ep25.帰ってほしかった
「何かご用ですか」
「……ソフィア…。」
「…本当に、すまなかった……。」
次男であるルイスお兄様が私の名前を呼び、リアムお兄様が私に謝罪をしてきた。
「全部俺たちの勘違いだった…。」
「……そうですか…。それが分かって良かったです。…今日はもう、帰って頂けませんか…」
「どうして…!やっと誤解が解けたのに…!」
何故と言われても、心臓が痛いとは説明出来ない。
痛い。
叫びたい。
苦しい。
ここで大切なものなんて作ってしまったら、死ぬのが怖くなってしまう。
「ルイス様が言ったんじゃないですか。私は、あなた方にとって、妹でも何でもないと。」
「っ…!!…っすまなかった!絶対に言ってはいけなかった…!、お前を守ると誓って離れたのに…どれだけ罵ってくれても構わない…!だからまだ俺を、お前の兄でいさせてくれないか…。」
「ルイスの言う通りだ…。妹を信じることも出来ぬ不出来な兄で、本当に申し訳ない…。俺も、ソフィアの兄でいさせてほしい……。許してくれなんて言わない。恨んでくれて構わない。だが一度だけ、俺たちにチャンスをくれないか」
二人の真剣な謝罪。
私だって、兄が好きだ。
私を守ると言ってくれた頼もしいルイス兄様が。
優しくていつも私の側にいてくれたリアム兄様が。
こんなに真剣に謝られて許さない訳がない。
だけど、それとこれとは別に私の身体が悲鳴を上げている。許す許さないでお兄様たちに帰れと言っている訳じゃない。
私の苦しむ姿を見せたくなくて帰れと言っているのだ。
なのに、変なところで頑固になるこの二人は帰る気配が一向にない。
「…別に、怒っていません。怒っていませんから、今日は一度、帰って頂きたいのです。その代わり、次の休みには、また話しましょう……。」
「ソフィア…?顔色が悪くないか…。部屋まで送る……ぞ…。」
ーゲホッー
"ああ、だから帰って欲しかったのに…"
「ゲホッ、ガハッ___!」
咳き込んで吐血してしまうのと同時に、私は座っていたソファに倒れ込んでしまった。
心臓の痛みと吐血が重なって、言葉では表せないほどの痛みが私を襲ってくる。
「___っ"〜〜〜〜ー………」
「ソフィ?!おい、おい!どうした?!しっかりしろ!クッソ!!どうすれば…!」
「落ち着けルイス!ソフィ、公爵を呼んでもいいか?」
今この状況では、レオを呼ぶ他に解決方法がない。丸一日ここで寝込む訳にもいかないし、もう仕方ないのかもしれない。
それに、痛み止めを飲んだとしても完全に痛みがおさまる訳じゃない。
「…ハ…ィ。」
「分かった。」
そう言った後、リアムお兄様は一度部屋から出た。残ったのは私の頭を撫でるルイスだけだ。
「…ソフィ、大丈夫か…?」
「……痛い…」
「っ…そうだよな、痛いよな。」
「…ぃたい…。ルイス…さま…。」
「ごめん…ごめんな。お前は俺の妹じゃないなんて言って…。結局、俺はソフィアを守るどころか傷つけて…本当にごめん。」
謝り続けるルイス兄様の優しく私を撫でる手に私の手を重ねた。
ルイス兄様を安心させるには、この方法しかないと思った。
「私は…大丈夫です………。あの……ル、イス様…。」
「ん、どうした…?」
「私は、ルイス兄様と…。リアム兄様の、妹ですか…?」
「っ当たり前だ…!もうソフィを疑うような馬鹿な真似はしないから、俺たちに元気な姿を見せてくれ……。」
「………そっかぁ…、よかった………。」
私が兄様たちに元気な姿を見せ続けることがこの先出来るか、それは正直分からない。
だから笑って見せた。兄様たちに嘘はつきたくなかったから。
ルイス兄様と少し会話をしていると、リアム兄様がレオを連れて戻ってきた。
「ソフィアっ!!」
レオがまた不安そうな声で私を呼んだ。
ここ最近ずっとレオを不安にさせてる気がする。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「すみません、こうしゃくさま。必ず…おはな、し。しますから。少しだけ、待っていてください。」
「…っそんなこといくらでも待つから…!無理はするなと言ったのに…。」
「あは…すみません。」
「…そう何度も謝るな。部屋まで運んでやるから。俺の首に手を回せるか?」
ぶっきらぼうな優しさだ。
口調をどれだけ強くしようと、発言から優しさが滲み出ている。
痛いため意識を失うことも出来ず、ただひたすらこの痛みに耐えるしかない。
どうしても、抱えられている間もレオの首元の裾を強く掴んでしまう。
そんな時も
「痛いんだな…。」
なんて、なんの事情も話していないのにまるで全部分かっているみたいにレオは察してくれる。
その察しの良さが有り難くて、つい甘えてしまう。
部屋へ着くと、優しくベッドの上に寝かせてくれた。
「ありがとうございます。」
私が微笑むと、レオは私の頭を撫で、兄様たちは今私が一番欲しい言葉をくれた。
「無理に笑わなくて良いんだ。ソフィ」
「っ…」
「そうだぞソフィ。これはお前の悪い癖だ。いつも体調不良を隠して無理に笑おうとする。だが、そうさせてしまったのも俺たちだよな。これからはそんなことしなくても良いから。俺たちが側にいる。」
勝手にいなくなったくせに、こういう時だけ側にいるなんて言ってきて私を混乱させてくる。
だけど、そんな兄様たちが、私はどうしようもなく好きだ。
「ありがとうございます。リアム兄様、ルイス兄様、公爵様。」
翌日、無事にあの地獄の痛さを超えた。代わりに、病み上がりに加えて精神的な辛さが応えたのか、今日は高熱が出た。
痛みが治ったのはやはり早朝だったため、私はまだ寝れずにいた。
レオと兄様たちは、ずっと私の部屋にいてくれた。三人とも私の背中をさすってくれ、頭を撫でて、私が悶えている間ずっと、声をかけてくれた。
今日は医者を呼んでもらった。流石に説明しないといけないだろう。
どうしてこんな体調なのか。良い頃合いだ。兄様たちもいるし、説明するタイミング的にもちょうど良い。
「診断は終わったか?」
レオが訪ねると、医者は暗い声で「はい」と応えた。
このままでは医者が全て言ってしまいかねないと思った私は、慌てて小さな声で医者を口止めした。
「あの、お医者様。私は自分がどんな病気なのか既に他のお医者様の診察で知っています。自分の口から説明したいので、熱の原因だけ三人に説明してくださいませんか?」
医者は少し悩んだ後、眉間に皺を寄せて分かりましたと言ってくれた。
「高熱の原因はストレスと疲労かと思われます。最近ご無理をされたりストレスになるようなことはありませんでしたか?」
「「「……………」」」
各々に心当たりがあるようで、三人とも同じような表情をしていた。
医者も顔を見て判断したのかため息をついた後説明を続けた。
「お三方とも分かっているとは思いますが、今後ご令嬢にストレスを感じさせるようなことはなさらないでください。見たところ、皆さんご令嬢のことをとても大切に思っているようですので大丈夫だとは思いますが。」
「「「当たり前だ…!」」」
三人ともずっと同じ反応を見せるので、医者はもう一度ため息をついた。
「はぁ。何故ここまで大切に思っていながら極度のストレスと疲労を感じさせることになるのですか?」
なんだかだんだん説教じみた話になって来たので、熱のしんどさと一晩寝れていないのとで目を開けるのも限界だった私は眠ることにした。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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