Episode 47 : 暴露
ストック増やしてから……とか考えていたのですがストックが出来ないまま一か月以上たっていた……。
「楽しめたかレディ」
広いホテルのホールの外に設けられたバルコニー。
煌々と瞬く街の明かりに照らされた場所は薄暗くも何処か幻想的な雰囲気を纏っていた。
「ランドさん、顔が真っ赤ですけど大丈夫ですか? 」
「どっはっはっは。こんくらい問題ねぇな。ま、夜風に当たりに来たことにはちげぇねえ」
そんな風景とは不釣合いとしか言いようのない酒臭ささを臭わせる性悪な中年男は、バルコニーの柵に腰を掛けて空を見上げて息を洩らした。
酒の臭いが風に乗って鼻を刺激していく。
飲み過ぎだろランドの奴。
そんな風に顔を顰めていた俺を一瞥しながら、ランドは呟くように話しかけてきた。
「しっかしまあ、まだ車いすなのかね」
「ええ、まだ長時間立ったりすることができなくて」
車いすのひじ掛けを撫ぜながら俺はそう言った。
別に立てないわけじゃないのだ。
10mほどなら歩くこともできているしな。
「そうか……んじゃあまだ、無理そうだなァ」
小さく頭を掻き毟ったランドがぼやく様に呟く。
「何か急ぎの用でもありましたか? 」
「いや、そう言うのじゃないんだがね。俺らもそろそろ次の仕事を始めないといけないわけよ」
「……あ」
ランドの言葉に俺はハッとする。
俺一人の怪我のせいでクラウソラスはこの星に留まることとなってしまっていたのだ。
それではこの広い惑星系を活動範囲とする任務には就けないのである。
「ああ、いや。気になくていいぜ。俺達の仕事なんざ早々来たりはしねぇからな。だがまァ……そろそろ来る気がするってだけだ」
若干の笑みを混ぜながらランドはそう言った。
「なるほど……そういうことでしたか」
「ああ、まだ前回のアレの件も片付いてねェしな」
「……アレ? 」
ランドが空を見上げるので、つられて俺も見上げた。闇夜に煌く無数の瞬きが見える。
アレというのは宇宙での出来事なのは間違いなさそうだが……。
俺がいない間に何かあっただろうか。
「海賊だよ海賊」
「あれは、片付いたのでは? 」
「いんやまだだ。どうやらあれに手を貸してた奴らがいるようだ……一人は既に見当が付いている。まあ当の本人は気づかれる前に雲隠れしちまってどこ行ったか分からねェんだがな」
そう言いながら笑うランド。
会話の内容が物騒なこと極まりないと言うのに、笑っていられるのはさすがだと思う。
しかし、見当がついていて見つからないというのはどういうことなのだろうか……。
「見当がついてるのなら、各惑星の宇宙港の監視コンピューターを調べれば」
「無理だな。奴は一般人じゃないしそれなりの地位を持っていたから、自分の持ってるど太いパイプを使って逃げて行きやがったさ」
「なるほど……」
流石に裏から海賊を操っていたとなれば、気づかれないうちに逃げることなどたやすいという事か。
「まあ、次の仕事はそれ関係じゃあねぇと思うから気にしなくていいぜ」
「え、違うんですか⁉ 」
「たりめぇよ。俺達は事件の捜査はしない。俺達の基本任務はあくまで危険人物及び組織の残滅だかんな。がっはっはっは」
ランドは豪快に笑い、ポケットから取り出した小さな小瓶に入った酒を飲み干した。
相変わらず、こういう時の適当かげんは如何なものかと思ってしまう。
そんな風にランドを薄らと眺めていると、ランドと目があった。
そしてランドはニヤリと何かを思いついたかのような表情をする。
「にしてもよぉ……レディも来た時とだいぶ変わったな」
「そうですか? 私としては変わったような気がしませんけれど」
