Episode 15 : VS電脳の機械兵
『クレア、もう大丈夫か?』
通信端末から聞こえるミッシェルの声。
生理から4日ほど経った今、俺の体調は良くなってきた。
それに合わせてなんだか最近は気持ちが上昇方向気味だ。
何故だろう……まあいいか。
「はい。大丈夫です」
『では今日、再テストを行う。仮想訓練空間に来い』
それだけ言うとミッシェルは通話を切った。
朝食中だった俺は朝食を口に放り込むと出かける準備をする。
「クレア頑張ってきなさいよ」
出かける直前、玄関でフリンジブーツを履いている途中、アンジェリカに背中を叩かれた。
「大丈夫だ。日頃の成果を見せてくるよ」
俺はアンジェリカの見えるように手で『グー』を作りそれを伸ばして見せる。
するとアンジェリカがふっと微笑んで答えてくれた。
「いってらっしゃい」
「ああ、いってきます」
ドアノブに手を伸ばし扉を開け、俺は部屋を出る。
目の前に広がる永遠に続くかのような白い空間。
『久しぶりですねクレア・ハーミット。再びあなたの能力テストを行います』
耳元からは若い女性の合成音声が能力テストの実施を告げた。
流れ自体はこの間と一緒だが、どうやら2回目だと反応が変わるらしい。
『クレア、君には再びケース334での能力テストを実施する。場面が切り替わった後は合成音声の指示に従って行動してくれ』
耳元から今回、俺のテストに付き合ってくれる監督官の声が聞こえた。
今度は2回目戸惑うことは無いだろう。
「わかりました」
俺は頷いた。
『では転送を開始する』
目の前が白い光に包まれる。
『ケース334、このプログラムは敵戦闘艦への突入、及び艦内の制圧訓練です』
前回と同じ船内だ。
一目でヒューゴスティアの艦だとわかる無機質な船内。
「ハーミット、こっちだ」
突然背中を叩かれ振り返ると前回と同じ指揮官NPCがいた。
そして前回と同じくNPCについていく。
「お前はこれだ」
同様に武器庫前まで行くとNPCの指揮官は俺に、Mブラスターを投げてきた。
そして今度はしっかりと受け取ることができた。
「こっちだ」
NPCは何も言わず前と足を進めていった。
からかわれていない。
よし、前よりいい感じだ。
『仮想訓練開始まで1分です』
突入用の扉前に移動する。
「各自武器をチェック、報告しろ」
「SD-112、チェック」
「SD-113、チェック」……
俺は腕に着いた計器を確認する。
緑の武器チェック項目がしっかりと緑色に輝き、武器に異常がないことを俺に知らせてくれている。
俺の装備はMブラスターとMグレネード2個。
前回と同じだ。
「SD-120チェック」
そして次は俺の番。
「ハーミット、チェック」
第23突入部隊の武器点検が終了した。
後は突撃指示を待つだけ。
『敵戦闘艦がトラクターされました。数秒後に扉が開きます』
合成音声が告げる。
『戦闘開始――』
「行けっ!行けっ!行けえぇ‼」
隔壁が開ききる前から銃撃と足音を響かせ突撃していく。
× × ×
銃声、爆音、怒号。
全身を包み込む高揚感。
正面の敵兵がもんどりを打って倒れる。
「クリア」
俺はブラスターを下ろした。
周りにいるのは俺が倒した敵兵の死体。
戦闘開始から30分、既に艦内の50%を制圧した。
順調だ。
「次は制御室だ。行くぞっ」
「「「了解」」」
踵を返しNPC指揮官の後を追い、走り出す。
「突撃して、敵の守備を崩す。SD-112,113,114,115,116は左を進め、SD-117,118,119,120,ハーミットは右に回り込め。その他は俺と正面だ。行け!」
すぐさま俺達は部隊を分け小規模な分隊行動に移り、十字路を右に曲がる。
姿勢を低くし素早く通路を駆け抜けていく。
通路を駆け抜ける時間は短い方がいい。
正面に数人で固まった敵兵を確認。
距離は50。
相手はまだ気づいていない。
俺はブラスターを構えると引き金を引いた。
風を切る様な音。
空間を突き抜けていく青い光線。
完全に不意をつかれた敵は次々と倒れ、通路は敵兵士の悲鳴と騒音で満たされる。
残った僅かな敵も突然の出来事に動揺していた。
敵の僅かな反撃は照準を外し内壁に当たる。
ブラスター出力を上げて再び発砲。
訪れる沈黙。
通路は一本道。
正面の敵は全滅。
「クリア」
言葉を吐き捨て、俺は前に進んだ。
開始から1時間経過――制圧率は98%。
残るは艦橋唯一つ。
そして此処にはこのシュミレーションならではの演出があるそうだ。
前回それを聞いたとき、俺はそれを拝めなかった。
だが今回はその姿を見ることができる。
さきほどから脳内に溢れ出すアドレナリンが俺の戦闘意欲を刺激し、次の訪れるであろう戦いを求めている。
今この場にいるのは先程通路で別れたときのメンバーだ。
指揮官NPCをはじめとした他のメンバーは別の場所を攻めている。
つまりここからは俺だけの戦いだ。
「起爆しろ」
俺の言葉でSD-118が爆薬のスイッチを起爆する。
激しい爆音とともに艦橋入口の隔壁が崩壊していく。
「突撃!」
ブラスターの引き金を引き艦橋へと突入。
すぐさまに制圧にかかる。
小さな市民館程の大きさの艦橋。
其処にいる非武装の敵は戦意を喪失していた。
その一部は逃げ出そうとする、しかしここで逃げられてあと後に俺たちの障害になる可能性から、それを仲間が打ち殺していく。
そして残った大部分は投降してきたので周りの安全を確認させる供に他の仲間に見張りを命じた。
「艦橋制圧しました」
指揮官NPCに連絡を入れる。
演出とはこれの事だったのだろうか?
