも驚いたのだ。


「それでは……始め!」


 アッシュの合図とともに、ついに決闘が始まった。


「それでは、お手並み拝見」


 ノックスはいつの間にか両手に一振りずつナイフを握っている。反り返った刃が特徴的な、カエデスらしい武器だった。凶器を握っているノックスがレオンと対峙しているだけで、ロザンナはぞっとした。しかし、グスマンの結界魔法があれば最悪の事態にはならないはずだ。


「悪いが速攻で終わらせる! 【氷柱よ、逆らえ!】」


 レオンが唱えると、地面から一斉に氷の棘が伸びた。ドーム中の地面を埋め尽くすほどの氷の棘を、ノックスはギリギリで避けていく。


「【呪術方式853、影移動。実行】」


 ノックスがカエデス式の魔法を詠唱すると、ノックスの姿が一瞬でドーム内から消えた。

 周囲の気配を探るレオンのすぐ後ろに、影から生えるように突然、ノックスが再び現れた。


「レオン殿下!」


 思わず声を出したロザンナだったが、ノックスの攻撃は間一髪でかわされ、ナイフは空を切った。


「やるな! 【氷よ、我が剣に!】」


 レオンは以前ロザンナの前で見せたように、氷で形作られた細剣を生み出し、ノックスに反撃する。

 剣先はノックスのナイフによってかろうじて軌道をずらされ、ノックスへの直撃を避ける。


 小さな武器で動きやすいノックスは連撃を繰り出し、レオンは細剣ですばやくそれをいなす。レオンの背中が巨大な氷柱に当たり、それ以上後ろに下がれなくなると、ノックスが勢いよく突きを繰り出した。


「【氷よ、護れ!】」


 氷の盾がレオンのすぐ目の前に現れ、ノックスの突きを防ぐ。

 突きで崩れ落ちた氷の盾の裏側……そこに、すでにレオンはいなかった。

 周囲を警戒するノックス。そのすぐ近くの、折れ重なった氷柱の上に飛び乗っていたレオンは、その高台から唱える。


「【氷柱よ、降れ!】」


 今度は地面とは反対に、空中に生み出された無数の氷柱が、その尖った先端を地面に向けて降り注ぐ。芝生に突き刺さり、地面から生えていた氷柱にぶつかり、砕け、氷の破片が宙を舞う。


「ははっ、これは! 逃げ場が無いですね!」


 焦りの言葉を漏らしながらも、ノックスは一面を埋め尽くすように降り注ぐ氷柱を、落下する時間差を見ながらぎりぎりで避けていく。


「とどめだ!」


 レオンはノックスの逃げ場を塞ぐように、氷柱から飛び降り、全体重をかけて氷剣を突き出す。


「ちっ……!」


 ノックスは降り注ぐ氷柱のせいで左右に避けられず、苦し紛れにナイフを投げる。ナイフは真っすぐにレオンの顔へと向かうが、レオンはそれを首を傾けぎりぎりで避ける。頬に浅い線のような傷がつき、血が流れるが、レオンの勢いは止まらない。


 レオンの氷剣がノックスの喉元に届く寸前、緑色の魔力がレオンの身体を包み、レオンは空中で静止した。


「やめ!」


 アッシュが終了の合図を下す。レオンの攻撃が致命的なものだったため、グスマンの魔法がそれを中断したのだった。


 レオンの勝利。生徒達からはどう見てもそう思えた。

 歓声が上がり、決闘は無事終わった……かに思えた。


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