「いんや、変わったさ。前よりも痩せて美人になった」
「はぁ……ってそれ、凄くどうでもいいことじゃないですか」
「あァん? そうかァ……美人ってなんだかんだ得しそうでいいんじゃねぇか? 」
更にポケットから小瓶を取り出しては一気飲みをしていくランド。
「猶更どうでもいいじゃないですか。あと、得なんてしませんから……」
車いすの手すりを小さくたたきながら俺は抗議した。
女になって得したことってあんまりない、むしろデメリットのが多いくらいだ。なんなら変わってやってもいい。
ただ抗議してもランドは「そうかそうか」と言って流していく。
……もしかしなくても酔ってるのか? まあ酔ってるんだろうな。酒がぶ飲みしてるし。
はぁ、と小さくため息を漏らして俺は空を仰ぐ。流れる雲の隙間から二つの月が覗き俺を照らす。
吹き抜ける風はとても心地よい涼しさで、なんだかこのまま眠ってしまってもいいと思えるほどに穏やかだった。
にしても、美人になった。か……なんだか前に言われたときより無いわけではないが、それでも抵抗感は薄らいできた。
元々俺の事を知ってる奴に言われるのはまだ慣れない事が多いが、知らない奴に言われたくらいなら動じなくなってきたのかもしれない。
まあ、それなりにこの体にも慣れてきたという事か。
「で、どうだったよ」
「どうだった、とは今日の事ですか? 」
「まあ、それもある」
「楽しかったですよ。凄く……」
振りかえり、まだ中でどんちゃん騒ぎをするパーティー会場を見た。
よく見ればスィリーが誰かと殴り合いをしているのが見える……両者笑っているからあれはじゃれ合いの一種だと思うが、皿を割るのは止めてやれ、ホテルの人に迷惑だ。
他の場所ではマルメラがアンジュに話しかけていた……なんとなくアンジュの目が普段よりも厳しい目つきだった。隣にいるエレナはそれを見て若干引いているようにも見える。
ハイドは黙々と食事をしていて。ルーは隅っこでパソコンをいじっている。
色々な人間がいて、皆バラバラに楽しんでいる感じではあるが、それでも会場は楽しそうな雰囲気は変わらない。
なんだかそんな皆を眺めているだけで、心の底から暖かな気持ちが溢れてくる。
「そうか。それはよかった……レディが出れるようになるまで全員で待ってた甲斐があったぜ」
「ありがとうございます」
「気にするな。こういうのは全員そろって楽しいってもんだろうがよ」
「そう、ですね……」
俺はパーティー会場を眺めながらそう呟いた。
そのまま暫らく感慨に浸っていると、後ろから肩を小さく叩かれる。
「んで、そっちはまあいい。俺が聞きたいのはこないだの海賊たちとの戦いのときについてだ」
「……ああ」
ランドに言われて俺は記憶を遡る。
俺にとってはついこの前、ランド達含めた多くの人間たちにはおおよそ一か月前のあの戦いの事か……。
「まあ、英雄さんにとっちゃぁ楽ちんな仕事だったか? 」
おどけた風に尋ねてくるランドに俺は手をヒラヒラと振り、首を小さく横に振った。
「まさか、そんなことは無いですよ。色々自分の実力のなさを実感させられました」
大人たちから見縊られるこの容姿。そして以前とは比べ物にならない程の腕力の低さ、思うところはたくさんあった。
どれをとったて楽どころか、全てが大変だったと言ってもいい。
「まあ“前と違う”ってのは辛いもんか」
「そうです……え」
一つの言葉に俺は躓いた。
今、ランドは俺に何といった?
一瞬にして途切れる思考、隣にいるランドを凝視した。
「どうした……俺が何か変なこといったか? 」
「いま、なんて……」
奴は……“前と違う”といった……それはつまり、俺の前を知っているのか?