余りに呆気なかった。
もう少し骨のある演出を――
「ハーミット後ろだっ」
仲間の一人が俺に叫ぶ。
振り向けば目の前に迫る光剣――
風切音。
素早く身を後退。
ブラスターで応射。
しかし敵の装甲はマイクロ波を使ったMブラスターの攻撃を軽々と弾き飛ばしてみせた。
糞っ――MCSだ。
「MCSに対人兵器は効かないと思っておいた方がいい」過去にそう言われたことを思い出す。
「あぅっ」
応射した際の反動で体は後方にバウンド。
――チッ、体が軽いせいで動きながらじゃ……!
背中が地面に叩きつけられる。
実際にそういう場面にはいくつか遭遇したし自分でも体験したことがる。
そして今、視界いっぱいに広がる厳つい装甲兵。
そして、それが敵側に回った時の恐ろしさは今、身をもって俺は経験していた。
奴の足元、美しく磨き上げられた床の一部が拉げて凹む。
直後、MCSが俺の目の前まで跳躍。
目の前に迫り来るもの、それは悪魔だった。
全長2m、深緑の躯体、顔面には赤色に光るスリット。
奴は全身が武器だった。
腕も、脚も、指先、頭部、目に映る全ての部位が奴の盾となり牙となる。
MCS。
振り上げられた拳が天井の照明と重なる。
不味い!
素早く右回転で回避行動。
轟音――
すぐ横で強烈な衝撃波が起こる。
俺は紙一重で敵の攻撃を躱した。
転がる体を停止。
先ほど俺がいた場所には小さなクレーターが出来上がっていた。
不意に視界に映ったMCSが不満げに自らの拳を見つめている。
そして奴の頭部がこちらを向き、長細い赤の光が視界に映った。
床を両腕で押し込み立ち上がる。
「化け物めっ」
小さく言葉を吐き捨てた。
MCSは通常兵器を普通に使っても倒すことはできない。
デスクを飛び越えMCSから距離をとる。
なら、どうするればいい。
奴は追撃の手を止めようとはしていない。
MCSの右腕に内蔵されたミニレールガンモジュールを起動。
白く不気味に輝いた銃口が俺に向けられる。
淡い紫の光で輝く銃口。
あれに当たればミンチどころの話じゃすまない。
なにか方法を……
その時頭の中に閃光が走った。
避けようとしていた体を止める。
そしてMグレネードを取り出した。
MグレネードはMブラスターと同じくマイクロ波を使った兵器である。
しかしMブラスターとMグレネードには一つだけ違いがあった。
敵の目の前に迫った時、光であるか、物体であるか――
ブラスターの弾丸は光だ、だから装甲に簡単に阻まれる。
対してMグレネードは物体で質量を持っている。
スイッチを起動しなければ爆発もしない。
つまり、あのレールガンモージュールに投げ込めば……もしかすればレールガンモジュールを利用して奴を倒せるかもしれない。
試す価値はある――
焦り震える体を根気で無理やり押し殺す。
そしてグレネードを右手に握り、大きく振りかぶる。
キャッチボールなどと同じような要領だ。
「はああっ!」
そのまま正面。
敵、MCSレールガンモジュール目掛けて投げつける。
そして直ぐに遮蔽物に身を隠す。
続く轟音――
空間を揺るがすような衝撃波。
そして頭上からはパラパラと粉々になった破片が降り注ぐ。
「はぁ……はぁ……」
俺は息が上がり肩が激しく上下していた。
深呼吸をして呼吸を整える。
そして俺はゆっくりと遮蔽物から顔を出した。
先程MCSのいた場所、半径5mの空間がきれいに吹っ飛んでいた。
そしてどこからも攻撃が飛んでくる様子はない。
成功したのだ。
レールガンモジュールは発射口すぐそば、俺の投げたグレネードは見事にその射線上に入った。
続くレールガンの発射。
レールガンは物質に当たると周囲に強烈な破壊をもたらす武器だ。
そしてそれが銃口すぐそばのグレネードに当たったことにより爆発。
MCSは爆発に巻き込まれ消滅する。
それが成功したのだ。
『MCSの反応消失を確認』
仲間の一人が言う。
『艦船の制圧率が100%になりました。これにてケース334、突入訓練を修了します』
耳元から終わりの合図を告げた合成音声が聞こえてきた。
そして眼前は白い光に包まれ、真っ白な空間に戻る。
「ふぅ……」
俺は小さく息を吐いた。
額から滴る汗が床を濡らす。
『よくやった。A判定――合格だ』
耳元からミッシェルの声が聞こえる。
……A判定。
「本当ですかっ⁈」
『ああ、MCSを倒せなかった場合B、倒した場合Aだ。クレア、お前はあれを倒した。よってA判定だ』
「やった!」
胸の前に持ってきていた拳で小さくガッツポーズをする。
素直にうれしかった。
これで胸を張って合格と言える。
『晴れて今日からお前は【コマンダーズ】だ、今からお前は我々のために戦い、そして我々のために全てを捧げろ』
「元よりそのつもりです議長閣下!」
俺はその場で敬礼する。
『クレア・ハーミット、我々は改めて君を歓迎する』
全身を真夏の太陽のような高揚感が包み込んだ。
『戻ってこい。詳しい事はそこで話す』




