第5話『模擬戦 ―交差する想いと決意―』神谷&波多野視点
模擬戦開始の合図が鳴る少し前、神谷と波多野は出発口の待機スペースにいた。
「……あのさ、波多野」
神谷がヘルメットのストラップを指先でいじりながらぽつりと声を発する。
「この直前の時間、なんか落ち着かないんだよな。静かすぎて」
「そうか?」
無表情のまま波多野が答える。神谷は軽く苦笑する。
「お前はそうだろうけどさ。俺、なんかいつもより息が浅くなる気がして……ほらもうちょっとこう試合前の円陣みたいなノリないの?」
「円陣組むのか? 二人で?」
「いや違う、そういう意味じゃなくて……くそ、緊張してるんだな、俺」
「緊張してる君が珍しいわけじゃない」
「慰めにもなってないんだけど」
波多野はヘルメットをしっかりかぶると、神谷の背中を軽く叩いた。
「でも君はいつもちゃんと動けてる。そうだろ?」
神谷はその言葉にわずかに目を見開いた後、照れ隠しのように頭を掻く。
「……そう言われると悪くないな」
「ほらチェック終わった。そろそろ行くぞ」
「よし、頼りにしてるぜ、相棒」
「自分の仕事をしろ」
スーツの最終確認を終えた二人は出発口の前に並ぶ。
──訓練区域に乾いた起動音が響く。それが模擬戦の開始を告げる合図だった。
林が鬱蒼と広がる南ルート。神谷と波多野は他のチームとは別のルートを進んでいた。
「さてと、そろそろ行きますかー。1位はオレらがもらうってことで」
「集中しろ」
「はいはい、分かってますって。今日はツイてる気がするんだよな。こないだのおみくじ、大吉だったし」
「信じる根拠が弱すぎる」
そんな軽妙なやり取りの中、神谷がレーダーを見て目を細めた。
「……いた。あれ、例の訓練機じゃね?」
「距離50、左前方。隠れながら接近する」
波多野が指示し、神谷は小さく頷く。
「OK、後ろから派手にいくわ。あ、でもあんまり派手にやると怒られるかな」
「いいから早く行って」
二人は木立の影を縫うようにして静かに接近していく。
波多野は膝をついてライフルを構え、呼吸を整えると敵機の頭部にあるセンサー部へ正確に狙いを定めた。一発、EMP特有の青白い閃光がほとばしり、センサーが瞬時に撹乱される。
「ナイスショット」
神谷はその合図を受けて背中のスラスターを軽く噴かす。土と落葉を巻き上げながら斜面を滑空するように一気に接近。木の根をステップに跳躍し、敵機の死角に飛び込む。
訓練機が視界を取り戻すより早く神谷は機体の側面へと回り込んでいた。だが今回はそのままナイフを構えるのではなく一瞬のフェイントを入れ、訓練機の注意を肩部へと誘導。
その隙を突いてスーツの脚部アシストを最大出力に。機体の膝を蹴り上げながら神谷は跳躍した。
「これで決めるっ」
ナイフを逆手に持ち替え、訓練機の首元――センサーと駆動ラインが集中する要所へ正確に突き刺す。刃が装甲の継ぎ目を裂いて沈み込み、火花とともに機体が大きく揺れた。
数秒後、訓練機は痙攣するように動きを止め、膝をついて沈黙する。
「やったぜ、一番乗り~ 見たか見たか! 俺らが一番だー」
「無線入れて。報告しないと」
「冷たいなあ……」
神谷が無線を繋げると、管制からの応答が返ってくる。
『撃破確認。1点目、神谷&波多野チーム』
*
一撃離脱を成功させた二人は林の中に再び身を潜める。
「ふぅー、なんか訓練よりラクだった気がするな」
神谷が息を吐きながら草の上に倒れ込む。
「油断するな。次もある」
「わかってるって。でも俺たち、いける気がするぞ今日は」
神谷が寝転んだまま空を見上げて笑う。
「あー、このまま昼寝してえなー」
波多野は小さく肩をすくめた。
「気を抜くのは、拠点に戻ってからにしてくれ」
「真面目だなあ、まったく」
*
その頃、管制室では、モニターの一部が一瞬ノイズを走らせた。
オペレーターが眉をひそめるが、すぐに表示は復帰する。
「……少し映像に乱れが。気のせいかもしれませんが」
島教官はちらりとその画面を見やったが、大きな反応は示さなかった。
「続行だ。各班の動きを注視しろ」
それは、ただのノイズなのか──誰も確信を持っていなかった。
──そして、もう一体の機体が動き出す。
(続く)




