第4話『模擬戦 ―交差する想いと決意―』
訓練生たちに通達が下されたのは、空が薄曇りに染まったある朝のことだった。
――本日午後、候補生による模擬戦を実施する。参加チームは三組。各チームはスーツ装着の上、訓練用模擬機械兵とのポイント戦を行う。
将人がスーツ適合試験を終えてから一ヶ月が経過していた。
その間、候補生たちは過密なスケジュールをこなし続けていた。
基礎体力を向上させる肉体訓練、スーツ操作の反復演習、訓練用機械兵との模擬戦闘。さらに個人ごとの技能に応じた強化訓練も行われ日々は濃密な緊張と汗に満ちていた。
将人も例外ではなかった。特に夜間は島教官による剣術訓練が続いた。
島教官はかつて前線に立った元スーツ適合者であり、その得物は剣だった。
実戦をくぐり抜けた教官の技はまさに実戦そのものであり将人にとっては一撃一撃が新しい世界への扉のようだった。
この一ヶ月の訓練の中で将人は他の候補生たちとも徐々に親交を深めていた。
神谷翔太と波多野守のペアだ。
神谷は誰とでも打ち解ける明るい青年だった。
軽口を叩きながらも状況判断力や反射的な対応力には目を見張るものがありどこか天性の戦いの勘を感じさせた。
「この訓練スーツ、着心地最悪! 軽く見えて実は罰ゲームかっての!」
そんな調子で、厳しい訓練中にも雰囲気を和ませる場面が多く、皆に好かれていた。
ただし、神谷には危うさもあった。
直感的な動きを好むがゆえに慎重さを欠くことがあったのだ。
その分パートナーである波多野の存在が光った。
波多野は寡黙で常に冷静だった。
神谷の突飛な動きを黙って見守りつつ必要があれば即座にフォローする。
言葉は少ないが行動のひとつひとつから強い責任感がにじみ出ていた。
将人はそんなふたりのバランスに感心していた。
どちらが欠けても成り立たない。
それが彼らのコンビの魅力だった。
模擬戦の通達が下った日、候補生たちはそれぞれのスーツに身を包みブリーフィングルームに集まっていた。
「ポイントは二点先取。訓練用の模擬機械兵を相手に各チームでポイントを競う。今回は四体の機体が用意されている。連携、判断、冷静さ、全部試される。 真剣にやれ。死ぬ気でやっても死なない、それが模擬戦だ」
島教官の声はいつも通り平静だったが彼の眼差しにはどこか鋭いものが宿っていた。
将人は隣に立つ澪に目を向ける。
「……ついに来たな模擬戦」
「大丈夫。将人ならきっとやれる」
澪は静かに、それでいてしっかりとした声で言った。その眼差しは真っ直ぐだった。
そこへ北条と柚月が現れる。
「おい石田。調子はどうだ?」
「まあ、悪くはない。そっちは?」
「準備は万全よ。ね、北条くん?」
「ああ。あとは始まるのを待つだけだ」
さらに明るい声がブリーフィングルームに響いた。
「よーっし、俺たちも準備OK! なあ、波多野!」
神谷が笑顔でヘルメットを片手に現れ隣にはいつものように無表情な波多野がいた。
「また整備班に文句言ってたらしいな」
「文句っていうなよー。俺たちの命、スーツにかかってるんだぜ? 排熱システムの調整がズレてたら、蒸し焼きになるとこだったんだからな!」
「……確かに。あれは問題だった」
波多野が短く頷くと神谷は得意げに笑う。
「見ろよこの完璧な連携プレイ。俺が騒いで波多野がまとめる! 最高だろ?」
「波多野、いつもご苦労さま」
将人が笑いながら声をかけると神谷はふんっと胸を張った。
「まあな! けど今日のMVPは俺たちがもらう予定だからよろしくな!」
「フラグ立てるなよ神谷」
「フラグじゃなくて宣言! 明るく楽しく、そして華麗に勝利ってやつさ」
三チームはそれぞれ装備の最終確認を済ませながらスタンバイに入った。
模擬戦は三チーム同時に開始される。
各チームが別々のルートから模擬機械兵に接触し、より早く撃破することでポイントを競い合う。
「全チームスタート準備」
訓練官の指示が飛ぶ。
将人はヘルメットの内側で目を閉じ深く息を吸った。
(この一ヶ月の成果を見せてやる)
続く。




