第35話 背負うもの
何度か交代を繰り返し、ロアたちはようやく昼を乗り切った。
強い光に当たり続けたせいで、皆の顔には疲労がにじんでいる。
木に縛りつけられた旅人――いや、盗賊たちは、
縄をきしませながら、逃げようともがいていた。
ファルクが周囲を確認し、短く言う。
「早く教官に報告し引き渡す必要がある。だが物資を残して戻ると、また盗難の可能性がある」
沈黙が落ちたあと、ラピンが小さく手を挙げた。
「……僕が戻って報告する。四人は村に配給を背負って届けて」
「だが……」
ラピンはかすかに笑った。
「僕は背負う力がないからさ」
ファルクはしばらく考え、静かにうなずいた。
ラピンは深く息を吸い、小道へと駆け出していく。
その背中が木々の間に消えるまで、誰も言葉を発せなかった。
ファルクが振り返る。
「全部は背負えない。……持っていくものを選別する」
四人は散乱した荷物の前にしゃがみ込み、話し合いながら必要なものを選んだ。
薬、塩、油――そして穀物を持てるだけ。
それらを袋にまとめ、四人は村へと歩き始めた。
しばらく小道を進むと、木々の向こうに村が見えてきた。
その瞬間、皆の顔にふっと笑顔が戻った。
長い一日をようやく越えたという実感が、胸の奥から湧き上がる。
村の入口では、数人の村人が待っていた。
「ありがとうね、本当に助かるよ。さあ、ゆっくり休んで行ってちょうだい」
温かい声に迎えられ、四人は肩の力を抜いた。
四人は村の女性たちに案内され、村の中を歩き始めた。
ふと視線を横に向けると、畑が目に入った。
ところどころに手つかずの畑が目立つ。
雑草が腰の高さまで伸び、
倒れたままの作物がそのまま放置されている場所もあった。
さらに、土が掘り返された跡や、かじられた茎が残っている。
獣に荒らされたのだと、ひと目で分かった。
人手が足りないという話が、 こうして目の前の光景として突きつけられる。
四人の笑顔は、すっと消えた。
民家に入ると、村人が慌ただしく食事を並べてくれた。
細かい雑穀を炊いた粥、蒸した芋、薄いスープ、野草の和え物が数種類……
どれも質素だが、皿の数だけは不自然なほど多かった。
「こんなものばっかでごめんね……
でも、子どもたちが来てくれるって聞いてね……少しでも、と思って」
ロアたちは顔を見合わせた。
ありがたい。
けれど、こんなに苦しい暮らしの中で自分たちに食べ物を分けてくれるなんて――
誰も箸をつけられずにいると、外から複数の大人の声が聞こえてきた。
ロアたちは顔を上げる。
聞き慣れた声だった。教官たちだ。
戸口の方へ出ると、数人の教官が村人と話しながら歩いてくるのが見えた。
その後ろには、息を切らしたラピンの姿もあった。
さらに、森に残してきたはずの配給が、
新しい荷車に積まれて運ばれてくるのが目に入る。
「盗賊は無事、軍に引き渡した」
教官の言葉に、四人は思わず背筋を伸ばした。
「判断も行動も正しかった。よく頑張ってくれた」
一気に安堵が押し寄せ、目が潤む。
ファルクだけは表情を変えなかったが、
その肩の力がわずかに抜けたのをロアは見逃さなかった。
その日は村に一泊させてもらい、翌日、四人は教官たちとともに訓練所へ戻った。
門をくぐった途端、皆どっと疲れが押し寄せたのか、
寝台に倒れ込むようにして眠ってしまった。
だがロアだけは、しばらく目を閉じても眠れなかった。
フローラの手紙の言葉が、胸の奥でずっと揺れている。
ロアは静かに起き上がり、ペンを手に取った。
フローラへ
村のこと、教えてくれてありがとう。
最近、配給を運ぶ仕事をしたんだ。
途中で大変なことがあったけど、なんとか届けることができたよ。
今回のことで、僕は今まで周りが見えていなかったんだって気づいた。
食料が足りないこと、村の人たちがどれだけ苦労しているか、
仲間がどんな過去を抱えているのか……。
僕も、守られてばっかりじゃなくて、
誰かを守れるようになりたいと思った。
段々寒くなってきたけど、無理しないで。
風邪をひかないようにね。
ロア
書き終えた途端に眠気が押し寄せ、ロアは深い眠りについた。




