Episode 16 : 「軽くいこうぜ~」
艦内に娯楽あれどニュースなし。
「よぉ、俺がクラウソラス小隊、隊長のロランド・ファラレーエフってもんだ。よろしく頼むよ『レディ』」
見た目50代後半、白い髭と白い頭髪の、歴戦の勇士と言った風貌の男が俺に手を差し出してくる。
「よ、よろしくお願いします。サー」
その風貌に威圧された俺は思わず言葉が詰まってしまった。
その場にいるだけで伝わってくる重圧、明らかに普通じゃない。
間違いない――こいつは強い。
「あぁ、いいよそういうの。堅苦しいの俺あんまり好きじゃないんだよね。呼ぶんだったら『ランド』とでも呼んでくれぇ」
「え、ですが」
「ああ、ほんとそういうの良いから軽くいこうぜ~。堅いと面倒くさいじゃん」
老兵は手を軽く振って「ないない」といったような感じである。
だらしない姿勢――なのに隙がない。
この人は一体何者なんだろうか。
俺は、目の前の老兵の言葉とそれに反する異質なオーラに戸惑いを隠せなかった。
ヒューゴスティア連邦議会議長・諮問機関【コマンダーズ】戦闘斥候コマンド・グラーディオ デルタ小隊「クラウソラス」――
デルタ小隊は全9小隊からなるグラーディオ4番目の部隊。
小隊の大半は特殊な経歴を持った人物で構成されているらしい。
おかしい――いきなり今の俺なんかじゃ足手まといになりそうな実務部隊に飛ばされてしまった。
その経緯は少し前にさかのぼる。
× × ×
「クレア、よくやった」
モニター室に戻るとミシェルに褒められた。
なんかミッシェルに褒められるのは7年ぶりかも知れない。
少し胸が熱くなる。
「ありがとうございます」
「とりあえずもうお前の配属する場所は決めておいた。今から教える場所に向かってくれ」
一体どういうことだ。
既に決まってるって……今さっき決めてできることじゃないだろう。
「なんでもう決まってるんですか?」
「無論、お前ならこれを確りと突破すると分かっていたからだ」
信頼が厚いってことでいいのだろうか?
ミッシェルに褒められるのは嬉しさと同時に何か裏があるのではないかと毎回思ってしまう。
ミッシェルはそういう男なのだ。
それは今も昔も変わらない。
だからこそ彼の言動は今一よく解らないところがある。
「褒め言葉として受け取っておきます」
「ああ」
「ところで配属先は何処なのでしょうか?」
「戦闘斥候コマンド・グラーディオだ」
「えっと、それはどういった部隊なのでしょうか」
「グラーディオはコマンダーズの軍事工作を主とする部隊だ。戦闘斥候コマンドは各宙域に派遣され情報収集ならび危険人物の抹殺などが主な仕事になる」
「そんなところに……」
「大丈夫だ、お前の受け入れ先は一々失敗で怒るような人間がいるとこじゃない、失敗の先に待つのは“死”だけだ」
ミッシェルはさらりと怖いことを告げる。
――えっと、全然大丈夫じゃないのではないだろうか。
下手しなくても死ぬのでは……。
「おっと、すまんなそこまで青ざめなくてもいい。あくまで任務内容がそれぐらいハードだってことだ。安心しろ、お前の入るデルタ小隊は癖は有るが強者ぞろいだ、万が一にでもお前が死なないように手配してある」
「そこまでしてなぜ、私のような足手まといを入れようとお考えに?」
「むっ、そう思うか。お前は十分やっていけると思うがなぁ……まあそうだな一つ言うなればお前の鍛え直しの為に入れさせるということだ」
「鍛え直し、ですか……」
「ああ、今のお前がどのようにやっていくのかをそこで考えるといい」
そういうとミッシェルに一つの紙切れを渡された。
「これは?」
「今からお前の行くところを示したものだ」
「だったら通信端末に」
「グラーディオはこっちでは最近出来たばかりでな、マップをまだ更新していないのだ」
「そういうことなら、分かりました」
「では頑張ってこい」
「行ってきます」
俺はミッシェルに一礼するとモニター室を出た。
再生紙に走り書きのように書かれたお手製の地図はわかりやすいというには程遠い代物だった。
右に言ったかと思えば左に曲がらされ、直進したかと思えば戻らされ――
まるで迷路の案内でもされているような気分になる。
乗ったトラムはなぜだか人が乗っていない閑散としたもので、ここに来て初めてそんな光景を見た物だから思わず震え上がったものだ。
そんなこんなで歩いていると周りの様子が少しづつかわって来たのがわかった。
明らかに……普通じゃない。
此処に来る間に人に合わなかったというのもあるが――それだけではない。
今、俺がいるのここは、足場しか組まれておらず、そこは建造途中の場所だった。
足場は幅1mの足場1本、両端には申し訳程度の紐があるだけ。。
一歩進むごとに足が震える。
足場の下が見えないのだっ!
