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第43話 矢の向かう先

矢が飛んで来てから、陣幕の中は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。

王子は陣の奥へ避難し、上級兵たちは大声で指示を飛ばしている。


「どけ、じゃまだ!」


兵がロアの肩にぶつかりながら駆けていった。

ロアは何をすればいいのかわからず、とりあえず陣の端へ下がるしかなかった。


しばらくすると、外へ向かった兵たちが戻ってきた。

その中に、ファルクとラピン、そして――リオの姿があった。


「リオ!!」


思わず声が出た。

三人はちらりとロアを見たが、何も言わず、兵に連れられて歩いていく。



陣の中央には、立派な鎧を着た上級兵が待ち構えていた。

張り詰めた空気から、その男が偉い兵であることが、ロアにもわかった。


ファルクとラピン、リオは、その前に並ばされた。

ロアは端に立ったまま、息をひそめてその様子を見ていた。


「……さて。お前たちが現場にいた補助兵だな。なぜあんなところにいた」

低く、よく通る声で上級兵は問うた。


ラピンは震えたまま下を向いている。

ファルクはまっすぐ上級兵を見据え、はっきりと言った。

「こちらのリオが昨日から行方不明で、捜索していました。勝手な行動をし、申し訳ございません」


上級兵はリオの方へ鋭い視線を向けた。

「なぜ弓を持っている。矢を射たのはお前か?」


ファルクは祈るような目でリオを見つめている。


「……はい」

リオは小さく答えた。


陣がざわつく。

リオは慌てた顔になり、必死に続ける。


「脅されて……でも、当たらない場所に……」

「万が一殿下に当たったらどうした!!」


上級兵が怒鳴りつけた。

その声が陣幕の空気を一瞬で凍らせ、場が静まり返った。


上級兵は深くため息をつき、言った。

「……お前は許されないことをした。連行しなさい」


兵がリオの腕を掴む。


そのとき――


「待ってくだせえ!!」


中年の男が声を張り上げた。

野営でリオと話していた弓兵だ。


「この坊主は、絶対に間違って矢を当てたりしねえです!」


周りの弓兵たちも口々に言い始める。


「そうだそうだ!」

「狙った場所にしか飛んでいかねえんだ!」


陣が再びざわついた。

上級兵は難しい顔をして、弓兵たちとリオを見比べている。



そのとき、仕切り布が揺れ、王子が顔を出した。

ざわめいていた陣が、一気に静かになる。


「リオと言ったか」

「……はい」

「私に当てるつもりはなかったんだね?」

「はい」

「では、その腕前を見せてみなさい」


王子は少し考えたあと、自らの鎧の肘当てに手をかけた。固定金具を外し、腕から抜き取る。


「……細い紐はあるか」


兵が差し出した紐を受け取ると、

王子はその紐を肘当てに通し、端を結んで輪にした。


そして高い柵の端を指して言った。


「あの柵に掛けてきてくれ」


兵はそれを受け取ると、柵を登り、端に紐を引っ掛けた。

重みのある肘当てが、風に合わせてゆっくりと揺れる。


「では――あれを落としてみなさい」


兵たちは場所を開けるように周りに捌け、リオに注目する。


リオは緊張した様子で前に進み出た。

震えた手で矢を取り、つがえる。


だが弓を構えると、震えはぴたりと止み、表情がすっと消えた。

ただ静かに、揺れる肘当てを見据える。


リオは瞬きもせず、弓をぎりぎりと引き絞っていく。

大きな弦が限界まで張り詰めた。


そのまましばらく静止し――矢を放つ。


矢は空気を割き一直線に飛んでいく。


――ぷつん。


紐が切れ、肘当てはストンと地面に落ちた。


兵たちは一瞬ざわめき、すぐに静かになった。


無傷で返ってきた肘当てを受け取ると、

王子は軽くうなずき、リオをまっすぐに見て言った。


「リオ。君は弓兵となりなさい。その腕は、国の力になる」


リオは驚いて固まり、そしてかすれた声で言った。


「......はい」

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