第36話 返し罠
盗賊事件が片付いたあとは、訓練を半日行い、残り半日で作業をする日々が続いていた。
その日は倉庫に集まり、戦地の救護所に送る物資を箱に詰めていた。
リオは包帯係で、早速隣で作業を始めている。
山のように積まれた布をぐるぐると巻き、箱に詰め込む。
(こんなにたくさん必要なんだ……)
ロアは思わず手を止めた。
包帯の山は、戦場でどれほど多くの人が傷つくのかを無言で語っているようだった。
気を取り直して、ロアは自分の作業に取り掛かった。医療器具を仕分ける係だ。
教官に「扱いに気をつけろ」と言われ渡された箱には、いろいろな形の針が入っていた。
半円形に曲がった針、太くて短い針、普通より何倍も長い針...
(母さんが刺繍で使ってたのと全然違う……なんでこんな形してるんだろ)
ロアは気をつけながらその針を小箱に分けていく。
その横には糸が巻かれていた。若干透けていて、温かみのある光を反射しているように見える。
手に取ってみると、滑らかな感触をしていた。
(麻糸じゃない......!動物の腱でできてる)
村にいた頃は、獲物から取った腱も素材として売っていた。こんなところに使われているとは。
ロアは、ハサミでそれを小分けにしていく。糸は硬く、切るたびにバツン、バツンと音が鳴る。
さらに奥には、剃刀に似た薄い刃物がいくつも並んでいた。
片刃で、光にかざすと刃先がぞくりとするほど鋭い。
ロアは背筋が冷えた。
(救護所に運ぶってことは……ナイフで切ったりするのかな……)
その隣には、手のひらに収まるほどの小さな鋸があった。
刃は細かく、ぎらりと光っている。
(え……じゃあ、この鋸は何……?)
想像したくない答えが頭に浮かび、ロアは思わず目を逸らした。
作業が終わると、教官の声が響いた。
「詰め終わった箱は、外の荷車に運べ!」
少年たちは次々と箱を抱えて外へ出ていく。
ロアも重い箱を持ち上げ、よろめきながら倉庫を出た。
ロアは箱を荷車に積み上げ、ふうっと肩の力を抜いた。
そのときだった。
藪の奥で、何かがかすかに光った。
「……ん?」
ロアは近づいて、葉をかき分けた。
そこには、見たことのない筒状の罠が落ちていた。
筒の内側には細かい返しがぐるりとついている。
一度入ったら、もう抜けられない構造だ。
「ロア、何してるの?」
追いついてきたラピンが覗き込むと、目を丸くした。
「あ、これ……河口でよく見るやつだ。シマウナギ捕まえる罠に似てる」
「え、じゃあなんでこんなとこに落ちてるんだろ?」
リオが首をかしげる。
「鳥が運んできたとか?」
「でも海の匂いがしないよ」
ハニスが鼻をひくつかせて言った。
ロアは罠を持ち上げ、教官のもとへ運んだ。
教官は受け取ると、しばらく無言で観察した。
「……これは、この倉庫の物資じゃないな。誰が置いたんだ?」
眉をひそめる教官の表情に、ロアたちは不安を覚えた。
「とりあえず預かっておく。お前たちは作業に戻れ」
言われた通りに戻ったものの、
ロアの胸には、針や鋸を見たときとは別の種類のざわつきが残っていた。