安全なはずの船の中でなぜだか震え上がる自分がいるがこれは普通だと主張したい。
「おかしい、こんなの絶対おかしい……」
そんな風にゆっくり歩いていた時だった。
「よぉ」
「わっ――うわぁっ!?」
背後から突然声をかけられ驚き思わず足を滑らせる。
そして足を踏み外して下に――
「おっとっとー、危ねぇ~……殺しちまうとこだったぜぇ」
「……」
目の前には大きく口を開けた暗黒の空間。
そこに落ちる寸前、強い力で腕を引っ張られて片足だけ足場にまだついている。
あとは腕の力で支えられている状態だ。
にしてもいきなりここで不意打ちは無いだろうっ!
「あのっ」
「んっ、もしかして怒ってる? そうか『レディ』はまだアレで不機嫌なのか」
「あのう‼」
「お、おう。わりぃ、冗談だ」
そして今度は優しく引っ張られ足場に俺の体全てが戻ってきた。
振り返るとヘラヘラした顔に白い毛が特徴的な男と目が合う。
「いきなり後ろからは無いと思うのですが」
「まあアレだよ肝試し、ひやひやしただろ?」
「ひやひや所か魂半分持ってかれかけましたよっクソッタレ!」
余りに苛立った性で心の声まで漏れてしまった。
「はっはっはっ、威勢が良くてよろしい。おじさんそういうの良いと思うよ」
顔に深い皺を刻んだ初老の大男は顔に手を当て大笑いしている。
「なんなんですかっ。と言うか、誰なんですか?! さっきから訳が分からないのですが‼」
「んっ? あれ言ってなかったけ……君の新しい上官だよ」
「……はっ?」
突然の告白に俺は固まる。
こいつは俺の上官らしい。
見た目50代後半、白い髭と白い頭髪の引き締まった体、それに似合わないヘラヘラした態度、色々ちぐはぐな印象をうけなくもない。そしてなによりこの男が俺の上官ということに、俺は驚きを隠せなかった。
「まあ、そういうこった。あまりに来るのが遅いから迎えに来ちまったって訳だ」
遅かったから来てたのか、でも後ろからは無いだろう。
「はぁ。それは―――すみません」
「んっ? いいのいいの、醜かったしょあの地図。まあワザとだけど」
「……は、はい」
遅いのは地図のせいだと男もわかっているのか。
ただ若干、このイラッっとする言い方だけは何とかしてほしい。
それとワザとってどういう意味だ――
「とまあ、とりあえず挨拶だ。よぉ、俺がクラウソラス小隊、隊長のロランド・ファラレーエフってもんだ。よろしく頼むよ『レディ』」
男が俺に手を差し出してくる。
「よ、よろしくお願いします。“サー”」
男のゴツゴツした手に俺の小さな手を重ね軽く握手をした。
それと――『レディ』って俺の事で合ってるよな?
