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第37話 細い筋

翌日は、夕の訓練が終わるとすぐに薪作りが命じられた。


「冬が近づいているが、戦地に送る薪が足りない。森の木を切り倒すぞ」


教官の声に、少年たちは斧を受け取って散っていった。

吐く息が白く、落ち葉を踏む音があちこちで響く。


ロアも斧を肩にかけ、木々の奥へと歩いていった。



藪を抜けると、突然ロアの目に熱い光が飛び込んだ。


「うわっ......!!」


心臓が跳ね、ロアは立ち止まる。

木の根元にべっとりと何かが付いている。


(血……?)


光の揺らぎが、命の灯のように見える。


後ろからリオが顔を出す。

「どうしたの兄ちゃん?……ん?なにこれ」


リオは驚いた様子もなく木を見つめ、首をかしげた。

「なんか濡れてるね、でも水じゃないみたい......」


ロアはその反応にぞくりとした。

自分には血のように熱く光って見えるのに、リオにはただの湿った跡にしか見えていない。


ロアはもう一度落ち着いて木を観察する。


(......明るすぎるんだ)


命の灯に見えたそれは、妙に明るくぎらめいていた。


(これは血じゃない。そうだ......小さい頃、父さんが捕らえたあれに似てる――)



そのとき、茂みが大きく揺れた。


「シャーーーッ!!!」


巨大な影が、影を裂いて躍り出た。

月光に照らされ、喉元が熱くぎらめく。


――ヒカゲオオトカゲだ。


大人ひとり分はある巨体が、尾を叩きつけるように振り回し、後ろ足で土を蹴り上げながら暴れ狂っている。


鋭い音を立てて舌を伸ばし、あちこちへ向けて威嚇する。

目は落ち着きなく揺れ、周囲の気配を探るように首を振っていた。



少年らは一斉に悲鳴を上げ、あちこちに逃げまどった。腰を抜かして動けない者もいる。


「全員下がれ!!!」


教官の怒号が響く。

その声を聞き、別の場所にいた教官たちも駆けつけてきた。

槍を構え、じりじりと囲い込む。

ひとりの教官が、槍を突き出そうと腕に力を込めた、そのとき――


「待って!!」


ロアは思わず声を上げた。

教官らは横目でロアの方を見る。


「刺激すると毒を飛ばしてきます……! 近づくと危険です!」


教官らの顔に戸惑いが浮かぶ。


そのとき、ひとりが低くつぶやいた。

「......こいつは猟師の子だったはずだ。ここは任せた方が良いかもしれん」


教官らはロアをじっと見る。

ロアは心臓が鳴る音を聞きながら、必死に考えた。


(父さんは、ヒカゲオオトカゲは落とし穴に落として弱るのを待つって言ってた。……でも、罠にかかるのを待っている時間はない)


「……槍を一本貸してください」


ロアは教官から槍を受け取り、腰からアトラトルを抜いた。


リオははっとして、周囲の少年らに叫ぶ。


「みんな離れて!!」


ロアは大きく距離を取り、槍をアトラトルに掛けた。

ヒカゲオオトカゲはギョロリと目をこちらへ向けた。

視線が交差する。


ロアはじっと見据えたまま、勢いよく腕を振った。


ビュン、と空気を裂く音が森に響いた。

槍は一直線に飛び、月光を切り裂いてヒカゲオオトカゲへ向かう。


ガッッッ!!


槍は硬い皮を貫通し、毒が熱く輝きながら散った。

ヒカゲオオトカゲは夜空に向かって大きく仰け反り、そして地面に臥した。

喉元の光が、ゆっくりと弱まっていく。


リオが小さく息をのんだ。

少年たちも、恐る恐る木陰から顔を出す。


ロアはアトラトルを握ったまま、しばらく動けなかった。

自分の鼓動だけが、耳の奥で大きく響いていた。



「やるじゃないか!流石猟師の子だ」


若い教官がロアの肩を軽く叩いた。

ロアははっと我に返る。


倒れたヒカゲオオトカゲに歩み寄ると、

前脚に細い筋のような傷がいくつも走っているのに気づいた。

まるで何かにガリガリと引っかかれたような――




薪作りの作業は中止となり、少年らは寮へ戻り始めた。


「かっこよかったよ、兄ちゃん! アトラトルってあんな硬い皮でも貫けるんだ!」

リオが興奮気味に言う。


「ロア、ありがとう……あんな生き物初めて見た、怖かった」

ラピンは胸を押さえながら言った。


「すごい地響きだったね……」

ハニスもまだ落ち着かない様子だ。


リオがふと首をかしげる。

「森の暴れ者って呼ばれてるんだ。……でもそれにしても、変な暴れ方だったよね?」


「前脚を怪我してたよ。そのせいだと思う」

ロアは思い出しながら言った。

「筋みたいな傷がたくさん付いてた」


「傷? あんな硬い皮膚なのに、どうやって?」

リオが眉を寄せる。


そのとき、ファルクがぽつりとつぶやいた。


「――返し罠」


皆がはっとした。


昨日、藪から見つけた『返しのついた筒』が脳裏に浮かぶ。


ロアは小さく呟いた。


「……あれが、森にも?」


薄気味悪い空気が、部屋をゆっくりと満たしていく。


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