Episode 53 : そこにいたのは
お待たせいたしました。
【あらすじ】辺境の惑星コロンダストリアにある施設が襲われた。
この施設の奪還のためクラウソラスは惑星コロンダストリアへと送られる。
そこには古代文明の遺跡が存在し……。
※Chapter 6 ラスト。長くなりましたので2話構成です。次回は明日更新です。
ランドから送られてきた地図は俺たちの知る科学技術によってかかれたものであり、その書式はそこらの宇宙船によく見る艦内案内とよく似ていた。
だが、その中心に書かれた文字を見て俺は静止する。
そう、そこには俺にとっては忘れようにも忘れることのできない単語が書かれていたからだ。
「アカシックレコード……」
俺は小さく呟いた。
ローン公国で起きた事件。
あの時もアカシックレコードが関わっていた。
だが、あれは世紀の大発見だと博士は言っていたはず……。
「そうだ。アカシックレコードだよ。辺鄙な星でなんで襲われたか訳が分からなかったがこいつでハッキリしたな。俺たちは既にそこへ向かっている。お前たちもすぐにここへ向かえ、連絡は以上だ」
ランドからの通信が終わる。
なぜこんな場所に……いや、なぜ今まで隠されていたんだろうか。
この惑星はもともと軍の重要施設があった場所、だとしたら保安調査としてある程度の惑星上の探査はされていたはずだ、環境汚染対策改善のための施設と評してこの上の施設を造ったのは、惑星の環境をないがしろにしてまで技術と利権を求めている貴族たちのシンクタンク。
ならばこの遺跡自体はかなり前に発見されていたはずだろう……それを示すかのように古代の文字ではなく俺たちの文明の手によって書かれた地図が現に存在しているのだから間違いはない。
いやしかし、地図がいつ作られたものかなんてのはわからないわけで……。
様々な考えが頭の中で流れていく。
「――ディ! レディッ!!」
耳元から聞こえる大声に顔を上げればスィリーの顔が真正面にあった。
「ぅわっ――スィ、スィリー大声出さないでくださいッ」
「ぁあ? さっきから呼びかけても返事がねえからこうするしかなかったんだよ」
「え、あ……すみません」
「頼むからしっかりしてくれよ。俺たち遺跡は初めてなんだからよぉ」
そう言ったスィリーは珍しくも困った顔だった。それを見て俺は顔を横にブンブンと振る。
そうだ。細かい考えごとは後にしなければ……今はチームで行動してるのだ、俺一人の考え事で全体の行動を阻害してはならない。
自分にそう言い聞かせ、深く呼吸をしてから後ろに振り返る。
「まずはランドたちと合流しましょう。敵がどこにいるかはまだハッキリしていませんから、的が小さい私が先行するので周囲警戒を怠らないようにしっかりとついてきてください」
スィリーやほかの隊員とアイコンタクトをしっかりと取ってから俺は駆け出した。
アカシックレコードがあると思われる部屋は、今俺達のいる環境再現地区付近から約3階層ほど下に位置している。
この間に敵に一度も会わないなんてことはないだろう、今はまだ敵の影は見えないがどこかで必ず出会うはずだ。
「20m前方にスライド式の扉。扉の確認は私がします。スィリーは私のすぐ後ろについてきてください」
「了解だレディ」
開閉ボタン前まで一気に駆け抜けて扉横の壁へと張り付く。スィリー達が後ろにぴったりついてきていることを確認する。
それから扉を開けるのは俺で、最初に入るのはスィリー。続いて入るのがあとの二人で俺が最後に部屋に入ることをすべてハンドサインで伝え、全員が配置につくのを確認した。
扉を開けることを合図し、ボタンを押しこむ。
"行け"
素早くハンドサインを送った。
扉が開くと同時にスィリーが中に飛び込んでいく。
続いてその後ろについていた二人が入り込む。
「クリア」
「クリア」
「クリア」
