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敗北の烙印

地獄のような夜が明け、調練場を支配していた狂乱の熱気と生々しい血の匂いは、凍りつくような静寂へと変わっていた。

石床の上には、昨夜の屈強な男たちによる凄絶な折檻と蹂揚によって、完全に生気を失ったロキが、ピクリとも動かずに横たわっている。引き裂かれた衣服の隙間から見える肌は青白く、全身が打撲痕と男たちの荒々しい手形で変色し、後ろの窄みから流れ出た血が床に広がって、どす黒い拒絶のシミを作っていた。

かつて数万の民衆を熱狂させた白銀の聖騎士、国の守護神とまで称えられた男の面影は、もうどこにもない。そこにあるのは、ただ乱暴に使い潰され、尊厳のすべてを剥ぎ取られただけの「肉の塊」だった。

コツン、コツン。

冷酷な、しかし気高き靴音が、再び地下室に響き渡る。

高座からゆっくりと階段を下りてきたのは、純黒のドレスを纏ったマーリンだった。彼女の視線は依然として氷のように冷たく、その隣には、満足げに微笑む魔女レイナが、長い黒髪を弄びながら影のように付き従っている。

マーリンはロキの傍らまで歩み寄ると、一歩手前で足を止め、指一本触れようとはせずにその無残な姿を見下ろした。

「……起きなさい、ロキ。いつまでそうして泥のように眠っているつもり?」

その冷ややかな声が耳に届いた瞬間、ロキの身体がビクリと跳ね上がった。

昨夜、彼の肉体と尊厳を徹底的に破壊した3人の大男たちの背後にいたのは、他ならぬこの少女だ。その冷酷な事実が、魔力を失ったロキの脳髄に「逆らえば、再びあの地獄が始まる」という絶対的な恐怖の条件反射として刻み込まれていた。

「あ、う……あ…………」

ロキは震える手で冷たい床を押し、軋む肉体の悲鳴を堪えながら、這いつくばるようにして顔を上げた。

血と涙、そして男たちの体液で汚れたその顔は、屈辱と恐怖で酷く歪んでいる。彼の瞳からは、かつてマーリンを「家畜」と呼んで見下していた傲慢な光は完全に消え失せ、ただ主の機嫌を伺うだけの怯えた獣の光が宿っていた。

「ま……マーリン……王女、殿下……。私は、私はもう……貴方に、逆らいません……。だから、もうあいつらを、あの男たちを呼ばないでくれ……っ!」

床に額を擦り付け、涙を流して懇願する元英雄。だが、マーリンはその哀れな姿を見ても、眉一つ動かさない。

「まだそんな口が利けるのね、ロキ。貴方は男たちの暴力で肉体を屈服させられたかもしれないけれど、その心の奥底には、まだ『元聖騎士』としての小賢しいプライドがこびりついているわ。……ねえ、レイナ?」

「くすくす……、そうだね、マーリン。この男の目は、まだ完全に『壊れて』はいない。本当の絶望ってやつを、脳の髄まで染み込ませてあげる必要があるねぇ」

魔女レイナが真紅の瞳を妖しく明滅させながら、一歩前に進み出た。

マーリンは一歩下がり、やはり自身の指一本汚さぬまま、レイナへとすべてを委ねる。

「ひ……っ!? 来るな、魔女……! 私に何をするつもりだ……っ!」

ロキが恐怖に顔を戦慄かせた瞬間、レイナの細い指先から、どす黒い魔力の霧が立ち上った。

「さあ、お遊びの時間だよ、元英雄様。肉体の痛みの次は、精神を徹底的に磨り潰してあげよう」

レイナがパチンと指を鳴らすと、ロキの首に嵌められた黒鉄の首輪が激しく共鳴を始めた。首輪の内側の突起から、目に見えない「魔噬の呪詛」がロキの神経へと直接流れ込む。

「がああああああああっっっ!?!?!?」

ロキは頭を抱えて床を転げ回った。肉体的な傷を一切つけない、しかし脳の痛覚を限界まで強制暴走させる魔術的拷問。

「いい鳴き声だねぇ! でも、これはただの呼び水さ。私の真骨頂を見せてあげる」

レイナは冷酷な笑みを浮かべ、ロキの額にそっと指先を触れた。その瞬間、ロキの視界が反転し、地下室の風景が消失する。

ロキが気づいた時、彼は「かつて自分が最も輝いていた聖誕祭の式典」の幻覚の中にいた。数万の民衆が自分を称え、歓声をあげている。……しかし、その歓声は一瞬にして、おぞましい嘲笑と罵声へと変わった。

『見ろよ、あの無様な姿を!』

『闇奴隷売買の犯罪者が、英雄の面をしてやがる!』

『汚らわしい! 早く処刑しろ!』

幻覚の中の民衆たちが、一斉にロキの身体を泥や石で打ち据える。かつて自分が得ていた名誉、地位、賞賛のすべてが、最悪の形で自分を拒絶し、吊し上げる狂気のビジョン。

「やめろ……! 私は英雄だ! 私は国を救ったんだ! 嘘だ、こんなものは嘘だァァァ!!」

精神の檻の中で、ロキは発狂したように叫ぶ。しかし、レイナの拷問はそれだけでは終わらない。

幻覚はさらに変貌し、昨夜自分を蹂躙した3人の大男たちが、今度は何十人、何百人という大群となってロキの前に現れた。彼らは下卑た笑みを浮かべ、無力なロキの身体を四方八方から掴み、再び彼の『後ろ』を、肉体を、尊厳を、容赦なく、そして永遠に終わらないループの中で蹂躙し始める。

