第60話 隠密班
数日後――
三人の少年が、とある建物に呼び出された。
王城から少し離れた街の外れ。
ほとんど人通りのない一角に、その建物は佇んでいた。
外から見れば、ただの廃屋だった。
壁はひび割れ、屋根瓦は欠け落ち、窓は板で打ち付けられている。
雑草が伸び放題で、誰も近づこうとしない。
だが、裏手の小さな扉を抜けると――
防音材が貼られた壁。
その上には、王都の地図と軍の連絡網。
棚には見慣れぬ武器が整然と並び、
外見とは別世界のような緊張感が漂っている。
三人の少年は、机に置かれた空っぽの瓶を見つめた。
「隠密班としての、正式な初任務だ。必ず情報を持ち帰ってこい」
「はい」
少年らは静かに、だが真剣に頷いた。
建物から出ると、少年らはふう、と息を吐いた。
「......やっぱり、あの空気には慣れないよ。静かなのはいいけど。ねえ、ハニス?」
「そうだね......でもここからはラピンもファルクも一緒だから、ちょっと気が楽だよ」
「お前ら、安易に名を口にするのは控えろ。王都とはいえ、小さなことが命取りになる」
三人の少年――ファルク、ハニス、ラピンの三人での初任務が、静かに幕を開けた。
卸市に着くと、ハニスは前を向いたまま静かに言った。
「前に来たとき、例の瓶を洗っていた女性の住んでいた場所を聞いておいたんだ。僕は官吏見習いってことになってる。話は通してあるから、まずはそこに向かおうか」
ファルクとラピンはうなずき、人通りの少ない路地へと入っていった。
小さな借家に着くと、中年の女性が顔を出した。この建物の大家だ。
ハニスの姿を見ると、女性は表情を明るくした。
「前の見習いさんね!そちらのお二人は?」
「同僚です。一緒に部屋を見せてもらってもいいですか?」
「ええ。若いのに偉いわね」
大家は廊下を歩き、一つの部屋の戸を開けた。
「この部屋よ」
部屋は、伽藍堂だった。まるで誰も住んでいなかったかのように。
そして、床は塵ひとつないほど綺麗だった。
ラピンは焦ったように声を上げる。
「あの、この部屋って掃除は......」
「していないわ。官吏の方に言われたとおり、触らずに置いておいたの」
しかし、磨き上げられた床は、痕跡を消そうとした者がいたことを物語っていた。
盲目のハニスは、まっすぐに前を向いたままだったが、神経を研ぎ澄ませて何かを探ろうとしていた。
ファルクは静かに言った。
「案内をありがとうございます。では、記録をとらせていただきますので」
大家の女性は頭を下げ、少し不安そうに廊下の奥へと去っていった。
戸が閉まると、三人はすぐに動き出した。
ファルクとラピンが残留物を探す一方、ハニスは床や壁に鼻を近づけていた。
(……この匂い)
壁、床、家具の跡。
そこには確かに、瓶についていたのと同じ、女性の匂いが薄く残っていた。
だが――その奥に、別の匂いが混じっていた。
(……え?)
ハニスの背筋がぞわりと震えた。そのまま呆然と立ちすくむ。
明らかに様子のおかしいハニスに気がつき、ラピンが駆け寄った。
「どうしたの?......何か、見つけた?」
ハニスはしばらく黙ったあと、静かにつぶやいた。
「......他に誰か来たか、聞いてみないと」
ファルクとラピンは、顔を見合わせてうなずいた。




