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【書籍化】婚約者の王子に毒を盛られたので愛が冷めました  作者: あさづき ゆう
番外編

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27/27

【コミカライズ記念】道端で俺を拾った令嬢は治療対象だった

本日9/5、コミカライズがシーモア様独占で連載開始です!

ぜひよろしくお願いいたします(≧▽≦)


番外編はルエラがユリシーズを拾った時のユリシーズ視点となります♪



挿絵(By みてみん)

「まずい、失敗だ」

 ユリシーズは魔術を展開した後、空間のゆがみを感じて魔法陣のミスに気付いた。

 気付いたところで、もう遅い。

「……っ」

 強制的に引きずり込まれるような感覚に襲われ、ユリシーズは舌打ちした。

 空間転移の術式は、ほんのわずかな計算違いでも大きな事故につながる。だからこそ、慎重に何度も計算を繰り返したはずだった。

 なのに。

「どこで間違えた……?」

 考えながら、必死に魔力を制御する。だが、空間のゆがみはすでにユリシーズの制御を離れていた。

「くそっ」

 次の瞬間、視界が白く弾けた。


 ――そして。


 気がついたときには、地面に転がっていた。


「…………」

 動けない。

 右手も、左手も、足も。

 指一本すら動かせなかった。魔力が完全に枯渇している。しかも徐々に体が冷えてきている。

「これは……まずいな」

 自分で呟いた声が、ひどく遠く感じる。このままでは、本当に死ぬかもしれない。

 そう思った直後、ユリシーズの腹が鳴った。

「…………腹が減った」

 死の危機に瀕しているというのに、最初に浮かんだのはそんな感想だった。もっとも、魔力を大量に消費した後なのだから当然だ。食べなければ魔力も戻らない。食事が必要だ。

 だが、どうやって? 誰も通らない道端にこれといった案が浮かばない。

 そこまで考えたところで、意識が途切れた。


 次に目を覚ましたとき、ユリシーズは空ではなく天井を見ていた。

「……いい匂いがする」

 鼻を刺激する料理の匂いに、ユリシーズは反射的に起き上がろうとした。だが、体が思うように動かない。指先に力を入れ、体を起こそうとする。

「まだですよ、魔術師殿」

 誰かに支えられ、瓶を口の中に突っ込まれた。そして流れ込んでくる液体。ひどく不味いが、馴染みのある味だ。

 しばらくすると、体の中をわずかに魔力が巡る。少しずつ指が動くようになった。

 そして匂いにつられて視線を動かし、目の前に並べられた料理を見た瞬間、ユリシーズは迷わず食事を始めた。

「すごい……まだ食べるの?」

 誰かの声がする。

「ユリシーズ様は魔力の回復に食事が必要なので」

 そんな説明を、料理を運ぶ使用人がしている。

「あら、お兄様とは違うのね」

(誰だ、知らない声だ。まあ、どうでもいいか)

 今は食事の方が重要だ。ひたすら食べて、ようやく人心地ついたところで、ユリシーズは顔を上げた。

 そこで初めて、目の前に一人の令嬢が座っていることに気付いた。

 こちらをじっと見ている。珍しいものでも見るような目だった。

「……美味しい?」

「ああ、美味いな」

「もう少し用意する?」

「いや、これ以上は結構だ。動けるくらいには回復した」

 最後のお皿を平らげると、口元を拭った。それを合図に、使用人がテーブルの上を片付けて、お茶を用意した。カップを持ち上げると、いい香りが鼻孔をくすぐる。ゆっくりと一口飲むと、温かさにほっと息を吐いた。そして改めて彼女を見る。

「拾ってくれて、助かった。あのまま死ぬかと……ありがとう」

「うちと契約している魔術師と聞いたけど、どうして道に落ちていたの?」

「ん、ああ。ちょっと実験してヘマをした。実験はラモーナ夫人に頼まれたものだ。難解な術式で、成功率が二割だ」

 思い出したくもないが、あれは見逃してはいけないミスだった。

「え、お母様、そんな大変なものをお願いしているの?」

「それが俺の仕事だ。今回、やらかしてみて理解した。次は、こんな失敗はしない」

 ユリシーズは不敵に笑った。失敗は一度でいい。

「――ところで、名前を聞いてもいいだろうか」

「ルエラよ。よろしくね」

 ルエラは楽しそうに笑った。

 ――ルエラ。

 その名前を、ユリシーズはもう一度、頭の中で繰り返した。

「ルエラ嬢か。俺はユリシーズだ。ラモーナ夫人と専属契約している」

 これが彼女との出会いだった。

 このときのユリシーズは、彼女に対して特別な感情を抱いていたわけではない。

 ただ、ラモーナ夫人から治療を頼まれた相手。

 毒によって体に残った魔力の塊を取り除けば、きっと元のように動けるようになる。

 それだけのことだと思っていた。


 ――少なくとも、このときは。


Fin.


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