ep31.私のことは気にせずに
当たり前。
だって、言ったところでこればかりはどうにかなるものじゃなかった。
"言ったとして何になる?"
お兄様たちを巻き込んで、余計ことが大きくなってしまうだけ。
それなら言わないほうが良かった。
子供の私も今の私も、その考えは今でも変わっていない。我ながら良い判断だったと思う。
「私は怖くてその場で固まってしまいました。だけどその間にも母の遺品はどんどん壊されていって、遂に母との思い出の物まで壊されそうになったんです。その時、身体が勝手に動いていました。必死に義母のドレスにしがみついて『壊さないで!』とひたすら叫んでいました。何度振り払われても、父と母とお兄様たちとの思い出の物だけは奪われたくありませんでした」
「ソフィ……」
「何度も何度も押し倒されてようやく、怒鳴る義母の声が聞こえた義父が来てくれたんです。義父は義母を抑えて、義父から『さっさと離れろ』と言われて離れました。唯一残ったものは、家族みんなで撮った家族写真でした。他は、全て義母の手によって壊されました。……これが、私が義母にされたことです」
ようやく話し終えたところで、三人は静まり返ってしまった。
私はこの空気も雰囲気も、あまり好きではない。私のことなんて気にせず、私が好きなみんなにはずっと笑い合っててほしい。
「あのっ…、もう気にしていませんし大丈夫ですので、そんなに気を落とさないでください」
「…………………………ろ…」
レオが下を向きながらボソッと言ったことが聞こえなかったので私が聞き返すと、今度は私の方を向いて、はっきりと言葉を発した。
「気にしていないわけ、ないだろ……」
「っ…!」
「そんなことがあって、辛くない訳がないだろ…!ソフィアが言ったんだろう。『母を失った悲しみや、酷いことをされた記憶は決して簡単に消えるものではない』と!……なら、お前も泣いたっていいんだ。大丈夫じゃない時があってもいいんだよ、ソフィア」
"………泣き方なんて覚えていない"
だって当時は、自分のことを気にしてる場合なんてなかった。
伯爵家では、常に誰の機嫌も損ねないよう行動して来た。
自分のことなんて二の次。それが私にとっての当たり前。
私が狼狽えたのが伝わったのか、ルイス兄様が図星をついてきた。
「ソフィ…。もしかして、泣けないのか……?」
ルイス兄様は、私のことに関する勘はピカイチだ。今回もズバッと当ててきた。
だけど、本当のことなんて言えるわけもない。
「っ…アハ、そんなわけないです。泣く理由がないだけですよ。全部終わったんですから。ね?」
自分に自分で言い訳をする。
そうしないと、何かが崩壊する気がしたから。
だけど三人とも私の心の枷を取り除こうと尽力している。
本来なら、どんなことがあろうと心の内を吐露することはないだろう。
だけど
「…ならせめて、苦しそうに笑うのはもうやめろ。本当に、ソフィアは大丈夫なのか?」
お兄様たちになら、レオになら、言っても良いかなと思ってしまった。
ずっと言いたかった。
このドロドロして、すぐにでも吐き出してしまいたい自分ですら見たくない感情。
「…大丈夫なわけ…ない……!お父様もお母様も亡くなって、手紙の返事なんて一通も来なくて。十一年間、会いにきてくれなくて。私は妹でも何でもないって………。もう疲れたの…。それで、私にまだ生きてって言うの…?」
今まで起こったことを口にしただけだが、精神的には疲れる人生だったと思う。
7歳まではほんと、普通の家族だったのに。
みんな仲が良くて、一緒に食事して、話して、笑って、たまにハグしたり甘えたりして、楽しかった。幸せな時間だった。
"だけど今は?"
比較してもしょうがないことくらい分かってる。
でも疲れたのだ。
大切な人や物があればそれは全て義母によって壊される。
そんな恐怖が、不安が、私の心を巣食ってくるのだ。この怖さに11年、私は耐えてきた。
まだ、耐えないといけないのか。そう考えれば考えるほどに、私はこの先生きていこうとは思えない。
カルロスは言った。私を死なせはしないと。
違う。私は望んでいる。
"うん、望んでいるの"
私は私が死ぬことを望んでいる。
だからもうさっさと私を…
「……___っ!ごめん…!独りにして、ずっと、寂しい思いをさせて…。泣き方を忘れるくらい追い詰めて、本当にすまない…!」
「今更そばに居るなんて都合の良すぎる話は聞きたくないかもしれない。だが、ソフィの側にいさせてくれないか………。もう後悔はしたくないんだ…」
私はリアム兄様とルイス兄様が涙目になりながら謝り懇願している姿を見て正気を取り戻した。
そしてその姿を、羨ましくも妬ましくも思ってしまった。
まだ二人は泣くことが出来る。
もちろんレオも。
私の涙はいつから出なくなったんだろうかと考えてしまう。
泣いてしまったら私の中の何かが壊れる、我慢が出来なくなる。
そう思ってずっと仮面をつけていた。
でも、辛さや苦しさを表現するための涙は絶対に仮面からは出ない。何故なら仮面だから。仮面から涙が出ないのは当たり前。
どれだけ仮面で悲しいのを表現しようと辛い顔を表現しようとしても、涙だけは出てこない。
仮面に隠れてしまうのだ。
私の仮面はもう自分の一部となってしまった。その仮面は中々頑固で取れない。
私を守るようにしている様々な仮面は私の素の顔を覆い被す。
そうやって今までも、私は私を守って来た。
今回だってまだ、私はどれだけ剥がそうとしても離れない仮面をつけたまま接するしかない。
けど今、ほんの一瞬、仮面が少し欠けた気がした。外れていないことに変わりはないけど。
"まだ外れないや……"
「……取り乱してしまってすみませんお兄様、公爵様。私はもう大丈夫です」
「…っ、分かった。今は信じてやる。だがそれとこれとは別に、これからはソフィアの兄たちにもここに住んでもらう」
「私は大丈夫ですが、お兄様たちは大丈夫なのですか?」
「ああ、問題ない。今まで休みなんて取ってこなかったからな。むしろこの機会にといっぱい休みをつけてくるはずだ」
なんだが不思議な感じがする。
レオが、私とお兄様を繋げようとしてくれてるのが分かる。
レオは自分のことを優しくないと言うが、やっぱり私の考えが変わることはなく、レオは優しいという結論に至った。
「公爵様」
「ん?どうした?」
「ありがとうございます」
「っ…〜〜___。ハァ…」
私がお礼を言うと、レオは特大なため息をついてまた私の頭を撫でた。
それから、今日は休んでいろとレオとお兄様たちに念を押され全員部屋を出た後、私は読書で暇を潰した。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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