次々と声が上がる中、最後に俺が入り、ほかの隊員が確認していない方向を確認する。
「クリア」
室内に敵はいなかった。
改めて周囲を見渡す。
正面に大きな窓が開いている。よくよく見れば向こうは大きな空間だ。
確か地図じゃこの部屋は階段の踊り場のような役割を果たしている部屋とだけあったはずだが……。
「……どうやら艦船用のエレベーターのメンテナンス通路らしいな」
一緒に行動していた一人がそう呟くのが聞こえた。
そういわれてみれば空間の中央に大きなレールのついた柱のようなものがある。
さらに巨大な空間の壁には階段や中央通路をつなぐ通路のようなものが見て取れた。
「詳しいですね」
「まあ仕事柄艦船のメンテナンス通路ってやつには世話になるからな」
なるほど、と軽く頷きながら赤外線センターや動体センサーなどを使って空間内の確認をする。
「誰もいなさそうですね。では急ぎましょう」
そう言って階段のほうへと向かっていくと肩を引っ張られた。
「レディ、そんなチンタラやってたら隊長に先を越されちまうよ」
「ですが道はここしか」
「あるだろそこに」
スィリーの指差す方を見れば他の隊員は窓で何かを取り付けている。
「もしかしてラペリングですか?」
「ああ、そっちのが早いだろ」
「でも、私はラペリングできるほどまだリハビリが終わってないのですが」
「なら誰かと一緒に降りて来ればいいだろ。まだ敵には見つかってないはずだから、ある程度警戒しながらなら二人で降りる余裕はあるはずだしな」
そういうとスィリーは窓枠に手をかける。
「安心しろ俺が先に降下する。小銃程度なら問題ない。レディは二人のどっちかに運んできてもらえ」
そういうと勢いよく窓から飛び降りていった。
ラペリングってあんな勢いよく飛び出すものなのだろうか、いやそもそもあいつ紐つけてなかった様な……などと考えていると奥で下を警戒していた隊員も飛び出していく。
それから数秒後残ったもう一人に手招きされた。
「俺たちが最後だ。俺の腰とお前の腰のとこにある金具にカラビナを固定しろ。それからしっかりと掴まってくれ」
「わかりました」
言われたとおりに胸元の金具同士を固定するためにカラビナを取り出す。
……にしてもだいぶ密着しないとそもそも固定すら難しい。
もぞもぞと試行錯誤をしていると男から小さな悲鳴が上がった。
「た、頼む。早くしてくれ」
「すみません……中々難しくって、もうすぐできます」
胸の大きさが邪魔して腰と腰の距離感が中々縮まらず微妙に届かない。
無駄にでかい自分の胸が恨めしいことこのうえなかった。
思い切って胸を相手に押し付けるほど密着させたところ、カラビナはしっかりと相手の金具まで届いた。
少しばかり胸がつぶれたせいで息苦しいが迷惑をかけているのだからここは我慢しなくてはいけない。
「大丈夫です――あの?」
「あ、ああ。いくぞ」
一瞬反応が遅れた男だったがすぐに窓から飛び出した。
体を貫くような浮遊感、下から吹き上げる風がすさまじい。
俺の記憶にあるラペリングよりも滞空時間の長くスピードも速かった、その上ペースが男のほうにあるので少しだけ恐ろしかった。
暫くすると耳元の通信機からスィリーの声がした。
「60mぐらいで目的地にはたどり着いた。周囲は安全。もっと勢いを出していいぞ」
「了解」
俺と一緒に下る男がそう答えた瞬間、一気に浮遊感がました。
「――!」
一瞬出かけた声を抑える。
危うく舌を噛むところだった。
数秒ほどに刻まれる浮遊感は、全身に響くような衝撃と共に終わった。
無事に目的に地たどり着いたらしい。
また少々苦戦しながらカラビナをはずすと地面があることに感謝した。
それから一緒に降りてくれた男に礼を言う。
男は疲れたように「問題ない」と言いいながらロープと自分の体を切り離していた。
地図を再び確認する。
合流地点まではあともう少しだ。
