Episode 32 : 艦内システム掌握用偽装クッキー
まだまだ投稿していきますよ!
内壁の一部から配線やら配管やらが剥き出しになっている艦内の一室。
別に建造途中で放置されたとか、年季によって内壁の一部がはがれて剥き出しになったという訳でもない。
元々そう言う造りなのであり、配線にはしっかりと漏電対策がしてある。
薄暗い緑の照明に照らされた室内。中央には大きなモニターをその板面に備え付けられた作戦テーブル。
その上には、可愛らしいイラストの入っているジャンク―フードの箱が置かれていた。
「これは……クッキーですか?」
俺が立っているのは、縦長の作戦テーブルの長辺。
俺はクッキーの箱を指差し、正面に立つ人物たちの中でも一際、異様なオーラを放つ男――ランド――に尋ねていた。
「ああ、9割方はな。と言っても、中身の一割が別物とかじゃないぞ。一枚一枚の中に小さなチップを入れてある」
「チップ……ですか。一体何のためにそんな物を」
「ああ、あいつらの艦に仕掛けてもらおうと思ってな。チップは内壁を貫通し、内壁の内側、艦内のネットワークにアクセスできるようにしてある。お前さんには奴さんの艦内にそいつをばら撒いて来てほしい」
「クッキーごと、ですか?」
流石に、いくらなんでも歩いてる途中にクッキーばら撒いたりしていたら、それはヤバい奴ではないのだろうか。
と言うよりそのまま落ちたクッキーは片づけられそうな……
「――がっはっはっは、面白れぇッ――だけどまぁ、流石にそんなわけねぇよ。ちゃんとクッキーから取り出してから使うんだぜ」
「ああ、ですよね」
「でも、ちょっと面白れぇかもなァ。試にこっちの“普通のクッキー”でやっても良いぜ?」
「やりませんから――ッ!」
そんな俺達のやり取りに周囲の人物たちが笑う。
俺は小さく俯いて自分の馬鹿な発言を悔いた。
こういうことは軍隊にいれば誰もが経験することになるから、別に俺が特別いじめられているというわけではないのだが――今の俺の也は少女という事もあり、こういう時の中に起きる笑いの中には少なからず暖かい目線が混じるのだ。
俺はそれがあまり得意ではなかった。
「まあ、レディが季節外れのハロウィンパーティーをする話は置いておいてだな――」
「しませんからッ!」
「――わ、わかったってそんなに睨むな。おじさんちびっちゃうからよォ」
「と、とにかく。本題をお願いします――詳細にッ!」
周りの目線は、この際しかたがない、無視だ。
それよりも俺のすることが何なのかの方が重要なのだ。
俺は目の前の箱を手に取ると、ランドに改めて真面目な視線を送る。
「……あいよ、わかった。んじゃ、本題だ――――――」
ランド小さく息を吐き捨てながらそう言った。
それから卓上のモニターを操作するために、テーブルに備え付けられているホロパネルを操作すると、作戦の説明が始まった。
つまるところ、俺がやることは保険的な作業だった。
簡単に言うなれば使わないかもしれないが念のための作業である。
幾ら俺達『クラウソラス』の一人一人の能力が高くても流石に圧倒的な数の前には歯が立たない、そしてその相手は“海賊”だけでなく、“協力関係にある彼ら”もそのうちに含まれている。
『艦内システム掌握用偽装クッキー』
それが俺の目の前に置かれているものの正体だ。
この俺の目の前に置かれた可愛らしいイラストが描かれた箱、その中のクッキーの一枚一枚には微小のナノチップが埋め込まれている。
そしてこのナノチップはネットワークに接続し、互いに連携することで、もう一つのネットワークを形成することができる。
これを“彼ら”の艦に設置することで、彼らの艦内ネットワークへの干渉が可能になり、端末一つで彼らの艦を乗っ取ることが可能になるという事らしい。
つまりこれが何の意味になるのかといえば、万が一彼らが俺達を裏切るようなことをした場合への備えである。
まあ、大体何をすればいいのかは分かった。
そして割といい案だとは思う。
しかし――
「でもなんでクッキーなんですか? 偽装なら他にも何かあるでしょうに」