「あぁ、いいよそういうの。堅苦しいの俺あんまり好きじゃないんだよね。呼ぶんだったら『ランド』とでも呼んでくれぇ」
「え、ですが」
「ああ、ほんとそういうの良いから軽くいこうぜ~。堅いと面倒くさいじゃん」
老兵は手を軽く振って「ないない」といったような感じである。
ならそうしよう。
「とりあえず君が入るのは、ヒューゴスティア連邦議会議長・諮問機関【コマンダーズ】戦闘斥候コマンド・グラーディオ デルタ小隊『クラウソラス』って訳だ」
「えっと……」
「簡単に言えば、超強い俺さんが率いる宇宙最強の部隊だ」
何言ってるのこの人……。
「――そういうのはいいので」
「んっ、え? そう、冷めてるなー……んじゃちゃんと言おう、デルタ小隊は全9小隊からなるグラーディオ4番目の部隊だ。グラーディオの中でもかなり尖った部隊で小隊の大半は特殊な経歴を持った野郎で構成されてる。あ、ちなみに君が入ったから野郎と+1な」
先程からこの男は一々聞くに堪えない冗談を言わないと話せないのだろうか……。
うううぅ……。
先行き不安になってきた。
「つまり経歴が特殊な人材の寄せ集め部隊ですか?」
「んっ、まあ言い方はともかくそういうこったな~」
「そういえばいつから私の後ろに?」
「えっ、あれ。もしかして気づいてなかった?」
「声をかけられるまで気づいていませんでした」
「……そうか、なら教えてやるよォ。俺はお前がモニター室から出た直後からずっと後ろにいたわけだ」
息が止まりそうになった。
モニター室を出てから俺はずっと一人だったはずだ。
それに艦内の人物に紛れていたとしても、トラムは俺意外、間違いなく誰一人としてのっていなかったはずだ。
「あぁ~とりあえず君、ここに来るまでに俺だったら軽く3桁は殺せたな、はっはっは――」
警戒はしていた。
この体になってからたった数週間で何回も危険な場面があったからといって、周囲の注意は起こったてなかったのだ。
なのに……この男に関してはついてきていたどころか、俺は途中で見た覚えすらない。
「そういえば遅いから迎えに来るって……」
「んっ、ああさっきの奴ね。嘘だ、がっはっはっは、冗談で付き合ってくれてると思ってたんだけど、信じてたか~。へっへっへ」
男はそういうと頭の後ろをポリポリとかいて笑っていた。
それとは反対に俺は、この男と俺との間にある絶対的な壁を理解し顔から表情が消える。
「さてと、君がこの部隊に入るからには、まぁ、今のでわかったと思うけど、もう少しだけ頑張ってもらうことになる。いや、言い方が悪かった。“君にとっての強さ”を見つけてもらうことになるな」
「私のとってのですか?」
「あぁそうだ。例えば俺だったら、超最強、文句なしのスーパーソルジャーだけど。君が同じ風になれるかと言えば、違うだろ? 同じ努力を積み重ねようが生まれ持った物の違いで絶対的な壁ができちまう。だったら自分に会った自分だけの強さを見つけて磨いた方がいいわけよ」
「えっと……つまりどういうことですか?」
「とりあえず今の君は俺に軽く3桁ころされるヘナチョコだが、しっかりと自分を見つけれれば少しマシになるはずだぁ――そうだな、2桁くらいとかにはなるんでね?」
一人前になれても2桁は殺されるのかよっ。
いや、まあそういう意味じゃなくて、単純にこの男が自分強いよって自慢してるだけかもしれないけれど。
「よし、まあこれくらいで大体わかったろ? ささっといこうぜぇ、おじさんちょっとここ怖いんだわぁ~」
そう言った様子で俺の肩を叩く男。
「わかったろ?」と聞かれたが、全然分からなかった。
とりあえず現状はもっと頑張らないといけないということを再確認できたぐらいだ。
それ以外は話の半分も理解できなかった。
というか怖いのかよっ!
