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第29話 現実の足音

翌日、ロアの一通の手紙を受け取った。

差出人はフローラだった。



ロアへ


手紙、読んだわ。

あなたが元気にやっているみたいで安心した。


ロアは昔から、ときどき変わったことをする子だったものね。

でも、それが悪いことだとは思わないわ。


訓練校の皆が、あなたのことをよく見てくれているのね。

私は手紙でしか連絡できないから、

いまのロアがどんな顔をしているのか、想像するしかないけれど……

もしかしたら、村を出たときとは少し違う顔になっているのかもしれないわね。


村のほうは、どうにか収穫を終えたところよ。

半分くらい木陰イノシシに食べられちゃったけど。

でも、あなたのお父さんが見回りを続けてくれていたおかげで、

本当に全部なくなるところは免れたと思う。


この前、女学校の同級生がうちに来たの。

服と小麦を交換してほしいって。

レースや刺繍がたくさん入った服で、

昔はあんなの、うらやましくて仕方なかったのに……

いざ受け取ってみたら、なんだか全然嬉しくなかったの。


ロアは、お腹をすかせていないといいけど。


また近況を教えて。


フローラ



フローラの手紙を読み終えたとき、ロアはしばらく動けなかった。


村の収穫が半分も木陰イノシシに食べられたこと。

女学校の同級生が、服と小麦を交換しに来たこと。

フローラが、もうあの華やかな服を喜べなくなっていること。


――そんなこと、考えたこともなかった。


自分が送った手紙を思い返す。

訓練に慣れてきたこと。

仲間が自分を見てくれていること。

世界の見え方の違和感の話。


まるで夢の中の話みたいだ、とロアは思った。


(……僕だけ、のんきなことを書いてしまった)


ロアは恥ずかしくて、時を戻したいような衝動に駆られた。


(フローラは、こんなに大変なのに、僕のことまで心配して……)


自分は食べ物に困っていない。

毎日、決まった時間に食事が出てくる。

仲間と笑い合って、眠って、起きて、訓練して。


村のことを、何ひとつ知らなかった。


(……返事を書かなきゃ。でも、何を書けばいいんだろう)


ロアは、手紙を持ったまま立ち尽くした。




そのとき、教官の声が響いた。


「全員、寮の前に集合しろ!」


ロアは胸にざわつきを抱えたまま、急いで寮の入口まで向かった。

すでに何人かが並び始めている。

ロアも列に加わり、背筋を伸ばした。


教官がいつになく真剣な口調で言う。


「国から指令が届いた。人員が不足しているため、お前たちも今日から働いてもらう。

まずは、配給を近隣の村まで運んでもらう。……これは訓練ではない」


その言葉に、列の空気がわずかに揺れた。

教官の顔は厳しかったが、声の端に申し訳なさがにじんでいた。


「……運搬する配給は、寮の各部屋ごとに割り当てられている。倉庫で物資を受け取ったら再集合しろ」



少年らは、部屋ごとに集まって倉庫へ向かい始めた。


ファルクがつぶやいた。

「……始まったか」


リオが不安そうに眉を寄せる。

「……どういうこと?」


ファルクは前を見たまま言った。

「これは訓練ではない。……つまりこれからは実質、補助兵だ」


ロアはその言葉を聞きながら、心臓に冷たいものが溜まっていくのを感じた。

フローラの手紙の余韻と、今聞いた現実が、静かに重なっていく。


倉庫へ向かう道は、いつもと同じはずなのに、どこか歪んで見えた。

誰も口を開かないまま、五人は足音だけを響かせて歩き続けた。

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