第48話 異なる門へ
訓練校に到着すると、郵便係が駆けてきた。
「ロアとリオ、国より指令が届いている。すぐに来なさい」
郵便係の後を追って寮に入ると、ロアとリオは別々の部屋に呼ばれた。
部屋に入ると、教官から黙って書面を渡された。
手触りの良い、上質な紙でできている。
【近衛兵任用内示】
ロア
第一王子近衛兵として任用する意向につき、
ここに内示する。
まず帰郷し、身辺を整えたのち、
王都へ参集せよ。
正式任用は王都にて執り行う。
ノクス王国 第一王子近衛隊
読み終え顔を上げると、教官は硬い表情のまま言った。
「……故郷にも既に知らせが送られているそうだ。明日すぐに出発することになる。荷物をまとめておけ」
そして、声を落として続けた。
「この件は他言無用だ」
ロアは実感が湧かないまま、寮の自室へと戻った。
扉を開けると、皆がそろっていた。
リオが小さな声で言う。
「僕は、弓兵への配属命令だったよ。兄ちゃんは、どうだった?」
ロアは少し言葉を濁しながら答えた。
「僕も……テントで話したとおりだったよ」
その瞬間、部屋の空気が止まった。
ロアがあの日語った『近衛兵になる』という話――
頭では信じていたが、心では半信半疑だった。
それが本当だったのだと、皆がようやく飲み込む。
「じゃあ兄ちゃんは、王都に行くの?」
「うん。でも、一旦家に帰るみたい」
「そっか……父さんと母さんに、僕のことも伝えておいて。僕はこのまま、軍に向かうから」
リオは寂しさを押し殺すように笑った。
ロアははっとした。
リオは両親に会えない。それだけじゃない。
ここにいる全員が、家に帰れない。
徴兵中に帰郷を許されるのは――ロアただ一人だった。
ロアはうなずくことしかできなかった。
翌日、起床すると、少年らは寮の前に集められた。
ロアとリオが前に呼ばれる。
教官は引き締まった表情で告げた。
「この二名は、その技量と勇気により、正式に軍に配属となった。他の者も引き続き励むように」
少年らはしばらくざわついていたが、
やがてそれぞれの訓練へ向かうため、ばらばらに散っていった。
残ったのは、教官とロア、リオの三人だけだった。
教官は静かに言う。
「リオ、正門から出なさい。弓兵から迎えが来ている。ロアはここで少し待ちなさい」
リオは正門へ歩き出したが、すぐに振り返り、ロアを強く抱きしめた。
「兄ちゃん。俺、頑張ってくるから。また会おうね」
そして、ロアだけに聞こえる声で続けた。
「父さんと母さんによろしく」
教官は何も言わず、兄弟の別れを見守っていた。
リオは一度うつむき、ためらうように息を吸うと、
そのまま正門へ向かって駆けていった。
リオが去ると、教官は前を向いたまま言った。
「裏門で、王都の護衛兵が待っている。行きなさい」
ロアは裏門へ急いだ。
そのとき、ファルク、ハニス、ラピンが、藪の間からひょこっと顔を出した。無言で手招きしている。
「みんな……!どうしてここに」
ハニスは寂しそうに微笑んだ。
「こっそり訓練を抜け出してきたんだ。どうしても見送りたくて。気をつけて、行ってきてね」
「ロア……また会えるよね?」
ラピンは涙ぐみながら言う。
ファルクは何も言わず、ロアの肩を力強く叩いた。
そのとき、ラピンの肩がぴくりとはねた。
「まずい、教官の声だ」
ロアは急いで立ち上がり、三人を見回した。
「みんな、ありがとう。絶対また会おう」
三人は大きくうなずき、訓練所の方へと駆けていった。
裏門へ着くと、護衛兵がロアを迎えた。
目立たない旅装をしている。
ロアは護衛兵とともに歩き出した。
訓練校へ来たときと同じ道のはずなのに、あの日がずっと遠い出来事のように思えた。
背後で、訓練所の掛け声がかすかに響く。
ロアは一度だけ振り返り、そして前を向いて歩き続けた。




