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再構築少女-元男でしたが今は女の子です-  作者: もやし豆腐
chapter 5 :  A ruined Phantom
35/58

Episode 33 : 艦橋にて

 

 人類が自らの故郷から宇宙に出て幾億万年の歳月。

 宇宙での、手であり、足であった艦船は、重力と言う枷から解放された結果、一回の航行によるメリット――人員、貨物の積載量増加――を増やすために艦船の巨大化が図られていった。

 それに伴い旧来は艦の中心部、被弾することが最も少ない場所に置かれていた“戦闘指揮所”は――艦船自体の巨大化、シールド技術の発達により――艦橋ブリッジへと統合されたと伝えられている。

 言うなれば現代の艦船において、艦橋ブリッジはその艦の最も重要な要所であり、艦を生き物に例えるとするならそれは脳と呼べる場所へと変わっていったのだ。


 勿論、それ以外にも艦橋へと艦の機能が集まったと言う理由は諸説ある。

 先程の次に有名なのは――人類が宇宙へと踏み出した結果、民間人でも艦船を持つことができるようになったこと、そしてそれに伴い一隻の運用人数を減らすことが主流になったこと。そして最低人数での艦の運用をするに伴い、最低人数での運用を考え戦闘指揮所は艦橋と統合された――という説だ。



 今の説明はざっくりした物で、俺が士官学校に入っていた時に習ったことであり、正直に言うなれば詳細など覚えていない。

 そもそもこんな懐かしいことを、あまり座学が得意ではなかった俺が覚えているという事自体、奇跡に近いと言える。



 不意に横に視線を流すと、艦の航行制御ステーションに務める船員クルーを複数、視界に捉える事が出来た。

 距離にすればその間は4mほど、しかし彼らと俺の間には大きな溝があり、更には俺の手元には、眩く照明を反射させている手すりがあった。


 此処こそがこの艦――グリムクリスタル級巡洋艦“ソルヴァン”――の艦橋ブリッジであり、今、俺が立っているのは艦橋総括橋キャプテンブリッジと呼ばれている場所に繋がる通路の上である。

 艦橋総括橋はとてつもなく広い艦橋ブリッジの最上層、そして中心に鎮座しており、その両端と正面には3階層に分けられた、四角いブースが、艦橋総括橋を取り囲んでいた。

 先程見えた航行制御ステーションも艦橋総括橋を囲むブースの一つに当たる。

 その他にも周囲を見渡せば多くのブースが見え、ブース内にいる船員クルーの制服は場所場所によって違い、それぞれが艦の別々の制御を司っている。

 そして艦橋の造りは独特で、周囲のブースは全て通路でつながっているのだが、艦橋総括橋だけが他と一切繋がっていない。

 きっとこの艦橋をデザインした人物は、古い言い伝えの“艦橋総括橋は艦で最も重要な場所”という教えに多大な影響を受けていたに違いない。

 その為に艦橋総括橋は他のブースからは隔離され、ここ――艦橋総括橋キャプテンブリッジ――に来るためには艦橋に入る前に専用の入り口から細長い空中回廊を通らなければならないような造りになっている。


