ep32.ソフィアの闇と公爵の気持ち『公爵視点』
ソフィアにあんなにも深い闇があるとは思わなかった。…いや、違う。
何となく分かっていた。
ソフィアは他の令嬢とは違うから。
みんな俺に言い寄ってきた。
【公爵の位だから】【英雄だから】【金があるから】
【顔が良いから】
だから冷たくあしらった。そんな打算的な行動に俺も嫌気がさしていた。
初めてソフィアがこの邸宅に来た時もあんなに警戒心を抱いていたというのに、今ではそんな気持ち微塵もない。
むしろ一番信頼できる人にまでなっていると言っても過言ではない。
ソフィアは確かに言っていた。
あの日、あの時間。
どうやって泣けば良いのかと。
その時は俺もソフィアの言っていたことより気になったことがあったから聞かなかったフリをしたものの、こうなるくらいなら聞いておけば良かった。
しかしこれで分かった。
ソフィアは泣きたくても泣けない。
助けを乞えないのだ。
ソフィアから聞いたことを考えればすぐに分かることだった。
「で、お前たちから見たソフィアは?どう見える?」
一応聞いてみることにする。
俺の考えと同じだからと言って特に意味はないが答え合わせというところだ。
「一瞬、ソフィが感情を出していた時、俺には…泣けない姿の妹が目に映りました。……そしてその原因は、俺たちにあります…。」
どうやら解釈は一致したらしい。
だが兄だけが原因とは言えなかった。俺にも原因がある。
俺がソフィアを気にかけてやれなかった。俺がソフィアの部屋に行かなかったからあの物置部屋のような場所で数ヶ月も過ごさせてしまった。何日も拷問に掛けてしまった。
「そうだな。ソフィを実家に置いてろくに家に戻らなかったのはお前たちだ。俺がお前たちに責任を感じるな、などとは言えない。俺にも原因はあるしな」
「………」
当たり前のことだ。
こいつらを許すのか許さないのか、どんな対応をするのかはソフィアが決めれば良い。
そもそも俺だって彼女に酷いことをした。それをなかったことには出来ない。
だから
「どれだけ反省しようと行動に移せなければ意味がない。そうだろ?」
俺は圧をかける。
お前たちが勝手に間違えた行動をしたことにお前たちが落ち込むのは違うと。
態度で示せ、行動で示せ。お前たち二人がソフィアにとって安心できる家族であれるようにという意味を込めて。
「…その通りです。ありがとうございます。公爵様」
「分かったなら二人とも部屋に戻れ。今日は休息だ。」
俺が伝えると、弟の方が「お気遣い感謝致します。それでは失礼します」と言い兄と一緒に部屋を出た。
さて、誰もいなくなったところで、俺は俺でこの感情に決着をつけないといけない。
最近の俺はおかしい。
必要以上に自分からソフィアのところへと行くし、必ず食事もソフィアと取るようになった。
ソフィアが倒れた時は俺の心臓が止まるかと思った。これをソフィアに伝えれば何の冗談だと笑われて流されてしまいそうだが、確かに俺はそう思ったのだ。
常に側にいないと不安になる。
また知らないところで苦しんでいないか心配になる。
一見すると、ソフィアは誰にでも心を開く、そして相手の心も開かせているように感じる。
だが多分それは違う。実際は、ソフィアは他人に対して心を開いていない。相手の心だけ開かせる。
まだどこかで、常に警戒をしているような気がする。
"この違和感はどこから来てる?"
出来ることなら俺がソフィアを救ってやりたい。彼女に生きたいと言わせたい。
"…?待て………。"
"こんな状態で、俺はソフィアを殺せるのか…?"
…きっと無理だ。
もう俺には、ソフィアを殺すことは出来ない。
だがソフィアは、病気で死ぬ前にと俺に殺されることを望んでいる。
ソフィアが望まない限り、俺がソフィアに生きてほしいと望むのは俺のただのエゴでしかない。
たった三ヶ月一緒にいただけなのに、俺にはソフィアがいなかった時どうやって生活をしていたのか分からなかった。
俺の中でソフィアはなくてはならない存在になっている。
だが、分からない。
これが何という感情なのか、俺には分からなかった。
"今は知る必要はないか"
ソフィアを殺さなければいけない日まで残り三ヶ月。まだ大丈夫だろうとこの甘い考えがいつもソフィアを傷つけるというのに。
また俺は、俺自身を甘やかした。知ってしまえば、心臓の辺りが痛くなることを俺は何となく察していた。
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