第34話 故障と修復
テントの前の旅人を捕縛し終えると、ファルクが言った。
「……ついて来い」
四人は黙って後ろをついて歩いた。
ファルクは積み荷を置いた場所まで皆を連れて行った。
そこは荒らされ、袋が破れ、荷物が散乱していた。
リオが息をのむ。
「なにこれ……!」
ハニスが鼻を動かし、すぐに顔色を変えた。
「……薬箱が開いてる」
そして箱の中を確認し、焦ったように振り返った。
「袋がひとつ足りないよ」
ファルクは無表情のまま言った。
「それなら、さっき取り返した」
そう言って、旅人の服の中から引き抜いた薬袋をハニスの手に置いた。
ハニスはぎゅっと袋を握りしめる。
「……ごめん、無茶させたよね」
リオがファルクに駆け寄る。
「ファルク……!ありがとう。もし君が居なかったら……!」
そう言って勢いよく手を取ろうとしたが 、
ファルクの腕の火傷に気づき、動きを止めた。
リオははっきりと言った。
「……俺たちも手伝わせて」
ファルクはその言葉にうなずき、落ち着いた声で言った。
「残り二人も捕らえてある。だが、いつ目を覚ますかわからない。明日まで監視が必要だ」
ロアたちは協力して旅人らを担ぎ、まとめて木に縛りつけた。
縄が擦れる音だけが、森の静けさの中に響く。
ファルクは周囲を一度見回し、告げた。
「日が落ちてくるまで見張るぞ。昼の光は強い。途中で何度か交代する」
リオとハニス、ラピンは疲れた足取りでテントに入っていった。
ロアとファルクは木陰に座り、見張りを始めた。
段々日が昇り、眩しい陽の光が木々の隙間から差し込んでくる。
その光が目を刺した瞬間、ロアの視界がじり、と揺れた。
目の奥がずきんずきんと痛む。
ロアは思わずこめかみを押さえた。
ファルクは横目でロアを見た。
「無理をするな。……そろそろ交代するぞ」
テントの布をめくり、ロアは言った。
「ごめん、交代して」
リオとラピンは手で影を作りながら外へ出た。
そのあとをハニスが続く。
ロアはほっとして横になり、目を閉じた。
目の奥に残った痛みが、少しずつ抜けていく。
隣で、ファルクも横になる気配がした。
ロアはちらりとそちらを見た。
だがファルクは目を閉じておらず、 薄く開いた瞳で周囲を警戒している。
ロアは体を起こした。
「寝ないの?」
ファルクは視線を動かさずに答えた。
「何かあるかもしれない」
「でもファルクだけそんなに……休まないと、壊れちゃうよ」
一瞬、空気が止まった。
ファルクは低くつぶやいた。
「――俺はもう壊れている」
ロアは息をのむ。
ファルクは続けた。
「幼い頃から訓練を受けてきた。痛みを耐えるのも、数日眠らないのも、俺の中では普通だ。
一人で護衛として放り込まれたことも何度もある。……大人を油断させて、騙すために」
そう言って、ファルクはロアに背を向けた。
「俺がおかしいんだ。ロア、そんなに気負うな」
ロアは震える声で言った。
「……壊れてなんかない。おかしくなんかない……! ファルクはファルクだ!」
ファルクは目を丸くしてこちらを見た。
ロアは泣きそうな声で続けた。
「僕が頼りないから、ずっと守られてばっかりだったね……
でも、これからは僕もファルクのこと守る。ひとりにしない」
ファルクの肩がわずかに揺れた。
その言葉をどう受け取ればいいのか分からないように、 ぎこちなくうなずく。
そして、ゆっくりと目を閉じ、横になった。
――テントの中には、森を渡る風の音だけが響いていた。




