第6話『模擬戦 ―交差する想いと決意―』北条&柚月視点
訓練区域、東側の岩場と砂地が入り混じるルート。風が吹けば砂粒が舞い足元をさらうように流れていく。
「ドローン展開、敵影なし。気配も静かすぎるわ」
耳元の通信から、澄んだ声が届く。柚月は携帯型端末を手に、上空を旋回するドローンの映像を細かく分析していた。目は冷静だが、その奥にはわずかな緊張が滲んでいる。
「つまり……待ち伏せの可能性があるってことか」
前方を警戒しながら進む北条が呟く。その声には焦りも迷いもない。静かな自信と鍛え抜かれた肉体が生む重厚な気配がある。
「慎重にね、北条くん。あなたの突撃は強いけど単独で飛び込んだら意味がないわ」
「わかってる。安心しろ、柚月」
言葉は短くても、その言い回しには信頼の色が濃い。北条は拳を軽く握り直し、岩場の陰を縫うようにして足音を抑えながら進んだ。
「ドローン感知なし……でも、この沈黙が逆に不自然ね」
「誘ってるってことか?」
「可能性はある。周囲の温度分布が妙に均一すぎるのも気になるわ」
そのとき、耳元にノイズ混じりの通信が割り込んだ。
『撃破確認。1点目、神谷&波多野チーム』
柚月が目を細めて端末に視線を落とす。
「……やっぱり。あの二人、早いわね」
「想定通りだ。あの二人は完成度が違う」
「でも、今は勝ち負けじゃない。現場で何が起こるか、最後までわからないから」
北条は頷き、周囲の地形に目を配りながら歩みを再開する。砂を踏みしめる音が、ほんのわずかに響く。
その時だった。
「……!」
岩場の影から、突如訓練用機械兵が飛び出してきた。音もなく待ち構えていたのか、タイミングを見計らったかのような正確な動き。
「北条、左!」
柚月の警告と同時に、北条の体が反射的に動いた。
身を低くして機体の攻撃を躱すと同時に、砂地を蹴って逆方向に回り込む。そのまま体勢を崩した敵機の死角に滑り込み、拳に力を込める。
「はッ!」
スーツの増幅機能が拳に重みを与え、鋼鉄の装甲が軋む音とともに腹部へ一撃が叩き込まれた。衝撃に揺らいだ機体の関節部へ続けざまに打撃を加える。
膝が崩れ、機械兵は地面に倒れ伏した。
「動き停止、撃破確認。……1点目、北条&柚月チーム」
柚月が淡々と報告する。
北条は砂を払うように拳を振り下ろし、呼吸を整える。
「ふぅ……今のは危なかったな」
「でも、反応は完璧だった。さすがね」
「だろ?ま、あいつ(石田)にはまだ負けらんねーしな」
「まだ気を抜くなよ。次もいるはずだ」
「ドローンは次の反応を探知中。……2体目を探しに行くわよ、北条くん」
「了解。」
岩の陰から、二人は再び慎重に歩き出す。戦いはまだ、これからだった。