「もうすぐ合流地点です。進みます」
全員が進めるようになるのをまって再度合流地点へと向かった。
× × ×
「レディ、車椅子はどうしたァ」
目的地である地図ではアカシックレコードと表示されていた部屋の手前にランドたちの姿を見つけ、合流するとまずそういわれた。
「その、先ほど連絡した化け物と戦った時に戦闘服のアシスト機能があればなんとか立てたので、合流するまでの時間を短縮するために壊してきました」
俺がそう答えるとランドは暫く正面の扉をみながら首に手を当てて唸った。
「なるほどなァ。まあ捨てるのは咎めないが捨て方には細心の注意を払ってくれよ。俺たちが居た痕跡はあんまり残しちゃいけねえからな。まあそれはさて措き、奴さん厄介なことにこの向こうに相当の数たまっていやがる」
うなるような声でランドがそういった。
「数はどれくらいか分かりますか?」
「そうだなァ……ざっと150人くらいだな。武装しているのが100人、残りが科学者っぽい白い服を着たモヤシみたいな奴らだったぜ」
「だいぶ具体的ですね。開けたんですか扉」
「さすがにそんなことしねェって。そんなことしたら俺たちは蜂の巣だぜ」
ランドは俺たちが居る位置よりも少し離れた壁に開いた小さい穴を指差した。
「あの穴見えるか、調査用ボットで調べたんだよ。この向こうの部屋に繋がっている」
指された場所にある穴の大きさは縦に35cm、横50cm四方の長方形といったところで、どうやら換気用のダクトのようにも感じられた。
「まああそこから不意打ちっていうのも考えたんだがな、俺たちじゃ体が収まらねェってことであきらめてたわけだが……レディ、相談いいか?」
ランドは相談といったが、要するに俺にあの穴に入って奇襲でも囮でもいいから敵の目をひきつけろとでも言うつもりなのだろう。
この中であの穴に入れそうなのは俺くらいなもんだしな。
「いいですよ、わかりました。あの穴に私が入れってことでしょう?」
「察しがいいな」
「あんな穴を指差した上に、ランドさんたちが入れないって言ったんです。その後に頼まれることなんて大方予想がつきますよ」
と少しだけ口を尖らせるとランドが苦笑交じり頭をかいた――実際にはランドはMCSのヘルメットをかぶってるから表情はよく分からないが、苦笑するときはいつもああやって頭をかいているからたぶんそうだろう。
「おいおい、俺たちだって蜂の巣に裸一貫で突撃するのが好きなわけじゃないんだぜレディ。刺されなくてもいいなら刺されないようにするのが普通の対応だろォ」
「私がけっこう危険なんですけども」
「無茶はしなくていい、軽く敵の注意を引き伝くれれば十分だ。その間に俺たちが突撃する」
「では、合図はこちらがだしますよ」
「そこは任せる。俺たちはレディのタイミングで突撃するさ」
縦に35cm、横に50cmというのは中々の狭さで、俺が入って匍匐するのにも中々骨が折れるものだった。
しかも暗いし、磯臭いし、おまけにジメッとしているから最悪だった。
100mほど進むと明かりが漏れ出ている箇所を見つけた。
あそこからなら部屋の中が見えそうだ。
音を立てないように光がもれ出ている場所まで行くとそっと中を覗き込む。
部屋の中央にはローン公国の遺跡で見たものと同様の柱――アカシックレコード――が光を放っているのがわかった。
「――っな」
思わず漏れ出た声を抑える。
それは決して中に居た敵の量に驚いたわけではない。
俺の驚きは、部屋の中央――アカシックレコード――の傍に佇む長身で細身の老人だった。
ピンッと背筋が整っているのにたいして老衰で痩せ細った四肢。膝裏まで伸びる白衣を身にまとい、片手に杖をついた老人。
見た瞬間、反射的にこぶしに力が入っていた。
半年前のローン遺跡調査。あれ以来行方をくらませていた男が、なぜここに居るんだ――ウェイン・グランスター。




