ep12.会いたくなかった人
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「令嬢は、俺が嘘を言っているとは思わないのか?俺が女に触れられたくない言い訳だとは、思わないのか…?」
その発言をどういう意図で言ったのかは分からない。
でも、レオが私に過去を話して後悔するなんてことだけはさせたくない。
「この話が仮に嘘であったとしても、公爵様が女性との関わりでお辛い思いをしたからこその今があることには変わりありません。それに、言い訳だとは思いません。公爵様は簡単に嘘を付きませんから。」
「っ!……そうか。」
この後会話はなかった。
それでも気まずくなかったのは、レオが私に少しだけ気を許したからだろう。
馬車から降りると、レオは執務室に、私は自室に戻った。
別れ際に、レオが小さい声でありがとうと言っていたのが聞こえたのは内緒の話である。
◇◇◇ 〜二週間後〜
「お綺麗です。お嬢様」
「ありがとう。アイヴィー、アメリア、フィービー。」
私が公爵邸に来て早くも一ヶ月、死ぬまでは後五ヶ月、そして今日は、婚約パーティーの日だ。
私に専属のメイドはいないが、初めに私に敵対心を抱いて髪を引っ張ったメイドとその後ろにいた二人が何故か私の用意を手伝ってくれている。
今は敵対心は抱いていないようだ。
むしろあの日から毎日会いに来てくれているので、名前を聞いたら普通に教えてもらえた。
何がしたいのかよく分からないが、私がレオを恋愛的に好きだという変な誤解が生まれていないのであればそれで良い。
「旦那様は会場前でお待ちです。」
「ええ。行ってくるわ。」
レオが過去を話してくれたその日から二週間、少しずつ触れる面積を増やして特訓した成果を見せる時が来た。
初めは本当に指先が触れただけで肩を震わせていたが、今では大分マシになったと思う。
そんなこんな、色んな考え事をしていると、扉の前でレオが待っているのが見えた。
ドレスが崩れないよう慎重に歩き、レオに近づいた。
「公爵様、お待たせいたしました。」
「っ!_ああ、では行くか。」
私はレオと腕を組んだ。
レオはこの二週間で慣れたようで、私と腕を組んでも顔色が悪くなることはなくなった。
私とレオの用意が整った時、入り口の大きな扉が開いた。
瞬間、先まで扉越しでも聞こえていた賑やかな声は、私とレオの登場によって一気に静かになった。
「見ての通り、私はキャンベル伯爵令嬢ソフィアと婚約を結ぶ。此度は招待に応じてくれて感謝する。どうか楽しんでいってくれ。」
挨拶はとても短いもので、レオの話が終わった後は、割とすぐに先程の賑やかな会場に戻った。
違ったのは、賑やかながらも私とレオを見る視線と、一人一人が私たちに挨拶に来ていることだった。
「この度はご婚約おめでとう御座います。どうか今宵がお二人にとって良きものとなりますように。」
この台詞を永遠と聞き続けた。
こうして今日も何事も無く終わる。そんな甘い考えをしていた。
だけど、思ってもいない人たちが来てしまった。
「ソフィア」
「…っ___!!?」
…公爵家に、私を下の名前で呼ぶ人はいない。私を下の名前で呼ぶ人はお父様とラリア、お兄様たちと、……。
「…お、義母…様…?」
どうして、パーティーを開くと言った時点でキャンベル伯爵家も来るかもしれないという考えに至らなかったのだろうか。
そもそも、キャンベル伯爵家が招待される可能性は低くなかった。むしろ招待される可能性の方が高かっただろう。
とにかく、この状況を切り抜けなければ。でもどうやって…?
「久しぶりね。会えて嬉しいわ。ね、せっかくだし二人で話さない?家族水入らずで。」
家族水入らずならレオも良いのではと思ったが、義母なりの皮肉なのだとすぐに分かった。
つまり、しているのは婚約であって結婚ではないからまだ家族ではないことが言いたいのだろう。
「…………もちろんですわ。お義母様…。…公爵様、少しだけ外しますね。」
「ああ。」
そう言って、私とお義母様はテラスに出た。
正直、油断していた。公爵家に来て一ヶ月。疲れはしたけど、辛いだなんて思ったことはなかった。
部屋だって、寝る時を除けば掃除も済ませたので埃もないし快適とは言えないが困るほどのことではなかった。
だからだろうか。一ヶ月ぶりにお義母様と再会するのは、とても苦しい。
「お義母様。…お久しぶりです。」
テラスに着き改めて挨拶をすると、お義母様は心底不機嫌だったのだろう。
突然私の首を絞めた。
「…どうしてあなたなんかが公爵様の婚約者になってるの…?公爵様に相応しいのは私の娘よ?なのにお前ときたら……!」
お義母様がここまで話してようやく、私の首は解放された。
首を絞められていた時間が悪かったのか、私は思い切り咳き込んでしまった。
「本当に卑しい。あの女そっくりだわ。…三ヶ月猶予をあげる。その間に婚約を破棄しなさい。出来なかったら、その時は覚悟しなさい。」
咳が止まらない義理の家族にかける言葉がそれなのか。私は呆れて笑ってしまいそうになるのをグッと堪えた。
「…かしこまりました。お義母様。」
早くこの空間から出ようとテラスを開けようとすると、腕を強く掴まれた感覚があった。
後ろを振り向くとお義母様は私を睨んだ。
「まさか、そのままここを出るんじゃないでしょうね。これを着けて戻りなさい。私がやったことがバレないようにね」
そう言われて渡されたのはスカーフだった。なるほど、これを首に巻いてバレないように戻れと言うことだろう。
死に急ぎたくなかった私はお義母様の言う通りにしてレオの隣へと戻った。
若干不審がられたが、寒かったのでお義母様に貸してもらったと言えばそれ以上質問されることはなかった。
お義母様と話した後は、他の女性からの痛い視線以外は何事もなく順調に進み、パーティーも無事に終わった。
後片付けは公爵家の侍従に任せて、私とレオは少しだけ執務室で話をしていた。
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