第52話 見よう見まね
近衛兵について行くと、城の敷地内にある建物へと入った。
訓練校の寮より小さいが、どこか風格のある造りだった。
近衛兵は長い廊下を無言で進み、一つの戸を開けて言った。
「ここが君の部屋だ」
中には、ベッド、机、椅子、棚が一つずつ。
ベッドには清潔な布が敷かれ、清潔な香りがした。
「えっと……」
「なんだね」
「こんな立派な部屋……」
近衛兵はわずかに眉を動かした。
「本来『見習い』などという役職はない。だから近衛と同じ宿舎だ。
君の扱いは明日決める。……あまり騒がしくしないように」
そう言って、ぱたりと戸を閉めて去っていった。
ぽつんと取り残されたロアは、静かな部屋を見渡した。
(……一人部屋なのか)
生まれ育った家にも自分の部屋はあったが、戸を開ければすぐ家族の気配があった。
訓練校では五人部屋で、リオや仲間の声がいつも聞こえた。
ロアは荷物をおろし、ベッドに腰を下ろした。
つやつやとした敷布を指先で撫でる。
窓の外では、王城の庭が昇りかけた朝日に照らされていた。
翌日、目を覚ますと、部屋の戸がノックされた。
開けると、昨日の近衛兵が無表情で立っていた。
「これに着替えてから、食堂に来なさい。食事後、訓練に参加してもらう」
そう言って、ずしりとした服を手渡してくる。
広げると、近衛兵と同じ軍服だった。
ただし胸元の紋章だけが外されている。
急いで着替えると、袖や裾はぴったり調整されていたが、胴回りだけは大きく、どこか不格好だった。
食堂に向かうと、長い机に近衛兵たちが整然と座っていた。
全員が大人で、背筋を伸ばし、静かに待っている。
ロアは恐縮しながら端の席に腰を下ろした。
近衛兵たちは短い祈りの言葉を唱え、食事を始めた。
ロアもおそるおそるパンを手に取る。
かぶりつこうとした――が、手が止まった。
まわりを見ると、皆がパンをちぎって口に運んでいる。
(あぶない……)
ロアは慌ててパンをちぎり、真似をして食べた。
次にスープの皿を持ち上げた。
澄んだ汁に自分の顔が映る。
そのまま口をつけようとしたが――また手が止まった。
皆、皿を置いたまま、金属の匙ですくって飲んでいる。
ロアも匙を取り、スープをすくい――ずずっとすすった。
その音が、静かな食堂に響き渡った。
近衛兵たちはちらりとロアを見たが、すぐに視線を戻し、
何事もなかったかのように食事を続けた。
ロアは恥ずかしさで俯いた。
そして今度は音を立てないよう、そろりそろりとスプーンを傾けた。
緊張したままようやく食事を終えると、
ロアは周りの近衛兵についていき、外へ出た。
外に出た途端、近衛兵たちはぴしりと整列し始めた。
動きに迷いがなく、まるで一つの影のように揃っていた。
ロアはどこに並べばいいのかわからず、うろうろと視線をさまよわせた。
そのとき、列の前に立つ近衛兵の長らしき人物が、手招きした。
ロアは慌てて駆け寄る。
近衛兵長は列に向き直り言った。
「今日から第一王子近衛兵の見習いとなった者だ」
「ロアと申します。よろしくお願いします」
ロアは深く頭を下げた。
近衛兵長はわずかに頷き、言った。
「列の後ろに並びなさい。わからない部分は、見てまねるように」
「はい!」
ロアは列の最後尾へ走り、ぴしりと姿勢を正した。




