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第12話 損して徳とれ

『もっと需要があるところはどこかを考えてみるといい』



 その言葉が、わたくしの頭の中を巡る。

 あれから気分転換も兼ねて街の市場へ来てみたけれど、オスカーに言われた言葉が気になって、それどころではなかった。



(あの言い方……もしかしたら、オスカーにはより良い市場(しじょう)が浮かんでいるのかしら?)



 だとしたら、教えてくれてもいいのに……。


 そう思って、わたくしはすぐに首を横に振った。


 なにを考えているのよ、フェリシア!

 自分で考えなければ意味がないわ!

 それに、仮にオスカーにいい考えがあったとしても、それが本当に成功するのかわからないじゃない!


 これはわたくしが始めた商売だ。

 だからわたくしが自分で考えて、自分で決めなくては意味がない。


 甘えてはだめよ。


 でも、すでにわたくしに良いアイディアがあるのなら、もう行動に移しているわけで……。



「……はぁ」



 結局最初の問いに戻ってきてしまって、わたくしは大きくため息をつく。



(もっと需要があるところだなんて、いったいどこだっていうのよ……)



 イライラとモヤモヤの混じったわたくしの気持ちとは裏腹に、タラセイアは今日も青空が眩しかった。街並みが白で統一されているので、余計に明るく見える。

 その中でも市場は、いつもと変わらない活気に満ちていた。



「いらっしゃい!今日はいい魚が入ってるよ!」


「今年はスイカが豊作だよ!どうだい、一つ!」


「奥さん!奥さん!よっていってくれよ!珍しいスパイスが入ったんだ!」



 あちらこちらから聞こえてくる、商人たちの声。

 毎日のことではあるのだけれど、なんて賑やかなんでしょう。


 港街なのだから、魚があるのは当然よ。なんの魚が入ったのか具体的に言った方がいいわ。

 スイカが豊作だったってことは、今年は少し安くなるのかしら?量にもよるけれど、加工品を考えてみても楽しそう。

 珍しいスパイスというだけでは、どう使えばいいかわからないわよ。具体的な使い方も伝えたら、手に取りやすいのではなくて?


 聞こえてきた言葉から、ついついそんなことを考えてしまう。

 けれど、わたくしはそれが好きだった。


 王都の屋敷にいたときから、こうして考えている間だけは嫌なことを忘れられた。

 それにあそことはまた違って、ここの市場では色々なものがある。だから余計に楽しくて、仕方がない。


 目を閉じて、耳に意識を向けてみる。

 聞こえてくる声だけで、いろんなアイディアが浮かんできた。



(……あの靴のことも、こうやってすぐに何か案が浮かんできたらいいのに)



 そっと、わたくしは目を開いた。


 仕方ないわ。焦るだけ、時間の無駄よ。

 それよりも、せっかく市場に来たんだし、何か買っていこうかしら?


 気持ちを切り替えて、視線を並んだ店に移した時だった。



「あら、フェリシアさん」


「?……あぁ、クレア!」



 突然後ろから声をかけられ振り返ると、そこには両手で袋いっぱいの荷物を抱えたクレアが立っていた。



「こんにちは!お久しぶりです!!!」


「えぇ、その節はありがとうね」



 朗らかに笑うクレアに、わたくしも笑ってお礼を伝える。

 けれど正直、バツが悪い。


 あんなに協力してもらったのに、あの靴がまったく売れていないだなんて……。

 察してはいるのでしょうけれど、わたくしの口からはとても伝えることができなかった。



「いいえ、私なんかでよかったら!それにあんな踵の高い靴、今まで履いたことがなかったので、とても楽しかったです!」


「そう……」



 ……そうよね。

 やっぱりオスカーの言う通り、あの靴は本当に一部の人にしか需要がないんだわ。


 わたくしは無意識に、拳を握りしめていた。



「それにそのおかげで、歩くのがとても楽になったんですよ!」


「えっ……?」



 一瞬、なにを言われたのかわからずに、わたくしは目を丸くした。


 なぜ、クレアが楽になっているの?



「実はあの人に頼んで、普段の靴にも同じように土踏まずに出っ張りがある靴を作ってもらったんです。これが本当に楽で!立ち仕事が多いのでとても助かっているんです」


「普段の……靴に?」


「はい」


「……クレアッ!!!」


「?!」



 思わず、わたくしはクレアの手を握りしめた。

 そのはずみで、紙袋の中からりんごがいくつかこぼれ落ちていく。

 けれど、それどころではない。


 そうよ!これ!これだわ!!!

 別に貴族令嬢だけに限定する必要なんてないじゃない!!!


 靴を履く人、すべてに向けた商品にすればいいのだわ!!!



「クレア、ありがとう!!!わたくし、すぐにミゲルのところへ行って、話をつけてくるわね!!!これ、わたくしが持っていくわ!!!」


「え、えぇ……」



 困惑するクレアから、半ば強引に紙袋を奪い取って、わたくしは急いでミゲルの靴屋へ向かった。



「力仕事をする人なら……疲れない靴があれば、とても便利だわ。立ち仕事の人だって、脚が疲れるわよね。でも、万人に向けて売るとなると、最初に作った靴以上に種類が必要になるわね?そこをどうやって解決したものかしら?それに価格も、できるだけ抑えるようにしなくっちゃ……!」



 考えていることが溢れてきて、独り言を話す口が止まらない。

 まだまだ問題は山積みではあるけれど、機能面はミゲルと、金銭面に関してはニコルと一緒に考えれば、きっとなんとかなるわ。


 だってこれなら……これなら今度こそ、売れるもの!


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