第19話 無能
ロアとリオが弓の訓練を受けているそのころ、
別の訓練場では、剣の稽古が始まっていた。
「まずは素振りからだ!」
教官の声とともに、少年たちは一斉に木刀を構えた。
ファルクは練習用の木刀を、ひとりだけ短く握っている。
周囲の少年たちはひそひそと囁いた。
「なんだあの持ち方……」
「変なやつがいるぞ」
ファルクはその握りのまま、木刀を振り始めた。
縦、横、斜め──
手首を返すたびに軌道が切り替わり、木刀が縦横無尽に走る。
ヒュッ、ヒュッと空気を裂く音が続いた。
「なんだあれ……」
「素振りって、あんな振り方だっけ?」
少年らは、不審そうな目で見ている。
――だが、打ち込みの練習が始まると、空気が変わった。
ファルクは藁束を睨みつけ、
喉を掻き切る軌道で木刀を一閃させた。
ガリガリッ、と藁が裂けて飛び散る。
間髪入れず、体を滑らせるように横へ回り込み、
背後から突き刺すように木刀を突き立てた。
ドン、と鈍い衝撃。
藁束が大きく揺れる。
少年たちは息をのんだ。
教官が近づき、低い声で問う。
「……お前、どこで習った?」
ファルクは視線を落とし、答えた。
「……護衛をしていたので」
教官はファルクの腰に下がった短刀を見て、
納得したようにうなずいた。
一方、ハニスとラピンはというと――
「お前らはまず体力づくりからだ!」
――荷運びの訓練をしていた。
「今日は建物5周だ!」
ハニスはひょい、と土嚢を3つまとめて担ぎ上げた。
教官は思わず目を丸くする。
「おい……やるじゃないか。お前は良い荷運び隊になるぞ」
ハニスは微笑み、重さをものともせず歩き出した。
一方ラピン。
一番軽い土嚢に手をかけるが――持ち上がらない。
「もっと気合を入れろ!」
ラピンはびくっと肩をすくめた。
「……お前、そんなことでは何の役にも立たんぞ」
ラピンは絶望した表情で、ずり、ずり……と土嚢を引きずっていった。
ようやく武器庫の裏まで辿り着くと、
膝が笑って、その場にぺたりと座り込んだ。
そのときだった。
離れた倉庫のほうから──
裏手を走る少年たちの声が、風に乗って届いた。
「なあ……あいつ、ほんとに弱すぎないか?」
「荷運びもできないって、どうすんだよ」
「戦場に出たら真っ先に死ぬぞ」
耳当ての布をぎゅっと押さえる。
押さえても、声は止まらない。
「根性が足りないだけじゃないか?」
「いや、あれは無理だろ」
「足手まといになるだけだ」
さらに、武器庫の前のほうから、
教官の低い声まで聞こえてきた。
「……ああいうのは、どこに回しても役に立たん」
耳当てを押さえる指が震えた。
「……やだ……もうやだ……」
かすれた声が漏れる。
その声は誰にも届かない。
だが、ラピンの中で何かがぷつりと切れた。




