ep26.リアムとルイス『ルイス視点』
つい最近、キャンベル伯爵家の令嬢と、サリバン公爵家の当主が婚約したという噂を聞いた。
その噂が本当ならばと、俺は居ても立ってもいてられず急いでリアムがいる騎士団の寮へと向かった。
「リアム!」
「ん?どうしたルイス。そんなに慌てて」
「ソフィアが婚約したって噂を聞いたんだ!急いで確かめに行かねぇと!」
「落ち着けルイス。俺もその噂を聞いて少し調査したが、どうらや本当のようだ。だが休みを取るには少し時間がいるだろ。もう少しだけ待て。すぐ休みを取ってサリバン公爵家に行こう。」
いつもは冷静沈着のリアムが、今回ばかりは少し焦っているようにも見えた。
それもそのはず。十一年間もやり取りのない妹がいきなり婚約したと言えば、流石の兄でも慌てる。
こうしてすぐに俺とリアムは休暇を取った。
サリバン公爵家を訪ねると、60代くらいの執事が応接間まで案内してくれた。
実際に見るまでは信じられないと待っていると、すぐにソフィアが出て来た。
11年ぶりに会った妹は、本当に綺麗になっていた。だからこそ、余計に俺は、ここの公爵の噂を知っているのかと聞きたくなった。
聞くと、コイツは「どうして今更私を気にかけるフリなんかするのですか…?」と聞いて来た。
そこで、俺の心の平和は完全に乱れた。
俺たちが数年送り続けた手紙を無視しているコイツが何を言っているんだと、無性に腹が立った。
我が妹ながら性格の悪さにはあっぱれだと言ってやりたい。
"…いや、こんなやつ妹でもなんでもない"
俺たちが頑張って騎士になった努力も、手紙で綴った心配も、全てを無かったことのようにするコイツが妹な訳がない。
俺たちに妹なんていなかった。
騎士団に入ったのは憧れからだ。誰かを守りたかった訳じゃない。
そう思わなければやっていけなかった。
だから俺は、そのまま言葉にした。俺たちはお前を妹だと思っていない。明確な意思表示。
すると、あり得ないことをコイツから聞かされた。
一つ、コイツは手紙を五年間書き続けたということ。
二つ、俺たちからの手紙は一通もコイツの手に届いていないということ。
俺は信じられずに、難しいことだと分かっていながら証拠を求めた。
すると、コイツはいとも簡単に証拠はあると説明してきた。
逆に俺たちが手紙を送った証拠はあるのかと聞かれたがそんな証拠ある訳もなく、自分でした質問を返され、理不尽にも怒ってしまった。
だがアイツは何の動揺もせず、ただ悲しそうに笑って「…ルイス様は私に証拠をお聞きになったから応えたのに、ルイス様は声を荒立てて証拠なんてないと仰るのですね。」と応えるだけだった。
その後アイツは振り返ることなく要点だけをまとめて部屋を出て行った。
今もまだ、俺はアイツの言っていたことを信じられずにいた。
「…どう思う。」
俺はリアムに意見を求めた。
俺よりもリアムの方がいつも冷静なため、俺が苛立っている時は大抵リアムに意見を求めることにしている。
「…行くぞ、伯爵領に。信じられなければ事実を確認しにいけば良い。ソフィもそう言っていたしな。」
「…そうだな。」
俺たちは決意し、休暇を延長した。
幸い、俺たちはこれまで休みを殆ど取ってなかったので、逆にこの際たっぷり休みを取ってこいと上司にプラスで二週間の休暇を渡された。
そしてそのうちの一週間を、俺たちは調査に当てた。
半日をかけて伯爵領まで向かい、まず行ったのは便箋の売っている店だった。
便箋の売っている店と言ってもいくつかあるので、まずはアイツが使っていた店を探すところから始めた。
そしてちょうど一日目の休暇の終わり頃、アイツが使っていたらしき店を見つけた。
「少し良いか?」
「はい…。って、騎士様…?本日はどんなご用でしょうか」
「10年ほど前、何度も便箋を買いに来ている少女がいなかったか?」
「10年ほど前………あ!いましたよ。とても可愛らしい女の子でした。」
「その子の特徴は?」
今日は久しぶりに、騎士になって良かったと思った。
こういう個人情報的なことを聞くのには、ある程度の信頼される何かが必要だ。
そんな時、騎士という位は民を信用させるのに十分な役割を果たしてくれる。
「色白で、銀色の髪に碧い目をしている子どもです。」
俺たちはアイツの昔の写真を見せた。すると
「ええ…!この子です。この子が何年か前まで便箋を定期的に買いにきてくれていました。」
俺たちは目を見合わせてすぐ、店長にお礼を言って店を出た。
「…本当だったな。」
「…おう。」
俺はそれしか応えることが出来なかった。
だが、まだ信じられない。俺たちが数年書き続けた手紙の行方がまだわからないからだ。
「明日、キャンベル伯爵のところに行ってみるか。もしかすると何か分かるかもしれない。」
本当にいつも考えを見透かされているようで、自分の兄でありながらも少しゾワっとする。
「そうだな。行ってみようぜ。久しぶりに。」
◇◇◇
「お久しぶりです。お義母様、お義父様」
俺たちはあまり好きではない、というか大嫌いな人のところへ挨拶に向かった。
俺は敵意剥き出しで挨拶してしまうため、いつもリアムに任せている。
「…久しぶりだな。部屋はそのままにしてあるからそこを使いなさい。」
言葉を発したのは義父だけで、義母は予想通り一言も発さなかった。
それこそまるで俺たちなんていないようにラリアの方へと向かっていった。
久しぶりに味わった。この空気のような扱い。
"アイツはずっと、こんな環境を十一年間も耐えていたのか……"
「ありがとうございます。お義父様。」
リアムが礼を言うと、義父が突然俺たちに耳元でこんなことを言って来た。
「二人とも、妻が寝た後執務室へ来なさい。渡したいものがある。」
「……分りました。」
俺たちは遂に義家族の縁を切るのかと思っていたが、どうやら違ったらしい。
それが分かったのは、義父が俺たちに渡したものを見てからだった。
夜中、義父の言う通り執務室へ向かうと、義父がソファに座り、テーブルには少し大きめの箱を置いて座っていた。
「「失礼します。」」
ソファに腰を下ろすと、さっそくと言った感じで本題に入った。
「よく来たな。これが、お前たちに渡したかったものだ。開けてみなさい。」
恐る恐る開けてみると、それは束になって縛られていた数百通にも及ぶ手紙だった。
一瞬で分かった。
昨日見たことのある便箋。そしてその隣には、俺たちが毎週書いていた便箋があった。
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