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第47話 静寂の裏側

翌日、目を覚ましてテントを出ると、すぐに整列の号令がかかった。


教官が前に立ち、重い声で告げる。


「知っている者もいると思うが……昨日、殿下が敵に狙われた。幸いご無事だ」


空気がピリリと張りつめる。


「本日ご出陣の予定だったが……このような事態のため、殿下はこちらで待機することになった。前線には兵のみで向かう。お前たち補助兵は、後方支援をしろ」


陣幕の向こうでは、掛け声が次々と上がっていた。

兵たちが列を成して行軍していく。

重厚な鎧を着た上級兵、軽装で槍や弓を持った一般兵。

大きな国旗が風に揺れ、雪煙が舞う。


ロアは固唾をのんで、その背中を見送った。


休む間もなく、後方支援の仕事が始まる。

矢や水を集めて並べ、前線へ運ぶ準備をする。

ロアも矢の束を背負い、補充の合図を待った。


合図が来たら、自分も前線へ届けに走らなければならない。

そう考えると、ぞわぞわと不安が胸に広がった。


陣幕には包帯が運ばれていく。

負傷した兵が戻ってきたときのためだ。


(……無事に帰れるのかな)


ロアは雪道をじっと見つめた。

地面の向こうに、まだ見ぬ戦場の影が揺れているように思えた。



しばらく経ち、夜が深まった頃。


周りの少年らがざわざわとし始めた。


「誰か戻ってくるぞ」

「王国の旗だ」

「多くないか?」


雪道の奥から、集団の影がゆっくりと近づいてくる。

綺麗な列を成し、足並みを乱さずに歩んでくるその姿は――


先ほど見送ったはずの隊が、

そっくりそのまま戻ってきたものだった。


近づいてくる隊列の兵たちは、どこかきょとんとした顔をしていた。

一般兵たちは首を傾げながら口々に話している。


「どういうことだ? 敵が引いたって」

「俺たちにびびったのか?」

「まだ攻撃してもいないじゃないか」


さらに、上級兵のささやき声も混じる。


「索敵に行った兵の話では、敵の拠点にはまともな設備がなかったらしい」

「ハリボテってことか? 何のためにそんなことを」


その言葉に、少年らはさらにざわついた。


「敵がいなくなったってよ」

「俺ら、もうすることないのか?」


隊列の中から教官が現れ、大きな声で言った。


「補助兵は全員、テントの前に集まれ!」


ロアたちはぞろぞろと集まり、テント前に整列した。


「敵が引いた。拠点の調査は索敵隊で行う。補助兵は訓練校へ戻るようにとのことだ」


その声は淡々としていたが、どこか腑に落ちない響きがあった。


初めての戦場は――

妙に穏やかに、あっけなく終了した。


そしてロアたち少年らは、再び野営を重ねながら、訓練校へと帰って行った。




一方――ダスクレイド帝国では、王子暗殺失敗の報が上がっていた。


「第一連隊大佐、報告に参りました」


紋章の刻まれた軍服をまとった大佐が、片膝をつき頭を垂れる。


まだ二十代半ばの若い皇帝――リゲル・ダスクレイドは、冷徹な目でそれを見下ろした。


「顔を上げよ」


静かな声が玉座の間に響く。


「報告いたします。王子暗殺は、毒殺・奇襲ともに未遂。敵軍は拠点空虚を確認後、撤退行動へ移行した模様です」


「兵は」


「『補給が不十分』と伝え、後退させたとの報告です。損耗はありません」


「……そうか」


皇帝はわずかに指を動かし、下がれと言うように手を払った。

大佐は深く頭を下げ、退室していく。


扉が閉まると、玉座の間に静寂が落ちた。


若い皇帝は視線を上げ、窓の外を見た。

その瞳は、遠い何かを見据えているようだった。

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