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第7話『模擬戦 ―交差する想いと決意―』将人&澪視点

濃い霧が土と岩の匂いを含んで低く垂れ込めていた。


 訓練区域の西側、なだらかな起伏が続く丘陵地帯。


 雑草に覆われた地面には瓦礫や折れた木材が点在し、他の候補生たちが展開しているであろう岩場や雑木林とはまるで様相を異にしていた。


 将人は丘の中腹に位置を取り、慎重に視線を走らせていく。


 その斜め後ろ、澪が一定の距離を保ちつつ警戒と索敵を補佐していた。


 互いの役割は既に理解し合っており、声を出さずとも呼吸が合う。


 息を殺し、足音すらも地面に吸わせるように静かに動く。


 将人の目が瓦礫の影や木の幹の隙間を鋭く捉える。


 澪の弓もいつでも射てるよう構えられていた。


 風の音が木々の葉を揺らし、霧の中からは時折、機械の軋むようなノイズが混じる。


 湿った地面がブーツの下で鈍く沈み、呼吸すら控えるほどの静寂が辺りを包んでいた。


 そんな最中、澪がわずかにヘルメットを傾けた。


「……通信が入った。撃破確認。1点目──神谷&波多野ペア」


 将人の足が止まる。視線が斜面の先から一瞬逸れる。


「さすがだな……あの二人ならやると思ってた」


 神谷は実力も人柄も申し分ない優秀な同期だ。波多野もまた冷静な判断と鋭い観察力で神谷を支えていた。将人にとって目指すべき“完成されたチーム”のひとつだ。


 だが、それでも。心のどこかがざわつく。背中を押されるような焦りが胸に忍び寄ってきた。


「でも……このままじゃ差をつけられるな」


「焦らないで。私たちは私たちのペースで行くの」


 澪の静かな声が感情の揺れを打ち消すように響いた。澪の目は変わらず前を見据え、揺るがない意志がそこにある。


「ああ……分かってる」


 将人は深く息を吸い、感情を押し込める。そして視線を前方の丘陵へと移した。


 やがて斜面の頂上付近に到達したとき──


「いた。斜面下部、訓練機体」


 澪の声と同時に弓が構えられる。


 風を裂いて放たれた矢が機械兵の頭部を狙うが──直前で機体が動いた。


 矢は空を切り、敵は即座にこちらへと向きを変える。


 斜面を駆け上がってくる機体。その動きは通常の訓練用とはいえ油断できない鋭さだった。


「来る!」


 澪が次の矢をつがえる間もなく、機体の鋼の腕が迫る。


 その瞬間、将人の体が反射的に動いた。


 金属音が響く。将人の刀が衝撃を受け止め、澪をかばう形となる。


 想像以上の重みに腕が軋んだ。だが、澪を傷つけさせまいという一心でその刃を押し返す。


「無事か?」


「……助かった」


 その一言に将人はすぐ戦況へと意識を戻す。機体は一瞬の隙を逃すまいと動いてくる。


 澪は素早く距離を取った。心拍数が跳ね上がっている。反応が遅れた自分への苛立ちと、目の前で庇ってくれた将人の姿が脳裏に焼きついたことへの動揺が胸の奥で交錯する。


 だが今は、戦いに集中する。


「動き止める、任せて!」


「落ち着け……狙える。」


 一度深呼吸をし、澪は矢羽に指をかけた。


 機体の動きに意識を集中する。距離、角度、風向き──


 霧が揺れ、機体の金属音だけが際立って響いた。


 (……外さない)


「今だ!」


 将人が力強く叫ぶと同時に、駆け抜けた。


 矢が放たれる。鋭い音と共に、EMPの閃光が霧の中に走った。


 EMPを仕込んだ矢を放つ。命中。機体の駆動音が一瞬だけ止まった。


 上段から振り下ろした渾身の一撃。


 機械兵が火花を散らして崩れ落ちた。


「撃破確認。1点目、将人&澪チーム」


 澪が冷静に報告を入れる。その声に呼応するように将人は肩で息をしながら刀を下ろした。


 澪が将人に歩み寄ると小さく息をついた。


「……その、さっき……ありがとう。助かったわ」


 わずかに言い淀んだその声は普段の澪にはない硬さを帯びていた。


「お互いさまさ。……でも危なかったな」


「ええ。気をつける」


 将人は口元を緩めた。


「……怪我ひとつでもしたら、後味悪いからな」


 澪は斜め下に視線を落とす。何か言いたげに口を開きかけて、結局そのまま押しとどめた。


「……行きましょう」


「二体目を探しに行こう」


「ああ、気を抜くなよ」


 訓練とは思えない静寂の中でもう一体の“敵”を探す旅が始まる。


 ──だが彼らはまだ知らない。  この霧の向こうに潜む想定外の“存在”を。

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