表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/17

11. お願いです、婚約解消してください!


「全部、ぜんぶやり直しよ。今までの計画じゃダメ……」


 ロザンナはアッシュの部屋を行ったり来たりしながら、ぐちゃぐちゃの頭の中を整理していた。


「なんだか知らないが、自分の部屋でやったらどうだね、スピナール嬢」

「何を他人事のように! アッシュ先生も考えてくださいな。私の協力者でしょう?」

「はぁ……つまり、なんだ。今までレオン王子に追放されていたがっていたのは、幼い頃に知り合ったノックス皇子に会うため。それなのに、そのノックス皇子が急に学園に入って来たから、今までの計画が全て崩れた、と?」

「その通りですわ」


 幼い頃に会ったことがある、というのはロザンナの嘘だ。アッシュに説明する上でわかりやすいのでロザンナがそういうことにして説明したのだった。


「だったら好都合ではないか。わざわざまどろっこしいことをしなくても、敵の大将がのこのこと敵地までやって来たのだからな。あとは肉食公爵令嬢、ロザンナ・スピナールが牙をむくだけでいい」


 アッシュはそう言って、ふん、と鼻で笑う。


「本当に、嫌な言い方をしますわね……だけど、一理ありますわ。そう、私は断罪されなくても、追放されなくてもいい。ただレオン王子との婚約を解消して、それから、ノックス皇子に好かれればいい。単純、単純な話ですわ」

「それがわかったらとっとと出て行くがいい」

「ええ……ええ。そういたしますわ」


 何かをぶつぶつ言いながら、部屋を出ていくロザンナを見送りながら、アッシュは顔をしかめた。出ていけと言いながらも、本当に自動人形のようにスタスタ出ていくとは思っていなかったようだ。


「本当に大丈夫か? あいつ」




 数時間後。

 誰もいない校舎の屋上に、ロザンナはレオンを呼び出していた。あたりは暗く、夜風が冷たく吹いていた。


「話というのは何だい、ロザンナ。人気(ひとけ)のないところで密会なんて……なかなか危ない橋を渡っているとは思わないかい?」


 茶化すようにレオンは言う。夜に男女が寮を抜け出し密会するというのは、見つかれば誤解を生んでも仕方のないことだった。


「見回りに見つかりそうになったけど、上手くやり過ごしたよ。例の犯人はまだ捕まっていないようだね」

「レオン殿下……こんな時間にごめんなさい。しかし、学園内で人目を避けて会うにはこれしか無かったのです」

「君の言うことなら、何でもお好きなように」


 レオンは微笑み、いつものようにロザンナの手を取る。しかしロザンナは、珍しく自分から手を引いて、拒絶の意を表した。


「ロザンナ?」

「大事な話というのは、あまりいい話ではないのです」

「……聞こう」


 ただごとではないと察して、レオンは真剣な表情で続きを待った。


「殿下、私との婚約を、解消していただけないでしょうか?」


 ひと際強い風が吹き、ロザンナは顔にかかる髪を手で寄せた。それから、何も言わないレオンの顔を一目見た。薄暗く、あまり表情は読み取れない。


「思えば君は……いつだってそうだった。唐突に、驚かされる。思ってもみないことを言い出す。そういうところも好きだった。けど、今回は違う」

「殿下……?」


 真意を探るようにロザンナはレオンに聞き返した。


「君を離さない。この世界でたった一つ、絶対に俺が手を離さないと決めたものだから」


 怒っていない。悲しんでいない。ただすっかりそう決めていて、少しも決断を変えるつもりはない。薄暗い中ようやく見えたのは、レオンのそんな顔つきだった。


「殿下、私は……ごめんなさい。一緒にはいられないんです」

「わかってない。伝わってない。どれだけ好きなのか……いや、愛してるんだ。ロザンナ」


 ロザンナはその言葉を聞いて、はっとして、直ぐ思い直して、目を伏せる。遠まわしな言い方を避けてこうしてはっきりと「愛している」と告げられたのは、意外にも初めてのことだった。


「君にはわからないだろう? 張り巡らせた策略ばかりの城を抜け出して会う、君の稚拙な策略のなんといじらしいことか。王妃の地位しか見えていない他の女の瞳が、いかに濁っているか。君の瞳は綺麗で……ただ真っすぐで……だけどそれはいつだって……こちらを向いてはいないんだ。ロザンナ」


 レオンは追い詰めるように距離を詰める。ロザンナは後ろに下がって、ついには背中に屋上への出入口の壁が当たった。


「君が直して欲しいところをすべて直そう。君が欲しいものを全て手に入れよう。どんなわがままも聞いて、叶えよう。たった一つ、別れて欲しい、という願いだけを除いて。そしてもし、君に悪い虫が付いたのなら……悪いが叩き潰す」


 そう言った時のレオンの顔つきは、明らかに憎悪のこもったものだった。ロザンナは自分に向けられたものではないとはわかっているものの、思わず息をのんだ。


「失敗だった。私としたことが」


 レオンは髪をかき上げて、顔をしかめる。ロザンナには何を失敗だと言っているのか、理解できなかった。

 レオンは、大きくため息を吐いた。そして油断したロザンナの顎を軽く持ち上げ、顔を近づける。


(何をするつもり? まさか……!)


 怯えたロザンナがぎゅっと強く、目を閉じる。


「そそのかされて……君が誰かの手に渡ろうとするなら、奪い返すだけだ」


 レオンの声が、直ぐ耳元で小さく響いた。そうして、レオンはロザンナから身体を離した。


「レオン……?」


 気が付けばレオンは背を向けて、屋上から去っていった。最後まで、婚約の解消を了承することは無いままだった。


 緊張から解放されたロザンナは、壁に身を預けるようにしながら、ずるずると地面に滑り落ちた。


「私……やり方間違えたかも」


 ノックスの登場で混乱していたとはいえ、あまりに事を急ぎすぎたようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