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14. 仲裁役ってどっちからも嫌われる


 親友同士が喧嘩してしまった時ってどうする?


 私……エミルは眉間にしわを寄せ、女子寮の休憩室でお気に入りの手帳を前に思い悩む。

 っていうか、本来、親友なんて恐れ多い。ロザンナ様は私なんて及びもつかない公爵令嬢だし、セレティアは国の守りと癒しを司る奇跡を起こす聖女なんだから。


 それでも自分でもよくわからないうちに、田舎の低位貴族に過ぎない私は、そんな二人と一緒に過ごすようになっていた。

 それも緊張したり気を使ったりせず、ごく自然に友人として。


 そんな安住の地が、突然二人の喧嘩によって足場もろとも消え去ろうとしている。これは一大事だ。

 レオン殿下とロザンナ様の恋愛模様を特等席で見る権利を失うことを抜きにしても、単に友人として二人に仲直りして欲しかった。


「よし、ここは不肖エミルめが、人肌脱がせていただきましょう!」


 エミルはロザンナのおさがりの扇子を畳み、気合を入れて手帳をバシンといい音を立てて叩いた。




「まずはそれぞれの様子を確認にいきましょう!」


 エミルは休憩室を飛び出すと、まずはロザンナの私室へと向かった。今日は休日だから、生徒は学園内や、すぐそばの学園街で思い思いに過ごしているはずだ。


 ロザンナの私室の外から、そっとその扉に耳を当てて、中の様子を探ってみる。


「人間~五十年~~……下天の~うちを~~」


(う、(うた)っている~~ッ!? 意味は分からないけど何かを詠っている……!)


 エミルは冷や汗を垂れ流し、扉から跳ね飛ばされたように距離を取った。


「危ない危ない……もし邪魔しようものなら、腹心の私と言えど首を飛ばされていたかもしれない……仕方ない、ロザンナ様は後回しにして、まずはセレティアの方を先に探しに行きますか」


 エミルはそそくさと女子寮を飛び出し、学内を歩いて回った。通りがかった仲の良い生徒に聞くと、学園西部の天文台付近で見かけたということだったので、エミルはそちらに向かった。


 天文台のそばには、散歩道の整えられた庭園があり、中央の中庭とは違って生徒の姿もまばらだった。休日にこのあたりに用がある生徒は少ない。


「こんなところに一人で何しに来たのかしら……あっ」


 エミルは遠くから、セレティアらしき人影を見つけた。庭園の池の近くに、静かにしゃがみこんでいる様子だった。


「はぁ……」


 エミルが草陰に隠れてそっと近づくと、セレティアの大きなため息が聞こえて来た。誰もいないと思って油断しているようだ。


「ロザンナ様……」


(名前を呼んでる。やっぱり、セレティアもロザンナ様と仲直りしたいのね! これならなんとかうまくいきそうだわ。ロザンナ様の方は……ちょっと何考えているかわからないけど)


「ロザンナ様……」


(うんうん。私もロザンナ様と喧嘩なんてしたら、きっと一日中落ち込んでしまうわ)


「ロザンナ様ロザンナ様ロザンナ様ロザンナ様どうして私はあんなことを私のバカバカバカあぁロザンナ様あぁぁぁ」


(いや怖い怖い! 急に何!? 聖女なのにそんなメンタル不安定なの!?)


 セレティアは近くの芝生を引きちぎって、池に投げた。ちぎられた可哀想な軽い葉の数々は、お前の言うことなど聞くかとばかりに四方八方にふわふわと飛び散り、やがて池に浮かんだ。


(そろそろ声をかけようかしら)


 これ以上見ていられない、いや見たら呪われそうな気がしたエミルは声をかけようと中腰になったが、セレティアがまた何か話し始めたので再び草陰に隠れた。


「エミル……」


(あ、私? 私にも何かあるのかしら?)


「この間貸したお昼ごはん代、いつになったら返してくれるのよ……ロザンナ様と仲が悪くなったのも、全部全部、そのせいじゃない……!!」


(えぇぇえーーーっ!!! とばっちりすぎる! でも返すの忘れてた私も悪いね!? すぐ用意しよう!!)


 エミルは思わず口に手を当てて、息を殺した。


(くっ、何で今そんな話してんのよ! 声かけづらくなったじゃない! 撤退よ、撤退!)


 ついさっきまで声をかけようと思っていたが、自分の話題が出てしまったことで声をかけられなくなり、エミルは再び戦略的撤退することとなった。




 庭園を離れ、再び女子寮に向かう。さすがにロザンナも落ち着いていることだろう。


「行ったり来たり、疲れるなぁ。ま、これも親友の私にしか、できないことよね!」


 昼食を済ませて女子寮に帰ると、ロザンナもまた外に出かけてしまったようだった。


「仕方ないわ。またすれ違っても困るし、しばらく休憩室で待ちましょう」


 エミルは休憩室のお気に入りのソファに腰かけた。大好きなゴシップ新聞を読み終わると、急激に眠気に襲われてしまった。

 こくん、こくんと何度か船を漕いで耐えたものの、最後には睡魔に負けて、ソファでうとうと眠ってしまった。




「……ミル」


「……エミル!」


「はっ……!」


 エミルが誰かに揺り起こされて目を覚ますと、視界にはロザンナとセレティア二人の顔があった。

 二人は跳び起きてよだれを拭いているエミルの顔を、両側から覗き込んでいた。


「ロザンナしゃまっ!? セレティア!?」

「みっともないわよ、こんなところで寝て。風邪でも引いたらどうするつもり?」


 ロザンナは苦笑いしながら、エミルに注意した。


「そうですよ、淑女の風上にも置けない~って、昔だったらエミルが私に言ってるところなんですから」


 セレティアもまた、くすくすと笑ってそんなことを言った。


「あっ……えぇ? お二人は、その??」


 寝起きで混乱したエミルは、頭をフル回転して状況を理解しようと努めた。二人の間に険悪な空気はなく、エミルのことを見ていつもの笑顔を浮かべている。

 エミルが何もしなくても、ただ眠っている間に、二人はすっかり仲直りしてしまったらしい。


「もう、大丈夫なんですか!? 私たち、親友ですよね!?」


 エミルがそう言うと、ロザンナとセレティアは目を見合わせて、次の瞬間、同時に噴き出した。


「ええ、そうですよ。心配をかけましたね」

「別にあんなの、喧嘩ってほどでもないわ。ちょっとした躾よ」

「もう、ロザンナ様ったら。素直じゃないんですから~」


 どんなやり取りがあったのかはわからないが、二人はもう大丈夫なようだ。

 エミルはほっと胸を撫でおろした。


 となれば、残る懸念は一つだけだった。


「セレティア、あの。ごめんなさい。これ、この間立て替えていただいた昼食代……!」


 エミルは頬を染めて、封筒に包まれた昼食代をセレティアに突き出した。


 こうして三人のわだかまりは、すっかり溶けて無くなったのだった。


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