第40話 視えない捜索
ロアたちはテントの中で、声を潜めて話し合っていた。
ハニスが言う。
「僕が、皆が寝ている間に探してくる」
ロアは思わず口を挟んだ。
「でも、昼に出歩くと光が……あっ」
「僕は光、痛くないよ?」
ハニスはおかしそうに笑った。
ロアは言葉を失った。
昼の光は眩しくて痛い――そんな自分にとって当たり前の感覚を、他の誰もが共有していると思い込んでいた。
想像力の欠けた自分が恥ずかしくなる。
ファルクが慎重な声で言う。
「だが、おそらく木陰に見張りを立てているはずだ。見つかるかもしれん」
そのとき、ラピンが小さく手を挙げた。
「......僕も行くよ」
「でもラピンは……」
「目つむって行く。ハニス、運んで」
ラピンはまっすぐとハニスを見ていた。
皆が寝静まったころ、ラピンは頭巾を目隠しにし、ハニスの肩に飛び乗った。
「頼んだぞ」とファルクが小さくつぶやく。
ロアも祈るように見守る。
「じゃあ、行ってくる」
ハニスは静かにテントの布をめくり、外へ出た。
昼の光が、雪に強く反射する。
ロアには想像するだけで目の奥が痛むような光だが、
ハニスはまるで気にした様子もなく歩き出した。
ハニスはラピンを肩に乗せたまま、嗅覚だけを頼りに歩き始めた。
ラピンが目をつむったまま言う。
「リオは、テントのペグを打つ作業をしていたはず。そっちに行ってみたほうが良いかも」
ペグ置き場に着くと、ハニスが低くつぶやいた。
「……リオの匂いだ。結構新しい。でも、テントには向かってないみたい」
「辿れる?」ラピンがささやく。
ハニスはうなずき、匂いの続く方向へ静かに歩き出した。
「こっちには物資倉庫があったはずだけど……なんでこんなところに向かったんだろう」
じめっとした、不穏な空気が流れた。
そうして物資倉庫の入り口まで来ると、ハニスは立ち止まった。
「ここで匂いが止まってる。……倉庫の中に入った?」
ラピンが肩の上で言う。
「ちょっと待って」
森を渡る風の音と、鳥の鳴き声だけが響く。
ラピンは肩の上で身じろぎもせず、耳だけを研ぎ澄ませた。
「……中でごそごそって……小さい音がする」
ハニスの顔が強張る。
「大変だ……リオ、閉じ込められちゃったのかも」
ハニスは扉に手をかけた。
だが、固く閉ざされている。
ラピンが急に緊張した声を出す。
「しっ……静かに……!遠くから誰か近づいてくる。見張りの人かも」
「一旦離れよう」
二人は少し離れた藪に身を潜め、息を殺して様子をうかがった。
ラピンがささやく。
「見張りの人、ずっと倉庫の前から動かない……」
ハニスは悔しそうに言った。
「しばらく近づけないね……一旦テントに戻ろうか」
二人は静かに歩いていった。
ロアが身を乗り出す。
「どうだった?」
「……倉庫の中にいるみたい。閉じ込められたのかもしれない」
ハニスは下を向いてつぶやいた。
ロアは目を見開く。
「倉庫……!?でもリオなら、大騒ぎして誰かに気づいてもらえるはずだけど」
「疲れて寝ちゃったとか……?」
皆、言葉を失って考え込んだ。
ファルクが静かに口を開く。
「倉庫には毛布もあるはずだ。寒さはしのげる。……明日また捜索しよう」
ロアはうなずきながらも、胸の奥に不安を覚えた。
「……うん。明日、また」
翌日、目を覚ますと、少年らはざわざわとしながら夕の食事をとりはじめていた。
ラピンは三人に目配せし、隙をうかがって倉庫へと走った。
「……あれ?」
倉庫の壁にそっと耳を当てる。
昨日は確かに聞こえた、あの微かな動きが――今日は何もない。
(何も音がしない……)
念のため、指先でコンコンと叩いてみる。
だが、やはり反応はない。
「……ん?」
そのとき、倉庫とはまったく別の方向で、
キシ、とわずかに軋むような、聞き覚えのある音がした気がした。
ほんの一瞬。
風の揺れにまぎれるほどの小さな音。
けれど、ラピンの本能がそれを拾った。
直後、テントのほうから教官の大声が響いた。
集合の合図だ。
(戻らなきゃ……)
ラピンは急いで来た道を戻った。
戻ると、皆はすでに設営作業を再開していた。
辺りを見回すと、木材を肩に抱えたファルクがいた。
ラピンは駆け寄る。
「ファルク!みんなは?」
「別の作業場に向かってもらった。散らばって手がかりを探す」
ラピンは息を整えながら言った。
「それより……ファルク、リオの弓ってどこ?」
ファルクは目を見開いた。
二人で弓の仮置き場へ向かう。
そこにあるはずの――
リオの弓が、影も形もなく消えていた。




