第十四話 人でない者達
「陰謀の臭いがする!」
会社でウォルフからの報告を受けたツクモが、机を叩き立ち上がる。
時折陰謀論に染まるツクモだが、違法薬物を大量に持ち運んでいる疑いのある男に、悪魔の血が混ざっているなら、間違いなく陰謀の類だろう。
「えー、ではお上に訴えて解決しようと思う人……シーン。全会一致で否決されました」
続いてツクモは、この件をどうするか社員たちに尋ねたが、反応は無言である。
面倒臭いから放っておけと思う者もいるが、今の浮遊王都がこの件を解決出来るかと問われたなら、絶対に無理だという信頼、実績が存在していた。
警察組織の立ち上げで四苦八苦している上に、王位継承でバチバチと火花を散らしている王宮にこんなことを伝えても、解決するのは百年先になるだろう。
なんなら、どこでその情報を知ったのだと問い詰められ、立ち回り方をしくじれば牢屋に直行する可能性だってある。
「まあ、お上が役に立たなくても、今の西地区でヤクを売りさばくなんて、俺らに喧嘩も売ってるようなもんでしょ。ボコボコにして吊るそうぜ。ヴァンプ、道案内よろしく」
「そうね」
歩き出したツクモにメリーも同調した。
こうなるとバカップルは何をする分からないため、ヴァンプ、ウォルフ、金魚鉢五人衆は肩を竦めながら、保護者役を務めるしかなかった。
「弁当を買いに駅のホームへ出たら、電車が出発したパターンになるなよ」
「でえじょうぶだウォルフ。あと二週間くらいここに留まってるらしいから、余裕よ余裕」
「その自信はどこから来るのやら」
「傲慢。慢心。自信過剰。パニックホラーのお約束さ」
ウォルフが、事態に対処している間に浮遊王都が動く可能性を指摘すると、ツクモはニヤリと笑った。
緻密で心配性な怪物など存在しない。
いつか敗れるその時まで、恐怖は傲慢に振舞う者なのだ。
オタクにはぼろ負けだったが、三歩歩くと忘れるらしい。
「あ、俺らがいない間の業務よろしく!」
ついでにツクモは別の社員たちに仕事を任せる。
これもまたブラック企業の傲慢!
「長閑だねえ」
そんなブラック企業の社長は浮遊王都から大地に降り立ち、騒がしい西地区との違いを感じながら歩く。
「メリーってばどこ歩いても様になるよな。いる場所が華やかになるって言うかなんと言うか」
「あら、貴方と一緒にいるからかもね」
「メ、メリー……」
そしてメリーとイチャイチャしていたため、他の連中はこいつら置いて帰る? と雰囲気で会話する羽目になっていた。
「しかし悪魔ねえ。専門家の俺は詳しいけど、きっと邪教の儀式を地下でやって、人類世界の崩壊を企んでるぜ」
「悪魔が関わっているならあり得る話だ」
「まあ、最低でも世界を救った英雄勇者様の子供がどんなもんかを知りたいだろうけど……いけるじゃーんってなるな」
「日本と同じ感覚で双子を扱うからこうなる」
ただツクモは予定を忘れていなかったようで、ヴァンプと考えられる限り最悪の想像をする。
英雄勇者レオンハルトの功績。その一つに悪魔の勢力を大きく削り落としたことが挙げられる。
基本的に魔界と呼ばれる領域に生息している悪魔は、人間達を娯楽のためのおもちゃとしか認識しておらず、酷い時には街が地獄の業火に包まれ、人々が生きながら食われてしまった。
だが英雄勇者レオンハルトが名だたる悪魔を討伐したことで、悪魔達は今の人間界が危険だと認識し、彼の治世で姿を現すことがなくなっていた。
それ故に、世界崩壊の企みは無くても、英雄勇者が死んだことで、彼の子供がどの程度かを測るため蠢動している可能性は十分にあった。
「いいじゃないツクモ。つまらない機械人形みたいな人間よりも余程マシよ」
「それはそう。感情の揺らぎがない人間とかなんの面白みもない」
ただ、メリーは人間らしく醜い争いを繰り広げている者達を好んでいるようで、迷惑の巻き添えを思いっきり受けているツクモも、それはそれとして人らしさを望んでいた。
「これは……着いたか? 臭いは森の中に続いてるな」
「え、結構近いんやけどリスク管理とかどうなってるんです?」
「分かってないなー。悪魔なんていう超自然的な存在が介入してるんやで。つまり……」
「アホってことですね間違いない」
「やはり科学。宇宙的科学こそナンバーワン」
「と、超自然的な存在の一部が申しており」
それから少し。
ウォルフの言葉で金魚鉢五人衆が騒ぐのも仕方ない。
なにせ浮遊王都を離れて数時間しか経っていない森に、違法薬物を運ぶ者達の拠点があると聞けば、誰だってそんな近くでいいのかと疑問を覚えるだろう。
「もうこれから夜だしいい感じじゃん。当たり屋の遊びに付き合ってくれますかお嬢さん?」
「ふふ。素敵な夜にしましょう」
「お手をどうぞ」
「よくってよ」
ツクモとメリーが目を細め、沈みかける夕日を眺める。
どこまでも傲慢に。高慢に。そして仰々しく。
逢魔が時。
メリーがツクモの手を取ると軽い足取りで森に足を踏み入れた。
影が覆った顔に満月の如き丸い目と三日月のような口が浮き出た男女を、世界が認識しなかったのは幸いと言えるだろう。