俺は唯一つ、なぜ偽装に使用するのがクッキーなのか、それだけが疑問だった。
軍艦、そこに持ち込むための偽装にクッキー、明らかに不自然ではないだろうか。
そんな風に俺が唸っていると、
「いい質問だねレディ。確かにこんなクッキーを、俺達が持ってきたらそれは怪しいかもしれない。だけど、君は相手から“兵士”ではなく”少女”と認識されている。そんな君が持っていくにはこっちのがいい気がしたんだ」
正面からランドの隣、俺を見てそう発言したのは、首の少し下まで伸びた金髪の男。
彼の名は、マルティン・メラート、通称はマルメラ。
長身痩躯、そして常日頃からの鍛錬により絞り込まれた肉体、正直モデルとかをやらせても勤まりそうなプロポーションをしている。
更に彼は、そのモデルじみた体形に加えて顔も実に整っていた。
それこそ“王子”とか言われた日にはすぐに信じてしまいそうなくらいに。
彼はこのクラウソラスの副隊長にして元――ヒューゴスティア連邦航宙軍戦闘歩兵群『ミッドフェル』――特殊部隊員である。
「そう、なんですか」
ちなみにだが、俺は彼があまり得意ではない。
なんと言うか彼の発言、元男の俺としては、聞いてるだけで吐き気を催すのだ。
そんな事もあり、彼が俺に微かな笑みを向けているのを視界に入れた俺は、声が若干震えてしまった。
それでも、マルメラはそんな事は知っては知らずか、自分のペースで会話を続けてきた。
「ああ、そうだよ。それに君みたいな可憐な少女が、暗い部屋で電子機器の画面を凝視している姿なんて美しくないしね」
「それは、どうなんですか?」
「美しくないかどうかと言う事についてだね。君が彼らから少女と思われているのなら、それを助長させる方に働きかける方がいいと思うという意味だよ」
「は、はあ……」
それならもう少しストレートに言ってくれれば良いのにと思うのだが……なぜだかマルメラが俺と話す時は無駄にこういった表現が多い。
俺が彼に苦手意識を持つ理由の一つでもある。
まあ、それでも。確かに、少女の持ち物ならゴツゴツの電子機器より、スナック菓子のがいいのかもしれないという意見には賛同するが。
けれど元々俺は、成人している上に男だ。
彼の意見に納得はしたものの、心の隅では正直に言えば、何とも言えない感じだった。
クッキーについて言及されれた時の為に、少し自己訓練(自分にとってクッキーがどれほど偉大なのかを説明する)をした方がいいかもしれない。
「とりあえずやってくれるか、レディ?」
そんな風に考えているとランドが低い声で俺に語りかけた。
俺はその言葉にランドの方を向き、唾を少し飲んでから返事をする。
「わかりました。必ずや成功させましょう」
× × ×
グリムクリスタル級巡洋艦“ソルヴァン”
ヒューゴスティア連邦軍の各部隊で運用されはじめている大型巡洋艦で、ネブラスカ駐屯軍、第三方面部隊の旗艦を務めている艦だ。
近年、旧式化が懸念されていたリーン・スフィア級に変わり開発された新型巡洋艦でもある。
見た目は四角い長方形を組み合わせたような見た目で“でかい箱”と言った方が解りやすいかもしれない。
カラーリングはグレーを基調にしていて、所々に見えるグラビティフレームが緑色に発光し巨大な船体に線を走らせている。
突出した能力は無く良くも悪くも平凡――お偉い方が言うには“オールマイティに柔軟な対応が可能な艦”――な訳だが、安定した航行能力を持っているのが特徴で、多くの士官達が艦隊の旗艦にしていることが多い。
更にこのグリムクリスタル級は連邦の盟主たるヒューゴスティア国の技術が多く採用されている艦で、高濃度濃縮イオン砲や重力制御による姿勢制御などの高度な技術がつかわれている艦でもある。
内装はやはりヒューゴスティアならではというか、お国柄と言うか “無駄なものは無くし合理的であるべき”というのが見事に再現されていた。
等間隔に設置された照明、何も変わらない四角い通路、壁はきれいに磨き上げられており照明の光を眩く反射する。
ずっとこんな景色が通路には続いている。余りにも違いがないせいで若干平衡感覚を失いそうになるほどだ。