 と頭の中で艦橋ブリッジについてまとめてみたが、見れば見るほど昔――まだ男であり第三次海峡戦争まっただ中だった頃――を思いだし懐かしくなった。

 艦を新造しても、艦橋ブリッジは7年前と変わっていないらしい。


 そんな風に周囲を見渡していると背中を軽く小突かれた。

 これは後ろにいる愉快な護衛の仕業だろう、流石に周囲を見渡しているのが少女であっても気に入らない様だ。

 もう少し見ていたい気もしたのだが、後ろの木偶が怒るのも怖いので、俺は艦橋中心部へと歩みを進めた。



 艦橋総括橋へと進むと、ラーウェン・ストラフェルは中央に鎮座する、大きな椅子に腰を掛け、回転させて此方を向いた。


「ようこそ。此処こそが、この艦の中心です」


 ひじ掛けに肘をついたストラフェルは、ひじから先の両腕を査収に広げると、声高々にそう言い放った。

 “此処こそが”特にこの部分を強調した所からすると、彼が相当自分自身に酔いしれていることが窺えた。

 そんな彼に俺は一礼する。


「凄い、ですね」


 極々平凡的な、それこそ見た目相応な言い方で、俺はストラフェルに艦橋ブリッジの感想を言った。

 勿論、他にもいえる感想はあった。

 だがしかし、率直な感想と言う物は時に、どんなに比喩や語彙を捻って構築された感想よりも相手に届くことがある。

 それに、余り言いたくはないがこの見た目だ、単純なセリフでも喜んでいるという事が伝われば、相手はそれなりに気分を良くしてくれるだろう。


「そうでしょう、やはり貴方は筋がいい。このブリッジは我が国で長年培われた造船技術の結晶なのですよ」


 どうやら俺の考えは当たっていた様だ。

 満足げな笑みを見せたストラフェルは俺の後ろにいた木偶を呼ぶと、彼らに俺の為の椅子を用意させた。

 俺は座る前に一度、服――座面――の皺を伸ばしてから椅子に腰を掛ける。

 それからほどなくして、今度は俺とストラフェルの間の床から机がせりあがってきた。


「どうでしょう、ここいらで一旦休息を取りませんか?」


 そんな彼の言葉の直後、何処からともなく燕尾服に身を包んだ男が現れ、机の上に茶を置いた。

 にしても、急に後ろから現れないでほしい、驚くだろう。

 俺が燕尾服の男をまじまじと眺めていると、ストラフェルが俺の疑問に答えてくれた。


「驚かせたようなら申し訳ない、彼は私の家の執事なのですよ」

「執事ですか……ということはストラフェルさんは貴族様なのでしょうか?」


 貴族、多分それを他国の人間が聞いたら鼻で笑うだろう、なんてったってヒューゴスティア連邦事態は民主制、王政との馴染み深いもの――貴族や王――が存在していることに。

 ただここでこれ等が出てくるには理由がある。

 ヒューゴスティアは民主制で、政治の中心となる連邦議会の議員たちは誰もが選挙で選ばれている。

 しかし連邦という名がつく通り、ヒューゴスティア内部には自治体というくくりではあるが小さな国が数多く存在する。

 更に数少なくない小国の中には、連邦の意向には従うものの、その他はそこを収める王が運営の中心であるということが割と多くあるのだ。

 つまりはそんな小国の内政から民主制であるはずのヒューゴスティアにも貴族や卿が現れる現象が発生している。


「まあ、その端くれではありますね。しかしご周知のとおりそこまで名がある家でもないですから苦労はしますけれど」


 ストラフェルは若干の躊躇いを見せつつも頷きそう言った。

 彼が言うのをためらったのは、彼の言った通りあまり名が知れた家ではないからだろう。


「確かに、下位の貴族様は上位の貴族様から軽蔑され、庶民の方々からは疎まれたり、とお聞きしたことがあります」

「よく御存じで、まったくもってその通りですよ。上からは軽蔑され、下からは妬みが飛んでくる、まったく中途半端ほど苦労することは無いですよ」


 貴族とは力があるもの、一般的な世間の認知は大半がそんな風に思っている。

 確かに名のある貴族とその家は、それだけで選挙でも有利になるし、軍人になっても評価される機会が多くなるのだから、あながち間違いとは言えないだろう。

 しかし名のない貴族は、上からは名声がないというだけで使えないレッテルを張られ、その上世間からは同じ貴族なのだからと名のある家と同じような期待が――特に軍人だと――飛んでくる。

 彼は後者の立場だというのだからそれはもうその年で大変な苦労をしているのだと思う。

 俺は彼に軽く同情の笑みを浮かべた。


「ウェイン、彼女にお菓子を」


 俺の慰める様な笑みが、彼の気を更によくさせたのか、はたまた他に何か違う事を考えたのかは分からないが、ストラフェルは燕尾服の男に声を掛けさせると今度は、華やかな皿に盛られた“クッキー”を用意させた。