リュドミールはアンジュ以外には俺の事を知らせていないと言ってたはずだが……どいうことだ。
そんな俺を見てランドは、頭に手を付き大げさにため息を吐いて見せた。
「おいおい……まさか自分の事を忘れたなんて言わせないぜ、アラン・マグウェアさんよぉ」
「……なぜ、その名前を」
ランドは知っていた……俺の事を。俺がこんな姿に変わり果ててしまったことを……。
なぜ、知っているんだ? ランドは一体何を――
「待てよ。レディ、睨み付けなくても俺は何もしやしねぇよ」
「なら、なぜそれを俺に言う必要があったんだ」
後ろに下がろうとする俺を、ただその場で見据えるてくるランド。
殺気は感じられないが、その眼はどこまでも真っ直ぐだった。
何の為に……。
「そりゃぁ。いつまでも黙っておくのは俺の性に合わねェからだ」
「……意図が見えない発言はよせ」
「意図も糞もねぇよレディ。言いたくなったから言ったじゃダメなのかお前は」
バルコニーを吹き抜けていく風が、冷たく俺に吹き付けた。
後ろに流した髪が風に煽られて、大きく靡いた。
ランドは、柵から降りて俺に近づいてくる。
「せっかく正式な仲間になったんだ。だから俺はお前にこの事を伝えた」
「いつから知っていた」
「最初からだ」
「……最初? 」
最初という事は、会った時には知っていたということか……。
「ああ、お前がその姿になった時からだ」
「……は? 」
ランドにそう言われた瞬間、俺は間抜けにも裏返るような変な声を漏らしてしまった。
変わった時から知っていた?
俺が変わったのはかなり前だ、ランドと出会うよりももっと前だったはずだが……。
「やっぱりあの議長閣下は言っていなかったようだな……まあ予想通りではあったが」
ランドの言葉に俺はさらに首をかしげることになった。
リュドミールはランドが知っていることについて俺に伝えていなかった……?
ますます訳が分からなくなりそうだ。
「いいかレディ。俺は惑星ベイズにいたんだ。リュドミールの護衛としてな」
「本当か? 」
「ああ、本当だとも。なんなら議長閣下本人に聞けばいい」
ランドの顔は一遍の曇りもなかった。
リュドミールの護衛ならば、惑星ベイズで行われた俺の報告の場にいた可能性はある。
たしかに彼の言っていることが本当なら、リュドミールが奴に教えていなくても理解していた可能性は十分にあるのだ。
「……ではなぜリュドミールは俺に言わなかったんだ」
「さあなぁ……あれの考えることは俺にもわからんさ」
どうでもいいと言った風に手を振ったランド。
どういうことなのだろうか……ランドはこれ以上答えてくれそうにない。
しかし、リュドミールが言わなかったという事は、何か裏がったのではないだろうか。
それを無視してランドは俺に言って良かったのだろうか?
「……それをお前が言っても良かったのか? 」
「良くは、ないだろうなぁ……そうか。よし、レディ。議長閣下には秘密にしとけ」
「じゃあ最初から言わなくていいだろう」
「女としてお前を扱うのがめんどくさかった」
どこまでマイペースなんだこの男は……。
余りの事に俺の思考が追いつきそうにない。
もういい、これ以上の会話は無駄だ。頭が痛くなってきた。
それに、なんだか妙にモヤモヤとした嫌な感じがしてきた。
「……じゃあ、確認したい。それを知ってるのはクラスソラスの全員か? 」
「いや、俺だけだ。だから俺の前以外で素に戻るのは気御付けろよ……まあ、ばれても誰も気にやしねぇと思うけどよ」
「そうか……ならいい」
「おいおい、どうした? 」
「中に戻る」
「そうか……んじゃ俺はもう少しここで飲んでくぜ」
そう言ったランドを尻目に俺は、車いすのホイールを回して中へ戻ることにした。
……まさか最初からばれているとは夢にも思わなかった。
ばれて、いた……?
モヤモヤとした何かが徐々に鮮明になっていく。
ばれてたと言うことは俺が男であるとあいつは知ってた……でも俺は知らなくて俺はあいつに少女のふりをして話しかけていて……
何かがカチリとはまる音がするのと同時に、俺は全身が逆立つのを感じ取る。
ま、まてよ。じゃあ今まで俺は、俺を知っている人間の前であんな感じな喋り方を……。
続いて、顔に噴き上げる様な熱さが駆け巡っていく。
嘘……だろッ! 知ってる奴が!俺が 男って知って奴が見てた。見てたッ!
クソッ! クソッタレ!
うわあああああああ。
車いすの車輪を全力で回して俺はその場から逃走した。
次回未定です! 最近私の忙しさが尋常じゃないのです……ごめんなさい。