俺は今、そんな連邦政府の船に乗艦している。
人質――建前では監視役として。
あくまでも政府側からすればの――人質――ではあるが……。
「そろそろ慣れていただけたでしょうか、ハーミットさん」
若い男の声に、俺は半反射的に振り返る。
振り返った先に立って居たのは紺色の軍服に身を包んだ男だった。
紺色を基調とした背広の袖には3本の金線と一つの星が入っていて、艦内の照明により煌びやかに輝いている。
男の金線と星は軍隊で言うところの中佐を示していて、航宙軍では幾つかの艦隊を指揮する指揮官であることを示していた。
そんな男はまだ若く、首の中程まで伸びた栗毛が何とも言えない幼さを醸し出している。
男の名は、ラーウェン・ストラフェル。
ヒューゴスティア・ネブラスカ駐屯軍、第3方面部隊の指揮官であり、海賊討伐を俺達と一緒に行う――ネブラスカ駐屯軍・海賊討伐派――部隊のリーダである。
「ええ、まあ」
「それはよかった。“あなたの船”の中が如何なっているのか知りませんが、この船は客人を載せるようにできてないので、お気に召さないかと」
「いえ、そんな事はありません。それにあくまで私は貴方方の“監視役”で乗船しているだけですし、客人ではありませんから」
俺がこの船に乗艦してから1週間余り。
彼との会話の始まり方は毎回こんな感じ。
今のやり取りが挨拶の代わりの様なものだった。
結局のところ、彼の口から俺の事について言及された事は一度もない訳だが、その代りに、彼は俺を一度として兵士として扱ったこともなかった。
「そうでした。あなたは“監視役”でこの艦に乗船しておられるのでしたね。それは失礼」
彼はそう言ってから頭上の軍帽を脱ぐと胸元に持ってきて俺に一礼する。
彼の言葉と行動が一致しないのは、もう、どうしようもないだろう。
俺は彼らに、どっかのご令嬢だと思われているのだから。
そして俺は、その勘違いに乗っかりそう見えるように演技している。
そんな訳で兵士と思えと言われたところで、信じる人間はいないはずだ。
俺は今一度、ストラフェルの方へと向き直り姿勢を正すと、軽い笑みを作った。
「ところでストラフェルさん。私に何か御用でしょうか?」
「ええ、ブリッジにでも案内しようかと思いましてね。どうやら貴方は船に興味がおありの様ですから、どうです。政府の軍艦のブリッジなんてなかなかお目にかかれないですよ?」
「それは……嬉しい申し出ありがとうございます――是非お願いいたします」
「では参りましょう」
ストラフェルは青さが残る顔に小さな笑みを浮かべると、俺とは反対方向――艦橋――に向けて歩き出した。
やはりか……。
彼は俺の行動を逐次監視していたようだ。
『どうやら貴方は船に興味がおありの様ですから』
この一週間、艦内のいたる場所を歩き回っていた俺に対して掛ける言葉としてはこれ以上もないほど素晴らしい言葉だろう。
たぶん彼が解りやすくそう言ったのには“これ以上歩き回るられるのは迷惑だ”という事を遠巻きに俺に伝えたかったからだと思う。
本当に監視役など都合のいい建前でしかない。
自由に歩き回る事すら許されないとは。
ただ、彼らが俺に与えた一週間の猶予期間は、俺の“するべき事”をするには十分な期間だった。
これ以上俺がこの艦内を自由に歩き回る必要などない。
俺は、フッと息を洩らした。
「どうかしましたか?」
「お気になさらないでください。少し興奮しているだけですから」
「そう、ですか」
しばらくストラフェルが不思議そうに俺を見つめていたが。
直ぐに歩きだし、俺もその後を再びついて行った。
今回の投稿にあたり、前話から大変長い期間が開いたこと申し訳ありませんでした。
作者の家庭の事情により、少々書く暇が無かったのが理由です。
失踪予定とかないですよ! しっかりとこれからもがんばっていく所存です。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
これからもこの作品をよろしくお願いいたしますッ!