「どうぞお食べになってください。貴方は如何やらクッキーがお好きな様なので」

「ありがとうございます。クッキーは私の好物なんです」

「やはりそうでしたか、艦内で貴方がおいしそうにクッキーを食べているのをこの間見かけましたので用意させました」

「お心づかい感謝します……それと失礼ながら自分が持ってきたものもここに出してもよろしいでしょうか。“残りがあと少し”で、どうせ食べるのなら、美味しいお茶と一緒にいただきたいのです」

「ええ、構いませんよ」


 ストラフェルの言葉に俺は、此処に来てからずっと持っている小さなポーチから、例のクッキーを取り出し皿の上に出した。

 ここまでの流れは順調である。

 彼が貴族であり、あまり名のない貴族であったことは事前にルーが調べ知っていた。

 そして、どうすれば気を良くするか、どう喋ればいいのか、この辺は事前にマルメラから教えてもらっていた。

 余りに上手くいきすぎて逆に気味が悪いが、入念に計画した結果と考えれば何処も不思議ではない。

 俺はまず、お茶を品よく飲む。


「美味しい、これはどこの茶葉を使っておられるのですか?」

「ああ、それはですね――」


 丁度その時だった。


『司令官! 座標、3-5--10、から高密度の磁場を検知しました』


 突如として机上からホログラムモニターが飛び出したかと思うと、大きく叫ぶ男の声が聞こえた。

 その声にストラフェルは後ろの護衛を手招きした。


「彼女を後ろのシートに誘導しろ」

「ストラフェルさん、一体何事です?」

「“奴ら”ですよ」


 ストラフェルは小さな笑みを俺に浮かべるとその場で立ち上がり反対を向くと、声を張り上げ言った。


「海賊が現れた! 各員戦闘配置につけ! 我が艦隊はこれより交戦状態に入るッ!」


 それから一呼吸を置くと彼はもう一度声を張り上げた。


「<ファルコム>、-2-7--4へ」


 彼は他の艦と通信するための艦隊通信ステーションへと連絡したようだ。

 程無くして通信員の復唱と供にストラフェルの正面のモニターに映る一点がグリッド上を移動した。


「<ドミニオン>、3‐7--5へ」


 連絡員の声と供に再び画面上の点が移動した。

 今動かしたのは、グリムクリスタル級巡洋艦より少し小柄なリーン・スフィア級巡洋艦らしい。

 続いてストラフェルは三隻の駆逐艦と六隻のフリゲート艦を動かした。

 通信員が指定された座標を復唱し、各艦に情報を伝達する。

 その間にストラフェルは右を向くと、再び声を上げた。


「機関長、シールドを後方、左右に最大出力でセット、艦内の無駄なエネルギー及び巡航エネルギーの余剰、全て武装に流せ! 艦内システムは全て予備電力に切り替え、武装と航行以外に無駄なエネルギーを使うな」

「承諾しました司令官」


 重低音の機関長の声が艦橋総括橋に響き渡る。

 次にストラフェルは左を向く。


「操舵手、後方に加速しろ」

「はい、司令官」


 そんな彼のやり取りを眺めていた俺は彼に声をかけた。


「慣例からすれば、艦内システムを予備電力に回すのは危機的な状況に陥った場合だとお聞きしましたが」


 これは士官学校で習う物で、士官学校を出た士官たちからすればコップに水を入れることくらい常識的な事なのだが。


「確かにそれはそうだが、残念ながらこれは戦争じゃない、それに相手はステルス性の高い艦を使ってる、出来るだけ距離を詰め、相手が動く範囲を予測できる位置までさっさと移動した方がいい」

「それは貴方のお考えですか?」

「ああ、これは私が海賊と交戦した者たちから聞いた話を総合し導き出した結論だ」


 ストラフェルは自信たっぷりにそう言うと再び前を向き指示を出し始めた。


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