第32話 石と砂
ロアたちは、離れた木のそばに積み上げた荷物の中からテントを引っ張り出した。
そのとき、黙って座り込んでいたファルクが口を開いた。
「……あっちに張ってくれ」
指差したのは、小道のすぐ脇。
地面は小石だらけで、寝るには向いていない。
リオが眉をひそめる。
「でもあそこ、小石だらけだよ?もっと平らな場所のほうが……」
「ファルクの言うとおりにしておこう。一応ね」
ハニスはなだめるように言った。
ロアは納得できないまま、ペグを抱えて歩き出した。
(なんであんな場所に……)
四人は小石をどけながら、テントを張り始めた。
地面は固く、ペグがなかなか刺さらない。
ラピンが手を痛めて「いたっ」と声を上げる。
リオが慌てて手伝い、ハニスがロープを引き、
ロアは黙々と石をどけ続けた。
ふと視線を向けると、ファルクが荷物のそばで立ち上がり、 旅人たちの動きをじっと見ていた。
その立ち位置は、 小道とテント、そして旅人たちを一度に見渡せる場所だった。
(……まるで、逃げ道を確保してるみたいだ)
小石を拾いながら、ロアは体にぞわぞわと不安が広がっていくのを感じた。
テントを張り終えると、四人は食事の準備を始めた。
干し野菜と雑穀を煮込んだ、簡単なスープだ。
焚き火がぱちぱちと音を立て、鍋の中で湯気が立ちのぼる。
旅人が近づき、鍋を覗き込んだ。
「美味しそうだね。僕らの持ってる食材も入れさせて」
そう言って、袋から何かを掴み取り、鍋に入れた。
その瞬間――
ファルクが鍋の前に飛び込み、足をもつれさせたように転んだ。
がしゃん!
鍋がひっくり返り、中身が地面にぶちまけられた。
湯気が勢いよく地面を這う。
ロアは叫んだ。
「ファルク!!なにしてるんだよ!!」
怒りが一気に込み上げる。
(わざとだ……絶対わざとだ!貴重な食材が!!)
ロアはファルクを睨みつけた。
「どうして……!」
言いかけて、ロアは息を呑んだ。
ファルクの右腕が、炎のように腫れ上がっていた。
熱いスープをまともに浴びたのだ。
ロアは震えた声で言った。
「ひ、冷やさないと……!」
旅人も言う。
「そこに小川がある。さあ、早く」
「必要ない」
ファルクは短く言い、手元の水筒の水を勢いよく腕にかけた。
痛みに耐えるように奥歯を噛み締めながら、旅人をじっと見据えている。
旅人はしばらく黙り、それから肩をすくめた。
「仕方ないね。今日は乾パンで我慢しようか」
四人は黙ってうなずき、乾パンを取り出した。
焚き火の前に座り、ぽりぽりと噛む。
ロアは横目で、ひっくり返った鍋を見た。
鍋の底に、冷たい光――
およそ食べ物とは思えない光を発する粒が沈んでいた。
ロアの背筋が冷える。
急に口の中の乾パンが砂のように感じられ、喉を通らなくなった。
ファルクは火のそばに座り、旅人たちの動きをじっと見ていた。
誰も何も言わなかった。
焚き火の音だけが、静かに響いていた。
食事を終えると、旅人らは焚き火のそばで立ち上がった。
「そろそろ寝なさい。僕たちは作業を続けるから」
ロアたちは顔を見合わせた。
ラピンの手が小さく震えている。
「明日も荷車を押すんだろう?体力を残しておかないと。さあ」
声は柔らかいのに、有無を言わせない圧があった。
そのとき。
「腕を冷やす水を汲んできます!」
ファルクが突然言った。
旅人がすぐに返す。
「君は安静にしていなさい。僕たちが取ってきてあげるから」
「いえ、すぐそこなので」
ファルクは振り返りもせず、小川の方へ駆けていった。
「待ってファルク――」
ロアが呼びかけたが、
「早く寝なさい」
旅人らは貼り付けた笑顔のまま、じり、と近づいてくる。
四人は思わず後ずさった。
そしてそのままテントに入り、布を下ろした。




