第31話 重要なもの
ファルクが低い声でつぶやいた。
「……重要な物資だけ背負って先に進むぞ」
ロアは思わず聞き返す。
「えっ?残りは?」
「置いていく」
あまりに即答で、ロアは言葉に詰まった。
「……でも、僕たちで運ばないと」
リオが慌てて口を挟む。
「そうだよ。大丈夫、野営テントもあるからさ!」
ファルクは短く切り捨てた。
「野営はしない。早く行くぞ」
そう言うと、荷車から薬袋を降ろし始める。
ロアは焦ってファルクの腕を掴んだ。
「待ってファルク、どういうこと?とりあえず、さっきの人にも連絡しないと……」
「違う!!」
ファルクの声が小道に響いた。
鋭い目がロアを射抜く。
場の空気が一瞬で凍りついた。
「奴は信用ならない」
ロアは反射的に言い返した。
「奴って……!なんでそんな言い方!!」
さっきの親切な旅人を、理由もなく疑う態度が許せなかった。
ファルクは低く言う。
「奴からは嫌な気配がする」
「そんな、確証もないのに……!じゃあこの荷物はどうするんだよ!」
「言っただろ、重要なものだけ持っていく!」
「全部重要だ!!」
ロアの声が震えた。
フローラの手紙が胸に浮かぶ。
村の人たちは困っている。
穀物も、毛布も、干し野菜も……全部必要だ。
ロアは三人の方を振り返る。
「ねえ、みんなも……!」
リオがうなずく。
「そうだよファルク、絶対変な人なんかじゃないって!」
ラピンも小さく言う。
「……僕も、荷車で運んだ方が良いと思う」
ファルクは何も言わず、ただハニスをじっと見た。
ハニスは困ったように眉を寄せ、ゆっくり口を開く。
「僕も、優しそうな人だったと思う。……でも何か匂いが――」
そのとき。
「戻ったぞ!さあ、修理を始めよう!」
先ほどの旅人が、仲間を二人連れて戻ってきた。
木々の間から現れた三人の影が、ゆっくりと近づいてくる。
旅人たちは荷袋から釘やのこぎり、金づちを取り出した。
ロアは胸をなでおろす。
(なんだ……本当に助けてくれるんじゃないか)
旅人は言った。
「積み荷はじゃまになるから、いったん降ろすね」
ファルクがすぐに声を上げた。
「俺たちがやります!」
旅人は一瞬、眉をぴくっと動かした。
だがすぐに柔らかい笑みに戻る。
「ありがとう。じゃあ、頼んだよ」
ロアたちは積み荷を背負い始めた。
ファルクはそれを荷車から離れた木のそばまで運んでいく。
ラピンが不安そうに言う。
「ねえファルク、こんなに遠くまで動かすの……?」
ファルクは答えず、黙々と積み荷を運び続けた。
ロアは横目でその背中を見る。
(ファルク、なんて頑固なんだ……)
不満を抱きつつも、ロアは黙って作業を続けた。
ファルクは最後の袋を下ろすと、そのままどかっと木の根元に座り込んだ。
リオが声をかける。
「ねえ、荷車直すの手伝いに行こうよ……?」
「俺はいい」
短い返事に、四人は顔を見合わせた。
困惑したまま、旅人たちのもとへ向かう。
旅人たちは荷車の下に潜り込み、鋸を動かしていた。
木を切る音が、静かな小道に響く。
ロアは駆け寄りながら言った。
「積み荷、降ろし終わりました!僕たちも手伝います!」
旅人は顔だけ出し、にこりと笑った。
「難しい作業だから、手伝いは大丈夫だよ。
それよりも、今日中に終わらないかもしれないから、野営の準備をしてくれるかな?」




