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【書籍化】婚約者の王子に毒を盛られたので愛が冷めました  作者: あさづき ゆう
番外編

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26/27

【書籍二巻発売記念】王都に戻る前夜

「そういえば、ユリシーズ様のその服は祖国のものなの?」


 ルエラは荷物整理をしているユリシーズに声をかけた。彼は大量に買い込んだ道具を適当に整理している。


「服?」

「そう。私の国とは違うし、使節団の方にも何人かお会いしたことがあるけど、見たことがないわ」


 ルエラが改めて彼の姿を見る。

 ゆったりとしたズボンは足首のところで軽く絞られ、上衣は首元まできちんと覆っている。前開きの上衣は、左右の布地を重ねるようにして、幅広のサッシュで腰を締めていた。そして、その上から薄いマントを羽織っている。足元は簡素なサンダルだというのに、首元や腕、腰にはいくつもの装飾品がついていた。光を受けるたびに、宝石のようなものが小さくきらめく。

 初めて会ったときは、衣服そのものが擦り切れていたせいで、流民のような格好にしか見えなかった。けれど、こうしてきちんと整ったものを見ると、どこか不思議な美しさがある。


「見たことはないだろうな。水の国の平民が着る服だ」

「平民の?」


 意外な答えに、ルエラは目を丸くした。


「貴族の方は違うの?」

「ああ。貴族はもっと仕立てのしっかりした服を着る。ローブに近いな。儀礼の場では特にそうだ」

「ふうん。魔術師の服装はないの? ほら、うちの国だとお兄様とか制服を着ているじゃない?」


 思わず尋ねると、ユリシーズはああと納得したように頷いた。


「そもそも水の国は魔術師が貴族だ」


 ふうん、とルエラは返事をした。


「行って見たいわね、水の国」

「……面白いところではない」


 あまりいい思い出がないのか、ユリシーズの声はそっけなかった。そして再び、ガラクタを箱に詰め始める。彼の片付ける姿を眺めつつ、ため息をついた。


「どうした?」


 ガラクタを片手に、ユリシーズが問いかける。


「ちょっと憂鬱なだけ。王都に行っても楽しくないし」


 もうすぐ、この魔女の家から離れ、王都へと戻る。

 きっと嫌なこともあるだろう。決着をつけなくてはいけないことも。王都と思うだけで、手が震える。それをぎゅっと握りしめた。


(きっと大丈夫。回復はしているのだから)


 どれほど回復しつつあるのだから、と自分を宥めても、それでも心は毒を飲んだあの日へと向かってしまう。グウィンと会いたいわけではないけど、合わずに済ませることは難しいだろう。


「ルエラ」

「何?」


 顔を上げ、ユリシーズを見ればどことなく真剣だ。そして、ぽんと何かを投げてきた。


「それを持っていろ。いろいろと役に立つ」


 不思議に思って、受け取ったものをまじまじと見つめた。手のひらに乗る球体で、まるで真珠のようだ。ただし大きさはまったく異なるが。


「これ、魔道具?」

「いや、八つ当たり君だ」

「え?」


 よくわからないネーミングにルエラは固まった。ユリシーズは腕を組み、説明を始める。


「師匠が作ったものだ。どうしてもイラつく時はそれをぶん投げてもいいし、もみくちゃにしてもいい」

「……これ、潰れるの?」

「ああ。やってみればいい」


 恐る恐る手に持った球体をぎゅっと握りしめた。その途端、ぶよりとひしゃげる。表現のしようのない柔らかな感触に、ルエラは顔を引きつらせた。


「え、気持ち悪い。なにこれ? やっぱり魔道具?」

「そんな魔道具があってたまるか」


 嫌そうな顔で告げると、再び後片付けに戻る。その背中を見て、ルエラが彼の袖を軽く引く。


「一緒にいてくれる?」


 小さな声だった。ユリシーズは治癒師として、そばにいてくれるのはわかっている。ただ、それだけではない、何かが欲しかった。言葉にすることは難しくて、でもわかってもらいたくて。

 ユリシーズはしばらく固まっていたが、ゆっくりと振り返った。その瞬間、衣服についた小さな装飾品がしゃらりと音を立てた。水の国の衣服が奏でる、いつも聞いていた音だった。


「当然だ。何のために王都まで一緒に行くと思っているんだ」


 ユリシーズは当然と言わんばかりの態度だ。それがおかしくて、ルエラは思わず笑った。


「そうね、何も心配いらないわ」


 くすくすと笑っていると、ユリシーズはため息をついて後片付けを本格的に始めた。


書籍版をベースに書いています。Webとはちょっと違うので、あれれ、と思った方、ごめんなさい!


2026-8-25 メディアワークス文庫さまから2巻発売です!

お手に取ってもらえると嬉しいです(≧▽≦)


挿絵(By みてみん)

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