「だったら此処で話さないで早くいけばよかったじゃないですかっ」
「えっ? いやぁ~話す流れだったろ?」
「移動ぐらいしてあげますよ!」
「はっはっは、じゃあ次からそうするかぁ~」
二度とごめんだ。
俺は進行方向にもう一度振り返る。
建設途中の暗闇が視界いっぱいに広がる。
「で、進むのはこっちで良いんですよね?」
「ん、ああ」
「じゃあ、ささっと行きましょう、疲れました」
「おう――って案内するの俺じゃね?」
鉄骨を渡り少し床幅が広がったところまで行きそこで男に案内して貰えるように道を譲る。
× × ×
今、俺がいる場所――<ジークフリート>の艦内マップにこんな場所は無かった。
マップでは何もなかった空間。
しかし今、目の前にある場所は間違いなく何もない空間ではなく、立派な区画だ。
磨き上げられた壁と床、そして白い光を放つ天井。
目の前の大きな壁には第0番デッキと書かれている。
「さて『レディ』、ここが俺達グラーディオの職場だ」
「こんな所に」
「あたりめぇよ、なんたって最近できたばっかだからなぁ」
「それにしても作る場所、もうちょっといいところなかったんですか」
「えっ――そんなの俺に聞かれても知るわけねぇじゃんよぉ。そんな事よりも茶々っと小隊の奴らと顔合わせだけするかぁ、とりあえず俺についてこい。いいか? 俺から離れるなよ?」
「どこにも行かないですよ。殺されたくないですし」
「がっはっは、誰も殺したりゃしねえよ。んじゃこっちだ」
扉が開かれ中に足を踏み入れる。
その瞬間、重たい空気が俺の体にのしかかった。
「やっぱり空気が違う……」
「んなこたぁねえよ、そう気張るなって」
俺の頭をわしゃわしゃするランド。
ここまで来る途中で何回かやられた。
そろそろ慣れてきた。
空気が違うと思ったら自分が緊張していただけだったらしい。
頭を触られたお蔭で冷静になった今、そのことがよく解った。
最初っていうのは緊張するんだなやっぱり。
俺とランド、二つの足音はどんどんと奥の方へと向かう。
そして一つの扉の前で立ち止まった。
「さ~て、んじゃ顔合わせと行きますか」
ランドが開閉スイッチを押して中に入る。
俺もその後について部屋に入った。
「おーい皆、新入りだぜぇ~!」
ランドが腑抜けた声で叫んだ。
それでいいのか――
「ああ隊長、今はほぼ全員で払ってますよ」
そして――返ってきた声は一人だけだった。
大丈夫なのだろうかココ……。
「マジかよ……はぁ、なんでこう俺のチームはみなさん自由なんですかねぇ」
「それで隊長、新入りですか?」
「ああ、ほらコイツだ」
俺は背中を押され前に押し出される。
「やあ、俺はアルヴィン・ハイドフェルド。みんなからは『ハイド』って呼ばれてる。よろしく頼むよ」
正面の浅黒い肌に優しげな顔をした男は俺に手を差し出す。
俺はそれを握り返した。
「クレア・ハーミットです。その、皆さんのように強くなれるよう頑張っていくのでよろしくお願いします」
「――ああ、君が噂の『レディ』なんだね」
んっ?
噂――レディ?
「あの、それっていったい?」
「えっ、あれ。知らなかったのかい」
男がなぜだか不思議そうに首をかしげて俺を見る。
「いえ、まったく」
「クルーの一部じゃ噂になってるよ。君がその……まあなんていうかね……ジムの前で〝初めて”が来たって」
「…………」
ひいぃ!!
なんでそんな噂になってるんだよお―――――――――‼
俺の耳元はみるみる赤くなり俺の心臓はバクバクとメトロノームのように鼓動する。
「ハイドォ、おめぇさんちょっとマナーなってないんじゃねぇの? いくら俺でも初対面でそれはひくわぁ~」
「えっ――あ、えっとすまなかった!」
顔が見れない、恥ずかしさに逃げ出したくなってきた。
ここからじゃない――<ジークフリート>からだ。
あ、あ、あれ、なんか久しぶりに頭が白くなってきたような―――
「おい、ハイド! 『レディ』が座り込んじまったぞ! 『レディ』? ハーミット? おーい」
「ど、どどうしよう、嫌われましたかね? ごめんよっ。 すま――
そんな声を余所に俺の意識は此処でいったん思考を完全に手放した。
この後、30分くらい座り込んでた。
ご一読ありがとうございました!