「あ、があああああっ! 嫌だ、もう嫌だ! 壊れる、私が壊れる……っ! 助けてくれ、マーリン! 助けてくれえええ!!」

現実の調練場では、ロキは白目を剥き、口から大量の泡を吐き散らしながら、床の上でガタガタと激しく痙攣し続けていた。

レイナの精神拷問は、ロキの脳内に「数百日分の蹂躙と絶望の記憶」を、わずか数分間の間に直接叩き込んでいたのだ。彼の「聖騎士としての誇り」や「いつか復讐してやるという反抗心」は、その圧倒的な精神的恐怖の濁流によって、根元から徹底的に磨り潰され、ドロドロの従属心へと作り変えられていく。

「あはは! 脳みそまでしっかり『家畜』に染まったようだねぇ!」

レイナが手を離すと、ロキは激しい過呼吸を起こしながら、ゴミのように床へ崩れ落ちた。その瞳からは完全に知性が失われ、ただただ、恐怖の対象であるマーリンとレイナを見上げて、ガチガチと歯を鳴らすことしかできなくなっていた。

「素晴らしいわ、レイナ。……さあ、最後の仕上げを始めましょう」

マーリンの氷の声が響く。彼女は一歩も動かず、ただ背後に控えていた看守長の男へ顎で指示を出した。

看守長が、調練場の奥から赤々と燃える炉の中で限界まで加熱された一本の鉄棒を取り出してきた。その先端には、マーリンの私邸の紋章であり、同時に「犯罪奴隷」を永久に縛り付けるための禁忌の呪印が象られた、真紅に染まる烙印ブランドが据えられている。

ジュウウウ……と、空気を焦がす不気味な音が地下室に満ちる。

「ひっ……! あ、あう……あ…………」

ロキは本能的な恐怖に顔を青ざめ、再び後ろへ逃げようとした。しかし、レイナの拷問によって完全に戦意を喪失した肉体は言うことを聞かない。待機していた元傭兵と巨漢の二人が、即座にロキの身体を上から容赦なく押さえつける。昨夜の蹂躙とレイナの精神破壊ですり潰されたロキに、彼らの剛力を振り払う力など残されているはずもなかった。

「動くなよ、元英雄様。これは殿下からの、直々の『所有の証』だ」

「やめ……、お許し……お許しください、マーリン王女殿下……っ!!」

ロキが絶叫する中、マーリンは冷徹な瞳のまま、看守長へ指示を出した。

「やりなさい。その男の最も目立つ場所に、私の所有物である証を刻み込むのよ」

「御意」

看守長が下卑た笑みを浮かべ、ロキの右胸――かつて、彼が聖騎士団の「栄光の紋章」を誇らしげに掲げていたその場所へ、真っ赤に熱された烙印を容赦なく押し当てた。

ジュガァァァァァァァッッッ !!!

「ぎ、があああああああああああっっっ !?学术的な絶叫すら出ないほどの激痛が、ロキの全身を突き抜けた。

激しい白煙が立ち上り、熱せられた鉄がロキの柔肌を容赦なく焼き溶かしていく。首輪の呪印がその痛みを何倍にも増幅させ、彼の脳髄を直接狂わせるような激痛となって襲いかかる。肉の焦げる悍ましい異臭が、地下室全体に立ち込める。

「熱い、熱い、熱いいいいい! ぎあああああっ!!」

ロキは白目を剥き、全身の筋肉を硬直させて激しく痙攣した。

しかし、大男たちはその身体を完全に固定し、紋章が肉の奥深くまで完全に焼き付くまで、決して手を離さなかった。

数十秒の後、看守長がゆっくりと鉄棒を離すと、そこには酷く焼けただれ、赤黒く腫れ上がったマーリンの「奴隷紋」が、生涯消えない敗北の烙印として、ロキの肌に深く、残酷に刻まれていた。

「はぁ、はぁ、がはっ…………」

ロキは口から泡を吹き、完全に魂を抜かれたような目で床を見つめたまま、ガタガタと激しく震えていた。

肉体の痛み、レイナによる精神の完全な崩壊、そしてこの烙印。彼がどれだけ足掻こうとも、この国の法律と魔法の制約によって、一生マーリンの奴隷として生きるしかないという「絶対的な絶望」が、ここに完全確定した。

マーリンは、ぐったりと横たわるロキの顎を、看守長のブーツで強引に上向かせた。彼女は汚物を見るような目でロキを見下ろしながら、冷酷に微笑む。

「これで、お前は名実ともに私の『家畜』になったわ、ロキ。お前の肉体も、精神も、その汚らしい血の一滴に至るまで、すべてが私の所有物よ」

マーリンは首輪から伸びる長い鎖の端を、看守長の手から受け取った。

グイと鎖を引き絞ると、ロキの身体が力なく床を擦り、マーリンの靴のすぐ手前へと引きずられる。

「さあ、言いなさい。お前の新しいマスターは誰?」

ロキは焼けただれた胸を押さえ、涙と泥に塗れた顔で、目の前に立つ気高い復讐者を見上げた。

今の彼には、もうプライドも、反抗心も、何も残されていない。ただ、目の前の少女にこれ以上痛めつけられないよう、従属を誓うことしか生きる道はなかった。

「あ……、うあ……。私の、主は……マーリン、王女、殿下……。私は……貴方の、玩具、です……」

ロキの口から溢れ出た、完全なる屈服の言葉。

その瞬間、マーリンの胸の奥底で、かつて裏切られ、処刑台へと送られたあの日の絶望が、最高級のカタルシスとなって完全に洗い流されていくのを感じた。

「よく出来ました、私の可愛いお人形。……これから、死ぬまでたっぷりとかわいがってあげるわ」

マーリンの残酷で、圧倒的に美しい微笑みが、暗い地下室を妖しく照らし出していた。

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